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畜産人として知っておきたい人獣共通感染症の知識 そのU
茨城県獣医師会 会員 諏訪 綱雄


 前回は人獣共通感染症の概要について説明したが,今回はそのUとして,これらの感染症に罹りやすい職業や,最近特に注目されている新しい人獣感染症についてお知らせする。

 感染のハイリスク職業
 人獣感染症の感染ルートは,感染動物からの直接接触による場合と,ある種の昆虫等の生物を介して感染するルートがある。直接の場合には,糞尿等に含まれる病原体への接触や咬傷,引っ掻きによるものか,あるいは間接的に蚊,蚤,ダニ等の生物によっておこる間接的感染が考えられる。しかもこれらの病原体の伝播は,感染動物と人との距離によってその感染態度が大きく違ってくる。常に動物と近い距離にある獣医師,家畜の飼育者,ペットショップの飼育者等は,特にその感染の危険性が高いとされている職業である。
 人獣感染症に感染する危険性の高いのは,動物に接触する機会の多い職種によって左右されることは事実である。もっとも危険性の高いのは,日常動物の病気と係っている獣医師で,動物の感染症の治療や分娩の介助等の際には,そのリスクが高いとされている。また,ペットショップの飼育管理者もその危険性が高く,特に野生に生息していたエキゾチック動物からの感染が考えられるし,その他動物と接触することの比較的多い職業としては食肉処理業,動物や感染症研究者,害虫・害獣駆除業等の職業が挙げられる。勿論のこと家畜の飼育者もウシ,ブタ,鶏も幾種類の 人獣感染症を保有していることがあることを忘れてはならない。そのため家畜の飼育者は,自分を人獣感染症の感染から守るためにも,次の事項については常に心がける必要がある。その為に,まず家畜飼育環境の清浄化と飼育家畜自体の健康管理,定期的なハエ,ダニ,蚊等の駆除対策,飼育畜舎の清浄管理を心掛け,畜舎への出這入りには,消毒の励行等自分自身も常に清浄化に努めることが大事である。


 新興感染症
 近年,エボラ出血熱やエイズのように突然に人の世界に出現して,新たな脅威的な感染症として出てくるものがある。いずれも野外の動物を媒介して感染を起こす新しく発見された感染症である。新興感染症は,人間社会現象の変化に伴って起こってきているようで,例えば食品の流通とか地球の温暖化,開発による環境要因の変化あるいは,戦争による自然破壊,人口の増加による都市化等様々な要因によって出現することが証明されている。もっと新しいものとしては,サーズとか鳥インフルエンザなどが知られている。
(1)変異型クロイツフェルト・ヤコブ病
   この病気は,従来から知られていたクロイツフェルト・ヤコブ病とよく似ている点があったが,1996年にイギリスで変異型クロイツフェルト・ヤコブ病vCJDとして報告され,牛海綿状脳症(BSE,いわゆる狂牛病)が原因とする異常プリオンが原因とされることが判明した。この病気の原因となったプリオンという物質は,高温による処理や消毒薬等の化学剤にも抵抗して,その感染性を失わないとも言われている。そしてヒツジスクレピーの異常プリオンが牛のBSEに,さらに人へと感染が世界中に広がっていった,まさに人獣感染病である。最近北アメリカの野生のヘラジカの間にプリオン病と思われる慢性消耗病という病気が広がっている,と言われているので注意する必要がある。
 羊 ⇒ 牛・豚 ⇒ 人
(2)AIDS( エイズ)
 エイズの原因となるヒト免疫不全ウイルス(HIV)は,アフリカの野生の猿オナガサルの間にあったものが,人への感染病として発生し,長い間アフリカの限られた地域だけで風土病として流行していたものだった。その後,人の移動とともにアフリカの都会に,さらに世界各地に広がり現在では,最も脅威的な人獣感染病として注目されている。
  猿 ⇒ 人 ⇒ 人
(3)インフルエンザ
 高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)は,鶏や豚等で突然変異を起こし,人にも感染するような強い病原性を持つようなタイプに変化することが知られている。我が国でも2004 年1月に山口県内で,同2月に京都府,そして茨城県でも発生し,大きな被害を起こした。幸いにも我 が国では,人への感染はなかったものと思われる。
 鳥 ⇒ 鳥・豚 ⇒ 人
(4)ニパウイルス髄膜炎
 オーストラリアや東南アジア地域でオオコウモリを,固有宿主とする病原体のニパウイルスで,狂犬病ウイルスに似た症状を引き起こす恐ろしい感染症である。このウイルスは,蝙蝠から馬に感染し,ウマから人に感染が起こったとされている。日本でもオオコウモリは琉球列島地域に生息が知られているので,注意しなければならない。
 蝙蝠 ⇒ 馬 ⇒ 人
(5)ウエストナイル熱
 この感染症は元来鳥類の病気で1937年にアフリカのウガンダ地域のウエストナイル州で初めて発見された。特にカラスは感染するとウイルスの増殖が激しく,感染したカラスや鳥類に感染し,さらにウイルスは蚊によってと媒介され,それが人へと感染を起こすとされている。1999年の夏に突然アメリカのニューヨークに発生したものが,2002年では全米に感染が広がっていった感染力の激しい病気として恐れられている。ニューヨークに突然この病気が出現した原因は未だに分かっていない。
 鳥 ⇒ 蚊 ⇒ 人
(6)重症急性呼吸器症候群(サーズ)
 2002年に中国広東省の農協職員が発症したのが最初とされている。翌年2月に中国からの旅行者であるアメリカのビジネスマンが,シンガポールに向かう航空機の中で肺炎に似た重症の症状を呈したため飛行機は急遽ベトナムのハノイに着陸,ハノイ病院でこの旅行者は死亡した。しかし,この病院で看護や治療を担当した医師,看護師も同様の症状を発したことによって,重大な感染病として取り扱われたのが始まりである。この病気は,さらに中国,香港,台湾,カナダ,シンガポール等の各国に流行する事態になった。
 この病原体のコロナウイルスは,当初ハクビシンが宿主と思われていたが,最近になってキクガシラコウモリが保菌者であることが判明した。
 コウモリ ⇒ ? ⇒ 人
  (7)重症熱性血小板減少症症候群(SFTS)
 最近,宮崎県,愛媛県,山口県の九州・四国・中国地方で,野山に生息するマダニを介してSFTSウイルスの感染による重症熱性血小板減少症症候群がニュースの話題になっている。この原因となっているSFTSウイルスは,以前から知られていた中国で発生しているウイルスと遺伝子型が 異なっているので,日本特有のウイルスであろうとも言われている。この地方に生息するフタトゲチマダニがこのウイルスを保有しているとされている。この病気の症状は,38度以上の発熱,吐き気,下痢などの風邪に似た症状で重症化すると,血液中の血小板や白血球が減少し,皮下出血等の症状がみられ,最悪の場合には,多臓器不全で死に至るという。
 野生動物 ⇒ フタトゲチマダニ ⇒ 人