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「医療分野での利用が期待される高脂血症モデルブタの試験」
茨城県畜産センター 養豚研究所 育種研究室


 はじめに
 皆さんは「ブタ」と聞くとはじめに「豚肉」を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし,肉以外にもブタは様々な形でヒトの役に立って います。
 ブタは生理学的,解剖学的そして遺伝的にもヒトに似ています。そのため,食用以外に実験用動物として利用されてきました。近年,体細胞クローン技術と遺伝子組換え技術との併用により特定の遺伝子を導入した(Transgenic)ブタ(TGブタ)の作出が可能となり,医療分野でのモデルとしての利用が期待されています(図1)。
 さて,日本人の2/3は生活習慣病によって亡くなっており,その改善が課題となっています。生活習慣病の一つに脂質異常症(高脂血症)があります。これは血液中の脂質が多過ぎることで,血管の内側に脂質がたまって動脈硬化となり,やがて心筋梗塞や脳梗塞を引き起こします。
 独立行政法人農業生物資源研究所ではヒトの高脂血症の治療や予防薬の開発に役立てるため,遺伝子組換えにより高脂血症のブタ(高脂血症モデルブタ)を作出しました。






 試験概要
 当所では高脂血症モデルブタを実験用動物として利用しやすくするために,以下の改良試験を行っています。
1 小型化
 高脂血症モデルブタは体重が100s以上になるため,力も強く,広い飼育スペースも必要となります。そこでミニブタ(半年で24s前後)と交配させ雑種をつくり,交配を繰り返すことで,小型になるように改良します。
2 遺伝子のホモ化
 高脂血症モデルブタをミニブタと交配することで,生まれてくる子ブタは高脂血症の遺伝子を半分しか持っていない(ヘテロ型)または全く持ってない(野生型)場合もあります。これらの個体を選抜・再交配することで,遺伝子を完全にもっている個体(ホモ型)だけを残し,ホモ型のみの集団を作ります。これにより,高脂血症の遺伝子を確実に後代に伝えることができます。
3 雄性ホルモンの低いブタの選抜
 医薬品の開発に際してはテストステロン(雄性ホルモン)が高いと問題が生じます。そのため,なるべく血中のテストステロンが低い個体を選抜する必要があります。


 これまでの成果
 現在までの高脂血症モデルブタの雑種同士の繁殖成績を表1に示しました。子ブタの生まれた時の体重(生時体重)は0.76s程度で,一般的な子ブタの生時体重の半分程度です。現在までに,19頭の遺伝子型検査及び選抜を行った結果,遺伝子型がホモ型の雄ブタ1頭を将来の雄ブタとして育成することとしました。











 期待される効果
1 高脂血症モデルブタの維持・保存技術の確立が図られます。
2 高脂血症モデルブタを医療分野で利用することにより脂質異常症の新たな治療法および治療薬の開発に貢献ができます。
3 医農連携により,これからの畜産における新たな産業創出の可能性を広げることができます。