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機能性添加物の給与が初産牛の繁殖成績に及ぼす影響
茨城県畜産センター 飼養技術研究室 鬼澤 直樹


 はじめに
  乳牛では,泌乳能力が飛躍的に向上した反面,繁殖成績は年々低下しています。茨城県内でもここ10年で乳牛の分娩間隔は431日から440日へと長期化しており,生産性向上の妨げになっています。
高泌乳牛の分娩間隔延長の原因は,様々ですが,栄養面では@酸化ストレス,Aエネルギー不足,Bルーメン異常発酵等が挙げられます。これらの原因は,酸化ストレスの低減や十分な養分給与,給与飼料構成の調整等により回避可能と考えられています。
そこで,乳用初産牛における泌乳能力を最大限発揮させつつ,繁殖性を改善する栄養管理技術の開発を目指した研究を実施しましたので,その結果を紹介します。
 なお,本研究は, (独)農研機構畜産草地研究所 を中核機関とした共同研究として,当センターも参画し試験を実施したものです。


 酸化ストレスと繁殖成績
  乳牛において,乳生産に必要なエネルギーを確保するため,代謝が活発に行われます。これに伴い,活性酸素が大量に生産され,酸化ストレスとなって細胞を損傷します。結果として,子宮や卵巣などの生殖器官が酸化ストレスに曝され,これが繁殖成績の低下の要因のひとつとも考えられています。
 今回の試験では酸化ストレスを低減させる抗酸化機能を有する物質としてビタミン(A,E)およびセレン,アスタキサンチンに着目し,これらの給与による繁殖成績への影響を検討しました。


 試験概要
  試験は,7県で計52頭の初妊牛を用いて実施しました。給与飼料は,分娩前6週間は移行期用飼料を,泌乳期には,チモシー乾草,アルファルファヘイキューブおよび濃厚飼料からなる飼料を給与しました。また,添加剤としてビタミンB群プレミックスを与えました。
試験区は,対照区飼料をベースとし,添加する抗酸化機能性物質により,表1に示す区を設定しました。
 ビタミンB群プレミックス中には,ビタミンA,Eが含まれており,ビタミンA・E区,セレン区では抗酸化機能性物質の増給による効果を検討したことになります。

表1
 試験結果
各区における繁殖成績について図1に示しました。
 初回排卵日数,発情回帰日数については,抗酸化機能性物質を給与した区で短い傾向があり,特に発情回帰日数については,対照区に比べアスタキサンチン区で良好な結果が得られました。また,分娩後受胎までの日数は,アスタキサンチン区で短くなる傾向があり,他区に比べ分娩間隔が短縮されました。
 黄体ホルモン(P4)濃度の推移を観察すると,アスタキサンチン区では,初回排卵5日後にセレン区,ビタミンA・E区より高い結果となり,卵巣機能が早期に回復していることが推察されました(図2)。また,分娩後24週までの受胎率についても,アスタキサンチン区で良好な結果が得られました。
 この他,一日あたりの乾物摂取量及び乳量は,いずれの区においても良好に推移し,今回用いた抗酸化機能性物質の給与による採食性,乳生産性への影響はみられませんでした。




 まとめ

  初産牛ではアスタキサンチンの給与で分娩間隔の短縮など,繁殖成績の改善効果が期待できることが明らかとなりました。一方,ビタミンA・E区,セレン区においては,アスタキサンチン区ほど明確な繁殖改善効果は得られませんでした。これは今回の試験ではすでにそれぞれの要求量が満たされた状態であり,増給では明確な効果が得られなかったためと考えられます。
 アスタキサンチンは健康食品や化粧品等の素材としても注目されており,カニなどの甲殻類やサケの赤色色素に含まれる物質です。強力な抗酸化能を持っており,その力はβカロテンやビタミンEよりも強力です。今回の試験では,比較的手ごろな価格で入手しやすいファフィア酵母由来のアスタキサンチンを用いましたが,その給与により繁殖成績の改善につながる成果が得られました。ただアスタキサンチンの作用機序についてはまだ不明な点もあり,乳牛の繁殖成績の向上技術が確立したという段階にはありません。今後も,牛の健全性を高め,繁殖成績を向上させる研究・技術開発に取り組んでいきたいと考えています。