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地鶏の遺伝子ホモ化に伴う不良形質発現抑制に関する試験研究 |
茨城県畜産センター生産技術研究室 |
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日本在来種を親鶏(両親または片親)とする地鶏は全国各地で飼養されていますが,同じ品種であってもその地方のニーズに合った独自の優れた性質を保有していることが特徴で,それらの性質を保持しながら安定的に地鶏を生産・供給するために遺伝的能力が均一な種鶏群を維持する必要があります。
茨城県では銘柄地鶏“奥久慈しゃも”の能力を保持するため長年閉鎖群(他の系統とは交配せず一定の能力を持つ鶏群の中で交配を繰返す飼養方法)で原種鶏を維持していますが,このような飼育手法は優れた遺伝的能力を保持できる一方,好ましくない性質の遺伝子についても群の中で固定化され不良形質として現れてくる欠点(近交退化)を併せ持っています。 そこで閉鎖維持群での不良形質発現を抑制する交配方法,飼養技術を開発するため奥久慈しゃもの原種鶏であるJ系シャモについて凍結精液等を用いた交配試験を開始しました。 ![]()
20年前および5年前に採精,保存したJ系シャモの凍結精液を人工授精により当センターで現在飼養しているJ系シャモ維持群の雌鶏と交配し,生産された次世代鶏の遺伝的多様性や近交退化パラメーターを調査するとともに,3つの交配試験区(A区:世代毎に雄を交換して交配,B区:凍結精液由来種鶏を中心として群内羽数を増加,C区:対照区)を設けて平成23年度より4世代の交配を繰り返し,各区における遺伝的多様性等の世代変化を調査して近交退化の発現を抑制する飼養技術を検討します。
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1 凍結精液の活用
20年前に当センターにて飼養していたJ系シャモより採精,作成しジーンバンクにて保存中の凍結精液と5年前に採精,作成し当センターにて保存中の凍結精液を人工授精に用いました。 2 近交退化パラメーター 受精率,ふ化率,精巣重量をパラメーターとして調査します。 3 遺伝的多様性 28種類のマイクロサテライトマーカー(DNA反復配列)により鶏群内の対立遺伝子数およびヘテロ接合率を調査して遺伝的多様性の指標とします。 4 交配試験 3つの交配試験区を設け,それぞれの試験区における近交退化パラメーターと遺伝的多様性の世代変化を比較解析します(図1)。 5 近交係数上昇シミュレーション 飼養羽数をベースとした計算式にて近交係数上昇割合を推定します。 ![]() ![]()
1 凍結精液の活用 20年前に保存した凍結精液より雌2羽を生産し,さらにこれら2羽より雄19羽,雌15羽を生産して現在試験区Bにて飼養中です。また,5年前の凍結精液により雄20羽,雌25羽を生産し試験区A(雄のみ)および試験区Bにて飼養中です。 2 交配試験における近交退化パラメーターおよび遺伝的多様性調査 交配試験開始年度となる平成23年度と平成24年度の各試験区における近交退化パラメーター(受精率,ふ化率,精巣重量)およびマイクロサテライトマーカーによる遺伝的多様性(対立遺伝子数,ヘテロ接合率)解析結果を表1に示します。平成23年度は同一鶏群内より試験鶏を分配したため各区とも遺伝的な差異はなく平成24年度は試験区Bで平均対立遺伝子数,平均ヘテロ接合率とも他試験区より高い傾向が見られました。なお,20年前の凍結精液より生産した雌2羽が保有していた5個の対立遺伝子(いずれもヘテロ接合)が対照鶏98羽において検出されなかったことから,20年の間に遺伝的多様性が失われホモ化が進行したこと,また過去に保存した凍結精液を利用することにより失われた遺伝的多様性が回復できる可能性が示唆されました。 3 近交係数上昇割合シミュレーション 各試験区で近交係数上昇割合を計算式によりシミュレーションしたところ,対照群では約3年後に近交係数10%に達するのに対し,雄を交換して交配する試験区Aでは約4 年後,飼養羽数を増加し,凍結精液を利用する試験区Bでは10年後と推定されました(図2)。 ![]() ![]() ![]()
平成27年度まで各交配試験区での飼養試験を継続し,シミュレーションによる近交係数値と比較しながら各区,各世代での遺伝的多様性,近交退化パラメーターの推移を調査して閉鎖維持鶏群の近交退化を抑制できる最適な飼養方法を開発していきます。
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