経営の概要
現代表の鈴木一郎さんは昭和49年に親から継承した繁殖牛2頭を自宅敷地内で飼い始め、その後平成4年に自宅近くに牛舎を建設、繁殖牛を35頭まで増頭した。経営を開始した当初は、子牛を3頭出荷しても50万円程度にしかならず、「とんでもないことを始めてしまったな」と思ったこともあったが、補助事業などを活用して規模拡大を進めてきた。 その後、平成28年6月に法人化し、(株)草木ファームを設立。和牛繁殖を中心に、農作業受託、飼料の販売事業等を行っている。現在の飼養頭数は成雌牛65頭、育成牛40頭である。 エコフィードの取り組みを始めたのは平成19年からで、モヤシかすなどを活用したTMR飼料の給与に取り組んできた。さらに、平成29年は畜産クラスター事業等を活用し、TMR工場を建設した。
「草木のTMR」生産体制の確立
飼料コスト削減を模索している中、平成19年にモヤシかすを利用している酪農経営を視察する機会があった。話を聞くと、飼料費を抑えられ、乳質もよくなったとのことだったので、自身でも繁殖牛を中心に、モヤシかす、稲WCS、乾草を混合した自家配合飼料の給与を実践し、試行錯誤しながら平成23年まで繁殖牛、育成牛への給与を行ってきた。
しかし、平成23年の東日本大震災の影響で、取引していたもやし製造工場からの安定供給ができなくなった。その後新たに茨城県内のモヤシ製造業者を見つけたが、これまでの自家配合を見直すきっかけになった。
その結果、自家配合の飼料に近隣の酒造会社から出るビールかす、粉砕した飼料用米、自家産の稲WCS(品種はたちすずか、たちあおば)を新たに加え、牛の嗜好性やコスト削減に向けた現在の「草木のTMR」生産体制を確立した。
さらに、平成29年11月には畜産クラスター事業等を活用し、TMR工場を整備した。撹拌機(ミキサーフィーダー)、コンベア、コンビネーションベーラーを導入した。これにより、飼料収穫調整能力が向上した。
原 料 | % |
---|---|
稲WCS | 41.5 |
ビールかす | 20.8 |
もやしかす | 17.3 |
デントコーン | 8.7 |
飼料用米(粉砕) | 5.2 |
スーダン | 5.2 |
添加剤(ミネラル等) | 1.4 |
計 | 100 |
エコフィード原料の水分調整
主原料であるモヤシかすは、県内のモヤシの生産とカット野菜の製造会社から入手している。モヤシ原料は、双方の話し合いにより、工場側で水分調整した上でフレコンバッグに真空状態で詰め、利用しやすい形で納入している。また、モヤシ製造会社では飼料原料としてモヤシかすの供給先を巡回し、自主製品の品質等の確認を行っている。
ビールかすは、地ビールを製造している県内の酒造会社から仕入れ、モヤシかす同様、排出側で水分の調整を行ない、水分量を70%程度に原料調整し利用している。
繁殖雌牛(頭) | 46 | 50 | 55 | ||
出生頭数(頭) | 35 | 38 | 43 | ||
去勢牛 | H27年 | H28年 | H29年 | AV | |
---|---|---|---|---|---|
頭数(頭) | 20 | 26 | 27 | 24 | |
DG(㎏) | 0.97 | 0.96 | 0.95 | 0.96 | |
体重(㎏) | 297 | 290 | 295 | 294 | ↑ |
月齢(ヵ月) | 9.4 | 9.1 | 9.18 | 9.2 | ↑ |
販売価格(千円) | 662 | 795 | 737 | 731 | |
雌牛 | H27年 | H28年 | H29年 | AV | |
頭数(頭) | 13 | 5 | 12 | 10 | |
DG(㎏) | 1.05 | 1.06 | 0.99 | 1.03 | |
体重(㎏) | 283 | 268 | 294 | 282 | ↑ |
月齢(ヵ月) | 9.8 | 9.4 | 9.57 | 9.6 | |
販売価格(千円) | 561 | 676 | 645 | 627 | |
上場頭数 | 33 | 31 | 39 | ||
保留 | 2 | 7 | 4 | ||
販売価格(AV)円 | 612 | 736 | 691 | ||
子牛生産率(%) | 76.1 | 76.0 | 78.2 | ↑ |
利用するメリット
従来、繁殖牛への飼料給与は粗飼料(稲わら、乾草)等を主体に、配合飼料と合わせて給与していた。
現在給与している草木のTMRは、飼料成分を適正に配合したトータル飼料として、一つの配合で飼養する牛(子牛は20日齢以降)の全期間で給与することができる。安定した飼料給与が可能で、選び食いができないよう混合されている。
また、トウモロコシや牧草は、供給量が天候や時期に左右されるが、このTMRは年間を通じて安定した給与ができるとともに、嗜好性もよく、飼料費も削減できる。 出荷する子牛についても、これまでは10ヵ月齢で出荷していたが、TMRを給与するようになってからは育ちもよく、概ね9ヵ月齢で上場できるようになった。このことは、早めの月齢出荷を望んでいる肥育農家の要望に応えるとともに、飼料費などの削減にもつながっている。
今後の展開
TMR製造は、設備投資の資金がかかるため、個別での飼料生産は難しいが、飼料収穫調整用機械装置などを導入し、TMR調整が可能になったことから、今後は地域の小規模農家や高齢の生産者などへもTMR飼料を提供し、労力および費用負担の飼料給与体系の普及による地域貢献にも取り組みを進めていく。
これまでTMRの製造は1回に約2.5t(500㎏のロール5本分)を月3回行っていたが、現在は月4回製造し、今後は県内地域の食品循環資源の再利用と地域の畜産農家への普及 も進めていく。