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【特別寄稿】持続可能な畜産経営のために
水田をフルに活用した土地利用型畜産の確立に向けて
茨城県常総市 佐藤 宏弥


 私は茨城県常総市で,ドリームファームの家号で肉用牛の繁殖肥育一貫経営を営んでおります。常陸牛指定生産者として年間約65頭の和牛を東京や茨城の食肉市場へ出荷しています。労働力は私と妻と長男夫婦の4人の家族経営です。長男が飼養管理全般,種付を担当し,嫁が繁殖管理と哺育,私が粗飼料作付,肥培管理,放牧管理などを担当しています。妻はそれぞれを補う形を取っています。飼養頭数は繁殖牛78頭,肥育牛160頭で,繁殖牛は稲WCSなど自給飼料中心に飼養し,妊娠確認した繁殖牛は周年放牧し,牛舎のキャパシティを超える頭数を飼養することが可能となりました。肥育牛の稲ワラは,地域の耕種農家の水田約40haから収集し,一部飼料米のワラも昨年から契約しています。水田を有効活用し,家族経営でも余裕のある規模で,十分な所得を得ることがドリームファームの経営の特徴です。
 ドリームファームのある菅生地域は,利根川と鬼怒川の合流地点に近い遊水地で,戦後に満州大八洲地区から引き揚げた大八洲開拓団により開田されました。多くの開拓者が入植し,農地の開拓とともに乳用牛の飼養を始め,現在では,大八洲開拓農協の組合員65名は,隣接する守谷市を含め17戸が酪農,4戸が肉用牛経営を営んでいます。父が大八洲開拓農協の組合長として組合の仕事に専念していたため,畜産 は私が就農後に開始しました。今考えれば,父がいつの間にか敷いたレールの上を歩いていた気がします。乳雄肥育を行っていた組合員のもとで2年間の研修を経て,昭和51年,20歳の時に乳用種3頭を導入し,育成肥育経営を開始しました。当時は乳雄でも,相場に恵まれ経営が成り立ちました。しかし,規模拡大するにつれ負債も膨らみ,厳しい状況に陥りました。それでも支えてくれた大八洲開拓農協には感謝しております。その後,牛肉輸入自由化に伴い交雑種,和牛一貫と移行してまいりました。最初は和牛の肥育素牛を導入しようと思い市場に通ったのですが,当時は子牛価格が高く,どう算盤をはじいても採算が取れそうも無く,繁殖からやるしか無いとの単純な動機で始まりました。しかし,これもまた技術的にはハードルが高く,いくつもの失敗を繰り返し,悔しい思いを何度したことでしょう。今では良い思い出になっています。
 その後,少しずつではありますが繁殖牛の頭数を増やし30頭程にはしましたが,それ以上の増頭は,粗飼料の確保が難しく,しばらく出来ませんでした。そこに,当時始まったばかりの飼料稲をいち早く導入し,耕畜連携による取組みを開始しました。飼料稲の利点は,粗飼料確保の意味合いもありますが,水田でありながら,多くの堆肥を還元できるところにあります。土地利用型畜産の足掛かりが,ここで出来た気がします。更なる規模拡大を目指し,農研機構の試験研究「稲WCSを利用した繁殖牛の周年放牧」に参加し,千田雅之先生の指導の元,周年放牧に着手しました。立毛放牧や放牧地での稲WCSの給与により,草のない冬場の放牧が 可能になりました。耕作放棄地への放牧にも試み,景観がよくなり,枯れ草による火災の心配もなくなったことで地元住民からも喜ばれました。周年放牧により飼養管理や収穫運搬作業が低減され,50頭規模の繁殖牛舎でも,一時は95頭まで増頭が可能になりました。繁殖牛にとっては,自然に近い状態で飼養されることが理想で,放牧から帰ってくると見違えるほどのコンディションになっています。それまであった虚弱児や異常産がほとんど無くなったのも,放牧の効果ではないかと思っています。早期母子分離技術を取り入れ,母牛の発情回帰も早まり,子牛の育成も,思うような形になっています。一貫経営は素牛を導入する必要がないので,ストレスをかけずに肥育に入れます。早い時期から腹造りが出来るのも一貫経営の強みではないでしょうか。最大のメリットとして,母牛の能力を把握できる所にあります。結果として,脂肪交雑に限らず,色々な面で改良が進みます。我家の場合,ほぼ全頭の育種価が判明しており,改良の速度が一般の繁殖よりも早くなります。
 現在,子牛価格が高騰し肥育農家も悲鳴をあげています。それぞれの農家がコストを下げるべく努力をしています。私が水田を活用しながら考えたことは,「牛舎を持たずして繁殖牛が飼えるのではないか」ということで,実際にその手ごたえを感じています。肥育農家がやらずとも耕種農家の副業として成り立つと思っていま す。それには生後3カ月程での流通が必要となも必要になりますが,耕種農家にとっても米価低迷の中,活路を見いだせるのではないかと思っています。これから畜産を目指す若者達にも,初期投資がわずかで済み,取り組みやすい仕事だと思います。私のまわりにも繁殖経営を志し歩き始めた若者が何人かおります。一朝一夕に は成り立たない仕事ではありますが,失敗をおそれず果敢に挑戦してほしいと思っています。「障害は,挑戦する者にとってのカンフル剤」それを乗り越えて,少しずつではありますが,成長進化していきます。我家の息子も就農当時BSEに直面し,厳しい状況に陥りました。しかし,その経験が彼を少し大人にした気がします。前を向いて歩いていれば,必ず手を差しのべる人もいるでしょう。進む道を示してくれる人も,現れるはずです。最後に畜産を志す若者たちにエールを送り,ペンを置きたいと思います。