はじめに
畜産農家の経営安定を図る上で飼料自給率の
向上は最も重要な課題です。自給飼料の中でも
水田で安定的に生産できる飼料用米は,水田の
機能を維持しつつ生産可能な自給飼料として注
目されており,近年各地で取り組みが進んでい
ます。現状では,飼料用米を鶏や豚に給与して
高付加価値畜産物を生産している事例が多く見
受けられますが,量の確保ができれば反芻家畜
に対してもトウモロコシなどのデンプン源の代
替物として利用が進むものと考えられます。こ
こでは乳牛への飼料用米給与技術の確立に向け
て当センターで実施した,泌乳牛に配合飼料の
一部を玄米で代替給与して得られた試験結果に
ついて紹介します。
試験概要
ホルスタイン種泌乳牛(泌乳中後期:試験の
平均分娩後日数104〜234日)を用いて飼養試
験を行い,産乳成績や血液性状,ルーメン液性
状を調査しました。
本試験における飼料の給与は,混合飼料(ト
ウモロコシサイレージ,配合飼料,アルファル
ファヘイキューブ,ビートパルプ)と配合飼料
(対照区)または玄米(5mmのメッシュで粉砕)
(試験区),エン麦乾草,アルファルファ乾草を
分離給与の形で行いました。試験区における玄
米の給与は飼料全体に含まれる配合飼料の20〜80%を代替する形で実施し,玄米への代替
で減少するタンパク含量は,乾草全体における
アルファルファ乾草の割合を高めることで補正
し,各区の栄養価が同程度となるように給与量
を設定しました。
試験結果
乳量は飼料用米での代替率が50%までであれ
ば対照飼料と遜色ない産乳成績が得られました
(表1)。また乳成分やルーメン液のpH,血液
性状は対照飼料と顕著な差がない(表2)こと
から,牛の健康状態へも大きな悪影響は無いも
のと考えられます。しかしながら,給与飼料全
体の配合飼料のうち80%を飼料用米に代替す
ると乳量の低下(表3)や,乳中尿素窒素(MUN)
および血中尿素窒素(BUN)の低下がみられ
ました。
今回の試験で用いた飼料設計をモデルに飼料
用米の代替による飼料費を試算したところ,配
合飼料の50%を粉砕した飼料用米に代替する
と1頭あたり40円/日の削減が可能であると
考えられました。
まとめ
以上のように,平均乳量22〜26kg/日程度
の泌乳中後期牛に対しては,飼料全体の配合飼
料の一部を粉砕した飼料用米で代替しても,産
乳成績や牛の健康状態には悪影響を及ぼすこと
なく利用可能であることが示されました。飼料
用米はトウモロコシと同等の栄養価を持つこと
からデンプン源としての代替は可能ですが,配
合飼料を単純に代替えすると,タンパク質が不
足するため,適切な飼料(大豆粕など)による
補給が必要となります。
今回の試験では,飼料用米を利活用して産乳
量を維持したまま低コスト乳生産が可能である
ことが示されました。しかしながら,飼料用米
を乳牛に給与する際は加工処理を行わないと消
化率が低下するため,利用にあたっては粉砕,
圧ぺんなどの加工処理が不可欠なので注意が必
要です。
表1 粉砕玄米による濃厚飼料代替試験の産乳成績
|
20%代替試験 |
50%代替試験 |
対照飼料 |
玄米20%代替 |
対照飼料 |
玄米50%代替 |
乳量(kg/ 日) |
26.3 |
26.2 |
22.1 |
21.6 |
乳成分 |
|
|
|
|
脂肪(%) |
4.53 |
4.27 |
4.16 |
4.11 |
無脂固形分(%) |
8.97 |
8.77 |
8.66 |
8.70 |
タンパク質(%) |
3.53 |
3.35 |
3.32 |
3.29 |
乳糖(%) |
4.44 |
4.42 |
4.37 |
4.38 |
表2 粉砕玄米による濃厚飼料代替試験(代替率50%)のルーメン液性状注1) と血液性状
|
対照飼料区 |
玄米飼料区 |
0時間 |
4時間 |
0時間 |
4時間 |
ルーメン液性状 |
|
|
|
|
pH |
7.26±0.13注2) |
6.91±0.45 |
7.30±0.30 |
6.90±0.25 |
血液性状 |
|
|
|
|
ヘマトクリット値(%) |
28.1±1.5 |
28.8±1.6 |
28.5±1.5 |
28.4±1.8 |
グルコース(mg/dl) |
70.8±4.2 |
62.5±5.0 |
69.6±2.9 |
61.5±4.4 |
尿素窒素(mg/dl) |
9.1±1.2 |
9.4±2.1 |
8.4±1.4 |
10.0±1.8 |
総蛋白(mg/dl) |
7.8±0.6 |
7.5±0.8 |
*7.2±0.6 |
7.4±0.8 |
注1)血液およびルーメン液は各試験期の最終日の飼料給与前(0 時間)とその4 時間後(4 時間)に採取。
注2)数字は平均±標準偏差 *:同一時間における区間に有意差あり(P<0.05)
表3 粉砕玄米による濃厚飼料
代替試験(代替率80%)の
産乳成績
|
対照区 |
試験区 |
乳量(kg/ 日) |
26.0 |
22.4 |
脂肪(%) |
3.84 |
3.73 |
無脂固形分(%) |
8.58 |
8.40 |
タンパク質(%) |
3.15 |
3.07 |
乳糖(%) |
4.29 |
4.32 |
表4 飼料用米での代替による飼料構成および飼料費
|
給与量(kg/ 頭・日) |
費用(円/ 頭・日) |
対照区 |
試験区 |
単価(円/kg) |
対照区 |
試験区 |
配合飲料 |
8 |
4 |
40 |
320 |
160 |
粉砕玄米 |
0 |
4 |
30 |
0 |
120 |
トウモロコシサイレージ |
7.5 |
7.5 |
10 |
75 |
75 |
アルファルファヘイキューブ |
1.75 |
1.75 |
44 |
77 |
77 |
ビートパルプ |
1.75 |
1.75 |
45 |
79 |
79 |
アルファルファ乾草 |
2 |
6 |
45 |
90 |
270 |
エン麦乾草 |
7 |
3 |
45 |
315 |
135 |
ビタミン・ミネラル混合 |
0.058 |
0.058 |
20 |
1.16 |
1.16 |
合計 |
28.058 |
28.058 |
|
957 |
917 |
注1)粉砕玄米の単価は30円/kgとした
注2)購入飼料は直近の価格とした
注3)自給飼料は茨城県畜産経営技術指標を基に算出した
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