はじめに
近年、一戸あたりの家畜飼養頭数の増加に伴い、どうしてもたい肥が飼料畑に過剰に投入される傾向にあります。このような畑で飼料作物を栽培すると、硝酸態窒素やカリウムが植物体に高濃度で蓄積することがあり、牛への影響として硝酸塩中毒や低カルシウム血症の発生、ひいては農家経営への悪影響が懸念されます。
このような現状から、飼料作物中の硝酸態窒素やカリウムが過剰にならないような栽培利用方法の指導もされていますが、より安全性を高めるために、これらの成分を蓄積しにくい品種の育成も望まれていました。
以上の背景から、茨城県畜産センターでは(独)農研機構・畜産草地研究所、雪印種苗株式会社と共同で試験に取り組み、硝酸態窒素とカリウムの蓄積が少ないイタリアンライグラス「優春」(ゆうしゅん)を育成しましたのでここに紹介します。

優春の草姿(左:優春、右:タチワセ)
「優春」の特性
「優春」は4月下旬〜5月上旬に収穫適期を迎える早生品種で、ワセアオバやタチワセと同じ熟期です。
当センターにおける過剰施肥条件下での硝酸態窒素の蓄積程度を図1に、カリウムの蓄積程度を図2に示しました。「普通種」(コモン)の含量を100としたときの含量比で示しています。「優春」は他の市販品種や普通種よりも硝酸態窒素が約10〜30%程度、カリウム含量は平均して約10%程度、それぞれ低くなっています。なお、これらについては、土壌、気象条件が異なる畜産草地研究所(栃木)や雪印種苗研究農場(千葉、宮崎)における試験でも同様の結果がでています。
図1 イタリアンライグラス早生品種の硝酸態窒素含量の品種間差 茨城県畜産センターにおける2006、2007年の春1番草の結果の平均(普通種は2007年のみ)。 A〜Gは市販早生品種
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図2 イタリアンライグラス早生品種のカリウム含量の品種間差 概要、品種は図1と同じ
その他、「優春」は早生品種の中で多収とされるワセアオバやタチワセとほぼ同等の収量性を有している他、耐倒伏性は極強品種のニオウダチに匹敵します。加えて、他の早生品種と比べて乾物率がやや高いという特性も持ちますので、他の早生品種と同様、もしくはそれ以上に収穫調製しやすい品種です。
利用場面と栽培上の留意点
このように「優春」は硝酸態窒素、カリウム含量が低く、その他の特性も優れている品種ですので、従来からイタリアンライグラスを栽培している農家の方はもとより、現在冬作の作付をしていない酪農家や和牛農家の方にも利用を検討していただければと思います。
留意点としては、「優春」を使うことによって、どのような栽培条件下でも、硝酸塩中毒、低カルシウム血症を回避できるレベルまで硝酸態窒素、カリウム含量を低下できるということではなく、あくまで従来品種と比較した場合の「相対的な」低減ということです。実際に利用する際には、土壌分析に基づく施肥量やたい肥投入量の調整と飼料分析によるサイレージ中の硝酸態窒素含量のチェックをあわせて行うことが、「優春」の特性を活かしていただく上で、またたい肥の有効利用と良質自給飼料の安定生産を両立させる上でも、重要です。
最後に
「優春」は家畜に有害な硝酸態窒素、カリウム含量が少ないという、新しい観点で育成された日本初の品種です。「作りやすく、牛に優しい」本品種が、輸入飼料価格が高騰している現状において農家経営の安定に寄与することを期待しています。なお、「優春」は今年秋から販売を開始する予定です。
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