○はじめに
近年,乳牛の能力が向上し,305日乳量で10,000kgを超える牛の割合が高く,牛群検定の平均乳量においても9,000kgを超えています。そして,多くの牛が乾乳間近(分娩予定日の60日前)でも20s〜30kgの乳を生産している状態です。しかし,飛躍的に乳牛の能力が向上しているのにもかかわらず,乳牛の乾乳期間は従来から60日間が最適といわれているため,この時期での乾乳処理が一般的に行われています。
乾乳期間を40日間に短縮,あるいは乾乳期間を設けず泌乳期間を延長した場合,その乳期の乳量が増加すると考えられます。しかし,短い乾乳期間は次乳期の乳量を減少させるといわれており,全体として乳量が増加するかは明確でありません。そのため,乾乳期間を40日に短縮,あるいは乾乳期間を設けない管理が乳生産性に及ぼす影響を検討しました。
○方 法
(1)試験期間
分娩予定日60日前〜分娩後305日目まで
(2)試験区
60日区 分娩予定日の60日前に乾乳
40日区 分娩予定日の40日前に乾乳
0日区 乾乳せず期間を通して搾乳
(3)飼養管理
フリーストール牛舎で行い,乾乳期間は6頭程度の乾乳牛群,泌乳期間は40頭程度の搾乳牛群で飼養しました。乾乳処置時は個別管理とし,60日区,40日区は乾乳予定日の1週間前から処置を開始しました。
(4)給与飼料
日本飼養標準(1999年版)に準じ,牛群としてTDN充足率100%以上,CP充足率100%以上で給与しました。
給与飼料は配合飼料(TDN:73%以上,CP:16%以上),アルファルファヘイキューブ,ビートパルプ,トウモロコシサイレージ及びビタミンの補給としてサプリメントを混合飼料形態で給与し,乾草はオーツヘイを給与し,泌乳期にはチモシーと併用しました。
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(5)測定項目
乳 量 | : |
分娩後は305日間の乳量を計測。泌乳期間が305日間に満たないものはWoodの泌乳曲線により推定。40日区は乾乳処置開始前20日間の乳量,0日区は分娩前60日間の乳量も計測(期間乳量をみるため)。 |
乳 成 分 | : |
乳脂率,乳白質率,無脂固形分率(SNF率)を分娩後10回目の搾乳までは毎回,以降は月に1回。総グロブリン(総IgG)濃度(分娩後6回目の搾乳まで毎回)。アルコールテスト(凝集反応消失までの搾乳回数)。 |
血液成分 | : |
分娩予定60,40,20,6,4,2日前,分娩時,分娩後2,4,6,14,21,42,90日,朝の給餌時に頚静脈から採血を行いました。(分析項目)グルコース,グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT),総蛋白質,アルブミン,カルシウム(Ca),無機リン(IP),遊離脂肪酸(NEFA) |
そ の 他 | : |
体重(毎月1回),分娩・繁殖状況 |
○試験結果
(1) 乾乳期間
表1に実際の乾乳日数を示しました。
(2) 乳量
表2に試験期間中の乳量の試験区間および前産次乳量との比較,図1に期間乳量の推移を示しました。
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前産次の乳量と試験期間の成績を比較すると,40日区は305日乳量で若干減少したが,期間乳量ではわずかに増加しました。一方,0日区では305日乳量,期間乳量とも大きく減少しました。これは通常であれば乾乳期間中に更新される乳腺の細胞が更新せずに老化していくためであると考えられます。
 図1 乳量の推移
また,0日区の分娩後の乳量の推移は全期間を通じて低く,60日区に対して泌乳期間全般で,40日区に対して泌乳中・後期に差がみられました。
(3) 乳成分
@分娩直後の10回の搾乳
乳脂率 | : |
処理区による傾向なし。 |
蛋白質率 | : |
0日区が2回目の搾乳まで低く,1回目は他の2区により4%以上低かった。 |
SNF率 | : |
蛋白質率の減少が誘因し,同様な傾向。 |
比重 | : |
0日区が他の区に対し低かった。 |
IgG濃度 | : |
乾乳期間が短い区ほど低かった(60mg/ml,46mg/ml,23mg/ml) |
アルコールテスト | : |
乾乳期間が短くなるほど凝集反応期間が短くなった。(24.5日,16.0日,6.2日)。 |
乾乳期間を短くすると,一般的な乳成分値と差が無く,比重や免疫成分が低くなる,つまり初乳成分が普通の生乳のレベルになってしまっていることが分かりました。
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 図2 初乳中の総lgG濃度の推移
A分娩後305日間の乳成分
表3に示しました。乳蛋白質率,SNF率は0日区が他の2区に比べ高かったが,遺伝能力的に乳蛋白質の高い牛が偏ったためと考えられました。
 図2 初乳中の総lgG濃度の推移
(4) 血液成分
GOT,Ca,NEFAでは0日区で通常見られる分娩時の成分変動が見らず,その他の成分では,区間で差は認められませんでした。
(5) その他
分娩前の体重は,乳生産をしていない60日区の増加量が大きくなり,分娩後は乳量が低下した0日区の増加量が大きくなりました。
分娩状況およびその後の繁殖性では試験区間に差は見られませんでした。
○まとめ
以上の結果から「乾乳」は,乳腺機能の再生期間として,さらには初乳による子牛への免疫機能の伝達のため,必要不可欠であるということが分かりました。一方で,乾乳期間を40日を目安に短縮した場合,期間乳量,乳質および繁殖性について従来法と同等であることが示されたことから,乾乳期間を35日前後まで短縮できる可能性が考えられました。
(試験担当者:石井貴茂,鉾田地域農業改良普及センター)
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