本県の電気牧柵を利用した耕作放棄地放牧は、平成15年に旧金砂郷町の20アールの元畑で実証展示というかたちで開始されました。その後放牧面積は急速に拡大し、現在では60戸以上の和牛繁殖農家で行われており、その面積は今年中には耕作放棄水田を含め50fを超える見込みです(農業改良普及センター調べ)。繁殖和牛は1日の乳量が数キロであり、年に子供を1産するのが仕事です。酪農のように朝晩の搾乳があるわけではないので、離乳・妊娠鑑定の済んだ牛は分娩2ヶ月前までの約6ヶ月間は牛舎で飼う必要がありません。繁殖和牛の放牧期間中の飼料は雑草のみですから、飼料費の節約にもなり、牛舎では放牧頭数分の飼料給与やボロ出しの手間も省けて省力的です。
今回紹介する事例は、稲敷市の搾乳牛頭数を35頭飼養する酪農家で、飼料作はイタリアンライグラスを7f栽培しロールベールして給与しています。
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ロールベール作業は、2、3番草は効率が悪く夏期は夜間放牧で直接牛に食べさせたいということで、1番草を刈り取った約5fの採草地に電牧を設置しました。
生えてくる草を牛に効率よく食べてもらうため、中をいくつかの牧区に区切って放牧が行われています。
放牧はまだ始まったばかりですが、乳量は若干下がったものの粗飼料の購入量も減少したということです。牛は1日の半分を放牧地で過ごすわけですから、ふん尿散布の労力も半分で済むものと考えられます。
(独)畜産草地研究所の試算では、10a当たり1頭の割合で草地に放牧した場合、日乳量30sの搾乳牛で、春であればTDN33%、CP43%、夏でもTDN12%、CP20%を放牧草から摂取することができ、特に短草の放牧草はCPの含有量が高いことからCPの摂取割合が高いことが明らかになっています。また、栃木県内の酪農家で調査された結果では、放牧開始時から給与設計を変更した結果、乳飼比は放牧前の22程度から16以下に下がったそうです。また、別の農家で行われた調査では、濃厚飼料の量は変えずに放牧した結果、乳量が増加し特に体細胞数の低下が見られ、放牧により牛床が乾燥したため衛生環境が改善されたことや、ストレスの低減による効果ではないかと考察されています。
茨城県内では搾乳牛の放牧事例はほとんどありませんが、価格が安く設置に労力のかからない電気牧柵が普及していることから、酪農においても個々の経営形態にあわせて放牧を取り入れ、労力や経費の節減を図ることが可能と思われます。
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