茨城県畜産センター肉用牛研究所けい養の「千穂」が平成19年4月から基幹種雄牛として本格的に供用を開始致します。「千穂」は平成10年11月3日に常陸大宮市(旧御前山村)の軍司英昭氏によって「ちほ」の7産目として生産されました。父は希代の名牛「安福165の9」、母の父は「糸光」です。母の「ちほ」は、「安福」(1産目)、「安福165の9」(3産目)との交配による産子が常陸牛共励会において続けざまに名誉賞を受賞するなど、本県の繁殖雌牛群のなかでも高い評価を受けています。また、5産目の産子が県基幹種雄牛として活躍した「安福秀」であり、「千穂」の全兄弟となっております。
 「千穂」の能力を把握するため、(社)全国和牛登録協会が定める和牛種雄牛産肉能力検定法(現場後代検定法)に基づき、平成16年10月26日〜平成18年8月18日の間、当研究所及び全国農業協同組合連合会茨城県本部肉用子牛哺育育成センターの2か所で18頭(去勢9頭、雌9頭)の肥育試験を実施しました。
 肥育は概ね8ヵ月齢で導入し、各肥育場の慣行法により飼養管理を行い、去勢牛は生後29ヶ月齢未満、雌牛は32ヵ月齢未満で出荷しました。途中1頭が事故により検定除外になったので最終調査頭数は17頭になりました。
 各肥育牛の検定結果は、表1のとおりで枝肉重量418.8kg、ロース芯面積55.5cm2、バラの厚さ7.4cm、皮下脂肪の厚さ2.2cm、脂肪交雑(BMS aj5.8という成績でした。特に脂肪交雑については、調査牛17頭中11頭(64.7%)が4等級以上に格付される優秀な成績でした。
これら17頭の枝肉成績を用いて平成19年1月に「千穂」の推定育種価(親から子へ伝わる遺伝能力)を算出した結果は表2のとおりです。

表2.千穂の育種価推定値
 枝肉重量については、県平均403.56kgに対し、−2.039kgと少し劣りましたが、ロース芯面積については、県平均49.44cm2に対して+8.487という優秀な成績でした。また脂肪交雑(BMS:0〜5)についても、県平均1.185(BMS bナおおよそ5に相当)に対して+1.482という成績でした。
 また平成18年11月に埼玉県で開催された、第47回関東肉牛枝肉共進会の交雑種の部に出品された産子が格付A5、BMS bWという優秀な成績を収め最優秀賞を受賞しました。
 以上のことから「千穂」は高い能力をもった種雄牛と考えられ、基幹種雄牛として供用を開始致します。
 「千穂」の精液を活用するにあたっては、特にロース芯面積の育種価が高いことから、平茂勝の娘牛など気高系の雌牛に歩留まりの改善を目的として交配していくことが勧められます。また、血統的な背景から極端な近親交配になる心配が少ないので北国7の8を始めとする藤良系の雌牛にもお勧めです。
 安福系の種雄牛はなんらかの遺伝病を保因している場合が多いのですが、「千穂」については遺伝病(バンド3欠損症(B3)、牛第13因子欠損症(F13)、牛クローディン16欠損症(CL16)、チェディアックヒガシ症候群(CHS1)、牛モリブデン酵素欠損症(MCSU)、メラニン細胞刺激ホルモン受容体1(MSHR))のいずれも保因していませんので安心して交配していただけます。精液は茨城県酪農業協同組合連合会を通して供給しております。
表1.「千穂」の現場後代検定肥育成績