畜産センター肉用牛研究所に新たに鹿児島県から黒毛和種種雄牛「福徳」号が導入されました。「福徳」は、「平茂勝」や「東平茂」の父「第20平茂」や、昨年の岐阜全共で農林水産大臣賞に輝いた「21世紀」で良く知られている鹿児島県上別府種畜場でけい養されていました。この度、縁があって、同種畜場社長上別府和美氏のご厚意により当研究所に寄贈され本県で凍結精液が配布されることとなりました。「福徳」の精液は、現在も鹿児島県内で広く使われており、本年5月の肝属中央子牛市場にも多くの産子が上場されていました。「福徳」はしばらくの間、鹿児島県と本県で併用されることとなります。



 「福徳」の血統
 「福徳」は、父「忠福」,母「ひでゆき」の間に平成5年7月22日,鹿児島県鹿屋市で生産されました。父「忠福」は、「安福」の父「安谷土井」や「安美金」、「紋次郎」など名牛を数多く輩出した兵庫の「安美土井」と、「茂金波」の子の第2よしいちの産子として兵庫県美方で生まれました。「安美土井」の数多くの産子のうち「忠福」もその代表牛の1頭として、鹿児島県において16年間の長期にわたりトップサイヤーとして君臨してきました。「忠福」は、但馬牛でありながら脂肪交雑ばかりでなく、増体やロース芯面積共に優れた遺伝能力を発揮した、3拍子揃った名牛です。現在、「福徳」の他にも「神高福」や「第5隼福」、「忠菊」等多くの産子が、鹿児島県で種雄牛として活躍しています。
 母「ひでゆき」は、これまた鹿児島の名牛「第20平茂」の子です。「金水9」のはだに「第20平茂」が交配されて生産されました。「第20平茂」は、気高系を代表する種雄牛として「平茂勝」を始めとして多くの産子を世に送り出しています。「ひでゆき」の血統を更にたどれば、「気高」の子「隼信」、「第5栄光」と遡り、「気高」、「栄光」の血でかたまっています。
 「忠福」と「第20平茂」両牛の相性は、鹿児島県でも定評があり、この組み合わせで多くの子牛が生産されました。肥育牛としては、増体の良さ、脂肪交雑、ロース芯面積どれをとってもすばらしい結果でした。「第20平茂」は、ロース芯面積がやや小さめとの評価がありましたが、「忠福」がそれを見事にカバーしていました。繁殖牛としては、「飼いやすく」、「長命」、「子育てがうまい」等評判が良く、大変多く残されました。
 本牛の成績−体型審査
 本牛「福徳」も、鹿児島県でのすばらしい実績を引っ下げて茨城にやってきました。父親譲りの体型は、87.0という高得点です。本県繁殖牛の欠点として多く指摘のある前駆は、巾、深み、充実どれをとっても非の打ち所がなく、前駆の改良を強力に進めてくれるものと期待しています。前駆の優点は、そのまま中躯、後躯へと移行し、これらも「福徳」の優れた点として上げられます。更に、資質が良く、今まで本県では見ることが出来なかったような皮膚の薄さ、ゆとり、弾力性を持っています。繁殖牛群の体型のワンランクアップに大いに利用して頂きたいものです。


 間接検定の結果と育種価評価
 本文に掲載した枝肉写真は、「福徳」の間接検定4号牛のものです。生後21ヶ月で、このサシの入り具合は見事と言うほかありません。月齢の若い間接検定でこれまでのものは希有のことです。ロース芯面積も62cm2とすばらしいものでした。枝肉重量は、357sでした。間接検定全体の成績も、1日平均増体重0.98s、平均ロース芯面積51cm2、脂肪交雑(BMS)2.9と優れたものでした。
 鹿児島県における育種価評価でも、大変高い評価を得ています。脂肪交雑では、本県にも鳴り響いている兄弟牛「神高福」や、「第5隼福」、「忠菊」に比肩される数値ですし、枝肉重量やロース芯面積では、並み居る名牛を押しのけて鹿児島県でもベスト5に入るほどの数値を得ています。本県での活躍が大いに期待がもてるところです。

 おわりに
 「福徳」の父である「忠福」の直子は、本県には入っていません。また、「福徳」の父系祖父である「安美土井」や母系祖父である「第20平茂」の血も「安福」や「平茂勝」「東平茂」を経て本県に入ってきており、「福徳」を県内のどの繁殖牛に交配しても近親交配を心配する必要はありません。かえって、良牛を得る方法として、同じ種雄牛を3代祖4代祖に持つ牛同志を交配することは良く行われてきましたし、推奨もされてきました。「福徳」の間接検定供試牛の血統を見ても、「第20平茂」や「忠福」の名があり、系統交配より作られた牛が使われ、好成績を上げています。
 「福徳」は、鳥取の気高に兵庫の波系と土井系を併せて交配したハーフの種雄牛です。血統や間接検定の結果からも「福徳」は交配相手を選ばない使いやすい種雄牛だと言えます。系統交配的に、「第20平茂」の血の入った「平茂勝」や「東平茂」の系統、あるいは、父「忠福」と同系の「安福」やその他の兵庫の系統との相性も良さそうです。更に、ややもすると小さい産子が見られる「北国7の8」の系統には、その欠点をカバーしてくれそうですし、本県有の「谷福6」や「明光4」の系統とも、増体の良さ、ロース芯面積など両系統の良い点が集まって更に良い牛が生産されると確信しています。これらのことから、「福徳」は、まさに茨城にぴったりの種雄牛と言えます。肥育素牛の生産ばかりでなく、繁殖牛の生産にも大いに貢献してくれるものと期待しています。

表-1 「福徳」の間接検定の成績
検定場所 肝属畜連肉用牛肥育センター
検定期間 8年11月11日〜9年11月10日(364日)
牛 番 号 1 2 3 4 5 6 7 8 平 均
母方祖父名 第20平茂 第20平茂 第5平茂 田安幸 北国7の3 北国7の3 第20平茂 北国7の3
母方曾祖父名 忠福 忠福 第20平茂 北国7の3 第20平茂 第20気高 田安福 第20平茂
終了時日齢(日) 609 619 622 642 645 648 650 651 635.8
終了時体重(kg) 558 608 646 607 631 635 630 621 617.0
1日平均増体重 0.89 0.95 1.14 1.04 0.86 0.98 1.00 0.96 0.98
枝肉重量(kg) 330 358 377 357 374 380 367 359 363
ロース芯面積(cm2) 38 42 52 62 59 56 52 48 51
バラの厚さ(cm) 6.4 6.1 6.1 5.9 7.2 6.6 5.7 6.4 6.3
皮下脂肪厚(cm) 2.2 2.5 1.6 1.7 1.6 2.3 1.6 1.3 1.9
歩留基準値 72.5 72.2 74.1 75.4 75.8 74.3 73.9 74.3 74.1
脂肪交雑(BMS) 3- 2+ 2+ 5 4 2 3- 2+ 2.9
格付 A-5 A-5 A-5 A-5 A-5 A-4 A-5 A-4