はじめに
 昭和58年度に旧茨城県畜産試験場に自給飼料分析センター(以下分析センター)が設置されて以来、今までに一万二千点以上の粗飼料が分析されてきました。分析センターの業務および機能は移転後も引き継がれ、農家における飼料設計や粗飼料生産の普及等に寄与しています。通常分析センターでは農家から持ち込まれた粗飼料の一般成分(粗蛋白等)、pH(サイレージのみ)、硝酸態窒素およびカルシウム(Ca)、リン(P)の分析を実施しています。近赤外分析法は迅速に成分含量を測定できることから当分析センターをはじめ粗飼料の一般成分の推定に広く用いられていますが、Ca、Pといったミネラル含量についてはほとんど実用化されていないのが現状です。本試験では近赤外分析によるサイレージ中ミネラル含量の推定が可能かどうかについて検討しました。
材料および方法
 近赤外分析法を行う際には、類似の試料群ごとおよび成分の種類ごとに検量線を作成する必要があります。また作成した検量線の推定精度を検定するために検量線作成用とは別に検量線の検定用の試料を用意する必要があります。


写真1 近赤外分析計

検量線の作成には県内から複数年にわたって分析センターに持ち込まれたトウモロコシサイレージ57点(トウモロコシ−ソルガム混播サイレージを含む)、牧草サイレージ47点(稲発酵粗飼料、オーチャードグラス、ソルガム、ギニアグラス、イタリアンライグラス、麦)を、検量線の検定用には同37点、35点を、それぞれ用いました。70℃で48時間乾燥、粉砕された試料を化学分析および検量線の作成、検定に用いました。分析項目としてCa、Pの他にカリウム(K)およびマグネシウム(Mg)についても検討しました。
 化学分析は乾燥・粉砕試料を灰化、酸溶出、希釈後、Ca、Mgは原子吸光光度法、Kは炎光光度法、Pは硫酸モリブデン法により行いました。


写真2 乾燥粉砕試料をサンプルカップに充填(右)

結果
 検量線の作成および検定ともに供試飼料の成分含量は広範囲にわたっていました。トウモロコシサイレージのCa(図1左)、牧草サイレージのCa(図2左)、P(図2右)の検定結果において化学分析値との間の重相関係数は0.6以上と高くなり、日本標準飼料成分表の値と比較して優位性が認められました。トウモロコシサイレージのPで推定精度が低くなった(図1右)もののトウモロコシサイレージのP含量は変動幅が比較的少なく、また(P含量+Mg含量)の検量線とMg含量のそれを用いてP含量を算出することにより推定精度が高まる傾向にありました。なお、ここには示しませんでしたが、両者ともにK、Mgでも同様の高い相関が得られ、また乾草のこれらミネラル含量についても同様に高い相関が得られています。ちなみに他県の結果では乾草・生草の方がより推定精度が高いことが示されています。

最後に
 以上、近赤外分析によるサイレージ中ミネラル含量の推定に向けての試みを述べてきました。精度的には化学分析には及ばないものの、分析に要する時間がかなり短くなり、農家へ分析結果を早く送付できること、また同じ労力であればより多くの試料を分析できることを考えると本方法の導入は非常に有効であると考えられます。今後は本方法を導入し、今まで以上に分析センターの利用に関してアピールをしていきたいと考えています。

図1 トウモロコシサイレージにおけるカルシウムおよびリン含量の科学分析値と
   近赤外推定値・標準飼料成分表の値との関係
標準飼料成分表の値は日本標準飼料成分表(2001年版)の値のうち化学分析値に最も近いものを示している

図2 牧草サイレージにおけるカルシウムおよびリン含量の化学分析値と近赤外推定値・
   標準飼料成分表の値との関係
標準飼料成分表の値は日本標準飼料成分表(2001年版)の値のうち化学分析値に最も近いものを示している