茨城県畜産センター肉用牛研究所けい養の「北国栄」が平成15年4月から一般種雄牛として本格的に供用を開始しました。
 「北国栄」は平成10年1月4日に北茨城市中郷町の緑川浩氏により「おゆき6」の子として生産されました。父は北国7の8,母の父は福昌です。母の「おゆき6」は,「北国栄」のほか,「亀継2」との交配による産子の肥育で脂肪交雑BMS No.12がでており,本県の繁殖雌牛群の中で,脂肪交雑が高く評価されている牛です。
 「北国栄」の能力を把握するため,実際に産子を生産し,当研究所,全国農業協同組合連合会茨城県本部肉用子牛哺育育成センター及び茨城県畜産農業協同組合連合会米平公共育成牧場の3か所で平成13年2月12日〜平成15年1月14日の間,(社)全国和牛登録協会が定める和牛種雄牛産肉能力検定法(現場後代検定法)に基づき18頭(去勢牛9頭,雌牛9頭)の肥育試験を実施し,産肉能力を評価しました。
 肥育は概ね8か月齢で導入し,各肥育場の慣行法により飼養管理を行い,去勢牛は生後29か月齢未満,雌牛は32か月齢未満で出荷しました。
 各肥育牛の検定結果( (社)日本食肉格付協会の牛枝肉格付結果)は,表−1のとおりで,枝肉重量394.3kg,ロース芯面積45.8cu,バラの厚さ7.4cm,皮下脂肪の厚さ2.4cm,脂肪交雑(BMS No.:1〜12)5.6という成績を収めました。特に脂肪交雑については,調査牛18頭中14頭(78%)が4等級以上に格付される優秀な成績でした。厳選された牛が出品した昨年12月の第46回茨城県肉用牛共進会の脂肪交雑4等級以上が82%(90頭中74頭)であったことと比較しても立派な成績です。枝肉格付等級では,肉の色沢,締まり及びきめで1ランク下に格付された枝肉があり,やや惜しまれる結果となりました。なお,前述の共進会には「北国栄」の産子が1頭出品され,A−5に格付されました。
 これら19頭の枝肉成績を使い,平成15年3月に「北国栄」の推定育種価(親から子へ伝わる遺伝能力)を評価した結果は表−2のとおりです。
枝肉重量に関しては,県基準値(平均)402.24kgに対して−7.846kgと少し劣りましたが,肉質(BMS:0〜5)に関しては県基準値1.388(BMS No.でおおよそ5に相当)に対して+1.550という優秀な評価結果でした。これは,平均的な能力の雌牛に交配した場合,脂肪交雑では,BMS No.で7程度が期待できると言い換えられます。
 以上のことから,「北国栄」は,肉質において高い能力を持っていると判断し,本格的に精液の供給を開始しました。
 「北国栄」の父は言わずと知れた「北国7の8」,母の父は岩手の名牛「福昌」です。検定においては,肉質面でこの組み合わせから想像できるとおりの好成績を収めました。また,遺伝病(バンド13欠損症(B3),牛第13因子欠損症(F13),牛クローディン16欠損症(CL16),チェデアックヒガシ症候群,牛モリブデン酵素欠損症(MCSU))はいずれも保因していません。
 「北国栄」の精液を活用するにあたって,繁殖和牛に交配する場合は,近親以外は広範囲に利用できますが,枝肉重量が平均並なため,特に増体が期待できる系統の雌牛への交配をお奨めします。乳用牛に交配する場合は,すべての雌牛に利用できると思われます。
 精液は,茨城県酪農業協同組合連合会を通して供給しています。

表-1 北国栄 現場後代検定結果
検定
番号
性 別 母 の 父 母の母の父 枝肉
重量
(kg)
ロース芯
面 積
(cu)
バラ厚
(cm)
皮 下
脂肪厚
(cm)
脂肪交雑
(BMS No)
等 級 歩 留
基準値
(%)
各 付
1 去 勢 第2安鶴土井 菊照土井 363.0 49 7.0 2.0 5 4 74.1 A-3
2 去 勢 北国7の8 安福165の9 431.0 62 8.0 2.0 9 5 75.6 A-5
3 東平茂 金山 362.0 50 7.0 3.1 8 5 73.3 A-4
4 亀山萩 貴桜 380.0 42 7.1 3.2 6 4 72.0 A-4
5 第4光吉 友田の7 398.5 39 7.8 4.3 4 3 70.8 B-3
6 糸竜 安福 363.5 40 7.2 2.1 5 4 73.0 A-3
7 去 勢 第4光吉 英美 448.0 47 7.6 1.0 6 4 74.1 A-4
8 去 勢 安平 糸福 426.0 54 8.8 1.4 8 5 75.7 A-5
9 去 勢 谷福6 英美 366.0 40 7.3 1.8 3 3 73.3 A-2
10 糸竜 糸光 404.0 42 7.3 2.2 8 5 72.7 A-4
11 谷福6 紋次郎 353.5 55 8.0 2.5 4 3 75.2 A-2
12 第4光吉 亀継2 331.0 28 5.0 2.1 6 4 70.4 B-4
13 去 勢 谷福6 第4光吉 405.5 43 7.4 1.7 5 4 73.3 A-3
14 去 勢 亀継2 英美 422.0 44 7.5 2.8 3 3 72.4 A-2
15 去 勢 谷福6 森正 477.5 50 8.7 2.4 5 4 73.6 A-4
16 去 勢 亀継2 第7豊桑 428.0 45 6.9 1.7 5 4 73.0 A-3
17 英美 第4岩登 362.5 46 7.8 3.2 6 4 73.2 A-4
18 第4光吉 亀常 375.5 48 7.3 3.6 5 4 72.6 A-3
平 均 全 体

394.3 45.8 7.4 2.4 5.6 4.0 73.2


412.9 48.4 7.6 2.0 5.7 4.1 73.8


371.1 42.5 7.2 2.9 5.5 3.9 72.5


表-2 北国栄の育種価評価結果 平成15年3月現在

枝肉重量
(kg)
ロース芯面積
(cu)
ばらの厚さ
(cm)
皮下脂肪
(cm)
歩留基準値
(%)
脂肪交雑
(BMS)
県基準値 402.24 50.17 7.28 2.68 73.37 1.388
北国栄 -7.846 1.692 0.503 -0.323 0.926 1.550