茨城県西養豚経営研究会の活動については,畜産茨城8月1日号に「私はおいしさの評価人」と題して報告させていただきました。「おいしい豚肉の生産」を本年の研修会テーマとして掲げる当研究会は,このほど本年第2回目の研修会を私の経営する猿島郡猿島町の(有)山西牧場を会場に開催いたしました。研修会当日は,雨こそ降らなかったものの,1か月暦が先に進んでしまったような寒さとなってしまい,会場とした野外のバーベキューハウスの中で震え上がる場面もありました。
 しかし,参加者の熱気が,そんな天候も吹き飛ばす程で,うまいものへの探求心が大いに盛り上がった1日となりました。
 研修会の第1部は独立行政法人家畜改良センター茨城牧場の稲村光洋先生を講師としてお招きし,前もって依頼した会員が生産した豚の肉質分析結果をもとに,分析データの読み方,生かし方に関し御講演いただきました。
 研究会会員の中から希望者を募り,9名の会員が生産した豚肉9検体(9頭分)について,あらかじめ肉質分析を行いました。分析項目は,@「水分含量%」,A「保水力%」,B「伸展率%」,C「加熱損失%」,D「圧搾肉汁率%」,E「粗脂肪含量%」,F「破断応力kgw/cm2」,G「脂肪融点℃」,H「脂肪酸組成」の9項目です。

 今回,分析にあたられた稲村先生から,分析結果から見た特色について,ランドレース種やバークシャー種などの成績と比較しながら解説していただきました
 会員個々の成績はお見せできませんが豚肉9検体の平均と過去の改良センターの成績をまとめると表1のようになりますが,簡単に検査項目の基準を要約しますと次のようになります。
 「水分含量」は70から80%が正常範囲であり,粗脂肪含量と逆の関係があります。「保水力」は肉汁の多少に関連するため数値が大きいほど良いといえます。
「伸展率」は,すりつぶしたときにどれだけ伸びるかを示すもので肉の柔らかさを示し,数値が大きい程良いと言うことになります。
「加熱損失」は,加熱したときにどれだけ肉汁が出るかを示す数値で,この数値が小さいほど加熱してもうまみが逃げません。「圧搾肉汁率」は噛んだときの肉汁の多さを示すもので,この数値は大きい程良いと言うことになります。「粗脂肪含量」はいわゆる「サシ」の量で,この数値が大きいと肉質は柔らかくなる傾向があります。梅山豚,バークシャー種,デュロック種の粗脂肪含量は高く,パンくずの飼料給与によっても,粗脂肪含量が高くなる傾向があります。「破断応力」は肉のやわらかさを示し,数値が小さいほど柔らかいといえます。「脂肪融点」は36℃から46℃の範囲に入るものが多く,30℃以下では軟脂状態といえます。
 表1 会員生産豚の肉質分析結果と既存分析データの比較
種別 水分含量
(%)
保水量
(%)
伸展率
(%)
加熱損失
(%)
圧搾肉汁率
(%)
粗脂肪含率
(%)
破断応力
(kgw/cm2)
脂肪融点
(℃)




最小値
最大値
72.7
75.0
74.3
86.2
24.6
30.9
27.0
34.3
32.4
44.2
1.6
5.2
38.5
53.5
34.4
44.3
平気値 73.6 78.1 26.4 30.7 40.1 3.6 49.7 41.2




ランドレース 73.4 73.1 24.2 32.0 37.2 2.7 55.1 -
大ヨークシャー 74.1 74.4 25.1 33.3 34.2 2.2 69.5 -
デュロック 72.8 76.9 27.5 32.3 36.5 4.7 53.6 -
バークシャー 72.2 75.4 27.1 31.2 37.2 4.8 27.2 -
LWD(事例1) 74.6 77.2 29.0 28.7 43.3 1.7 59.5 40.3
LWD(事例2) 73.5 73.5 28.5 32.1 42.1 4.0 97.7 44.4



今回は会員の9検体の平均値だけをお見せしましたが,「保水力」に優れたもの,「粗脂肪含量」に優れたものなど,それぞれ生産者ごとの特色が出ていたような気がします。同じ三元交配のLWDであっても飼料給与方法など生産者ごとの違いが肉質分析の結果として微妙に出ているものと思われます。講師の先生は今回は,初めて行った1頭だけの肉質分析の結果ですから,一喜一憂せず肉質分析件数を増やしご自分の生産豚の特色を把握して欲しいと話されていました。
第2部は,生産者のあいだで,「おいしかった」と評価されることの多い中ヨークシャー種の豚肉の食味官能体験を参加者全員で行いました。
かつて30年位前,中ヨークシャー種(写真)は全国で見ることができましたが,今ではほとんど見かけなくなってしまいました。

(中ヨークシャー種(雄)写真提供:家畜改良センター茨城牧場)


 改良センター茨城牧場での肉質分析の結果では,中ヨークシャーは,際だった特色を示す項目はなかったそうですが,それぞれの項目についてバランスが良いという特徴があったそうです。今回は,昔懐かしい?中ヨークシャー種の食味官能体験を行って,あらためて中ヨークシャー種の肉質について,参加者の舌による検証を試みました。私の農場で生産したLWDの肉を対照として,しゃぶしゃぶと焼き肉で食べ比べた後,参加者にアンケート用紙を配り,やわらかさ,多汁性,あぶらっぽさ,おいしさの4項目について比較評価してみました。
 表2に食味官能体験に供した中ヨークシャー種の肉質分析検査結果を載せておきました。
 粗脂肪含量の値が高く,伸展率が大きく,破断応力の値が小さく,加熱損失の値も小さいことから,柔らかく,多汁性に富み風味も高いという結果が出ていました
 参加者の官能による評価でもLWDに比較して柔らかい,多汁性があるという評価もでましたが,中ヨークシャー種の肉にあぶらっぽさを感じる人もいて,食べなれたLWDの方がトータル的なおいしさでは勝るという意見もありました。
このあたりが官能評価の難しさかもしれませんが,豚肉に対しては,牛肉のように脂肪含量(サシ)の多さを求める人ばかりではないのかもしれません。言い方をかえると消費者から見ると牛肉,豚肉,鶏肉それぞれの肉に対し求めるものが異なるような気もします。今回の研修会を機に,「安さ,おいしさ,ヘルシーさ,消費者は豚肉に何を求めるのか?」といったことを念頭に,会員一同これからの生産に当たりたいと考えます。

 表2 食味官能試験に供した中ヨークシャーの肉質分析結果
種別 水分含量
(%)
保水量
(%)
伸展率
(%)
加熱損失
(%)
圧搾肉汁率
(%)
粗脂肪含率
(%)
破断応力
(kgw/cm2)
食味官能試験に
供した中ヨーク
シャー豚肉
72.9 86.7 34.0 20.3 40.8 3.8 46.6