●電牧器・電気牧柵を利用した放牧
 電気牧柵の普及が繁殖和牛の耕作放棄地への放牧を可能にしました。従来の牧柵は牛を物理的に放牧地内に囲い込んだのに対し、電気牧柵は軽量な電牧線に高電圧(約7千ボルトあるが、電流がほとんど流れていないため感電の心配はない)をかけて、牛が触れた場合ショックを与え、牛がこれを学習することにより、心理的に放牧地内に囲い込むものです。
 電牧器の電源は家庭用電源も利用できますが、乾電池、太陽電池(ソーラー式)、12Vバッテリーも利用できるので近くに電源のない所でも放牧利用できます。
 電気牧柵は軽量な電牧線(ビニールに導線を編みこんだもの)と電牧柱(樹脂製ポール)を利用するため、設置や移動が簡単です。また、電牧線は柔軟で巻き取りやすく、電牧柱の設置間隔は広く(5m間隔位)、差し込み・引き抜きが簡単です。
 電気牧柵の設置は電牧柱に絶縁体となる碍子を取り付け、その碍子に電牧線を通して放牧地を囲みます。樹脂製の電牧柱が市販されていますが、工夫次第で木柱、竹柱、鉄柱を自作している例もあります。(電気牧柵はあくまで心理柵であり牛の体当たりに耐える構造を持っていません。このため電牧線への馴致は必ず行なわなければなりません。

(1)電気牧柵の必要資材
電牧器: 放牧面積(電牧線を張る距離)に応じて様々なタイプあります。電流がほとんどなく、電圧が4,000〜7,000ボルト発生します。触れた時の衝撃は静電気より強い感じです。
電源は乾電池、太陽電池(ソーラー式)、12Vバッテリー、家庭用電源(100V)が使用可能
電牧線: 軽量で柔軟性のある電牧線(ビニールに導線を編みこんだもの)もありますが、転牧をしなければ針金などでも代用できます。
電牧柱: 電牧線を支えるだけなので、バラ線を支えるほどの強度は必要なく、樹脂製の軽量な支柱を設置します。木柱、鉄柱、竹等でも代用できます。
碍 子: 電牧線と電牧柱を絶縁するための器具
アース: 銅棒かステンレス棒を湿気の多い場所に深く埋めます
注意用の看板: 接触すると危険であることを示す看板
 (電気設備技術基準により、設置が義務付けられています。)
飲水器: 「飲水器の設置」参照
専用資材は電牧器だけです。他の資材は工夫次第で代用できます。



電牧器・電気牧柵及び電気の流れ



(2)耕作放棄地面積20aの資材例
電牧器 AN90型 (北原電牧 の資材を利用)
28,000円
電牧線
※1
エースポリワイヤー(400m巻) 針金で代用可
5,500円
電牧柱
※2
グラスポールN13 ラクラクポール 鉄柱で代用 木、竹で代用
430円×52本 400円×52本
コーナーは絶縁ポール1,860円×4本 ※3 コーナーは鉄柱、木、竹で代用
碍子 Gクリップ 不要 リング碍子(鉄柱用) リング碍子(木柱用)
50円×52本×2ヶ所 90円×56本×2ヶ所 80円×56本×2ヶ所
68,500円 61,740円 38,080円 36,960円

※1 エースポリワイヤーは設置・移動が簡単 ⇒ローテーション放牧向き
針金で代用すると再利用は難しい ⇒パドック放牧向き
※2 電牧柱は5m間隔で設置
※3 グラスポールN13、ラクラクポールを利用した場合はコーナーに丈夫な支柱が必要


(3)電牧器・電気牧柵の設置及び放牧手順
 @漏電を防ぐため電気牧柵設置場所の下草刈り(幅1m程度)
 A電牧柱・電牧線・注意用の看板の設置
 (電気設備技術基準により、注意用の看板の設置が義務付けられています。)
 B電牧器及びアースの設置 ⇒前図参照
 C飲水器・鉱塩の設置 ⇒後述「飲水器の設置」参照
 D放牧牛の電気牧柵への馴致 ⇒後述「放牧馴致−電気牧柵への馴致」参照
作業時間は5人で作業して半日程度で設置できます。


(4)電牧線の高さと電牧柱の間隔
 通常、電牧線は地上からの高さ60cmと90cmに2段張りで設置します。下段を60cm以上の高さに設置すると、牛が電牧線の下草を採食するため、下草が伸びて電牧線に接触し漏電することを防げます。(電牧線に触れると感電することを学習した牛であれば、1段だけでも、脱柵を防げると言われています。子牛が一緒にいる場合は3段張りも検討します。)
 また上段と下段の間にバイパス線を設置します。(バイパス線の本数を多く設置すると、有効距離を伸ばすことができます)
 電牧柱は平坦地であれば、5m間隔程度で十分ですが、傾斜地では斜面に沿って設置し、間隔は狭くします。

電牧線の高さ
(単位:cm)
1段張り 80

2段張り 60 90
3段張り 40 70 100




電牧線の下草を採食する牛




電気牧柵は斜面に沿って設置する