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畜産茨城平成24年度 > 7月号 : 乳用育成牛における初産分娩月齢早期化に関する栄養学的研究 (平成23年度筑波大学学位論文(博士)) |
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乳用育成牛における初産分娩月齢早期化に関する栄養学的研究 (平成23年度筑波大学学位論文(博士)) |
畜産センター 石井 貴茂 |
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酪農経営にとって飼養管理の効率化は様々で
すが,後継牛の安定的な確保と効率的な育成
は,全ての経営に共通します。牛群検定におけ
る2008年の305日乳量は9,147kgで,約20年
前から約2,000kg増加しています。一方,育成
牛の管理目標である初産分娩月齢は,24ヵ月
齢を目標としていますが,現状は25〜26ヵ月
齢です。2000年以前は27ヵ月齢前後で推移し
ており,改善が図られない項目でした。初産分
娩月齢の遅延は,飼料費の上昇,後継牛の保有
頭数の増加,施設の利用効率の低下を招くため,
早期化することが重要です。
初産分娩月齢を早期化するためには,AI開 始適期が日本飼養標準で体重350kgとされて いるため,育成前期のエネルギー摂取量を増や すことにより,AI適期までの増体速度を高め る必要があります。しかし,育成期の高増体は, 乳腺や乳生産性に悪影響を及ぼすと海外の研究 者らにより報告されています。その一方で,日 増体量(DG)を1.0kgに高めても,飼料中 のCP含量を増加することにより,乳生産性に悪 影響を及ぼさないという報告もあります。また, エネルギーの増給により増体速度を高めた場 合,育成牛が太るのか?適正に発育するのか? といった点も明らかになっていません。 そこで,乳用育成牛の発育速度の限界を明ら かにするため,21ヵ月齢の初産分娩月齢を目 指した高増体育成が発育成績と初産乳生産性に 及ぼす影響について検証しました。 ![]()
試験期間は生後90日齢からAI適期である
体重350kgまでの期間とし,試験区は目標DGお
よび給与飼料中のCP含量の違いにより3区
を設定しました。その内訳は,24ヵ月の
分娩を想定したDG0.75kg,日本飼養標準の標
準的なCP水準である14%のMM区(標準増
体・標準CP区),21ヵ月齢の分娩を想定した
DG1.00kg,CP14%のHM区(高増体・標
準CP区),そしてDG1.00kgでCP水準を16%に
高めたHH区(高増体・高CP区)です。
表1に発育成績と飼料摂取量の結果を示しま した。350kg到達日齢は高増体区のHM区 とHH区が,標準増体区のMM区に比べ約40日 間早まりました。実際のDGはMM区が0.97kg,HM区とHH区が1.1kg前後でした。 ![]()
それぞれの区で目標DGを上回りましたが,これは,日
本飼養標準(1999)は,育成牛のエネルギー要
求量の算出において,MEの正味利用効率が季
節によって影響を受けるため,7%の安全率を
見込んで設定されています。そのため,エネ
ルギーが過剰になったためと考えられます。ま
た,DG0.97kgとDG1.1kgで発育させた牛の体
格に差がなく,体重350kgまでの発育速度
をDG1.1kgまで高めても,DG0.97kgと同程度な
発育であることが明らかになりました。
さらに,DG1.1kgで発育させた場合,CP水準の違いで
は350kg到達時の体格に差が認められず,CPの
増給は体格に影響しないことが明らかになり
ました。また,表1のCP飼料効率の結果
からCP16%はCP摂取量1kg当たりの体重増加量
が14%に比べ少なくなりました。図1の血中尿素
態窒素(BUN)濃度はCPが過剰であると高値
となりますが,HH区で試験期間を通じて高く
推移しました。これらのことから,DG1.1kgに
おけるCP水準は14%程度で飼養するのが適正
であると推察されました。
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表2に分娩成績および泌乳成績を示しまし
た。HM区とHH区は21〜22ヵ月齢で初産
分娩を迎えました。また,MM区と分娩難易
度に差がなかったことから,初産分娩月齢
を21ヵ月齢に早めても正常な分娩が可能であること
が示唆されました。305日乳量に関して
は,HM区とHH区がMM区に比べ1,500〜2,500kg低く
なりました。また,飼料中のCP含量を高
めても,乳量が低下しました。これらのことか
ら,乳量を減少させずに21ヵ月齢で初産分娩
を迎えるためには,AI適期までの発育速度
をDG0.97kg以下,CPを14%程度で飼養するの
が適正であると推察されました。
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これまでの結果から,初産分娩月齢の早期
化において,育成期の増体速度と乳生産性の関
係について一定の結論を得られましたが,乳生
産に最も影響を及ぼす要因が,育成期の増体速
度・分娩月齢・分娩時の体重・その他の要因な
のかが明らかになっていません。また,前記
の試験成績を精査するためには,一般管理の乳
牛と比較して評価する必要があります。そのた
め,試験牛のデータに加え,一般管理の育成牛
のデータを合わせた計116頭のデータで,乳生
産性に影響を及ぼす育成管理要因について解析
と考察を行いました。その結果,乳量と乳成分
量へ強く影響を与える要因は,受胎時の体重で
した。また,受胎時の体重が1kg増加すると,
乳量が8kg程度増加するということが示され
ました。育成期の増体速度も乳量に影響を与え
ることが明らかになりました。また,MM区
の305日乳量は一般管理牛と同等であったこと
から,DG0.97kgまでは乳生産性に影響を及ぼ
さないことが明らかになりました。日本飼養標
準(2007)では,AI適期までの発育速度の限
界は明らかにされていないため,DG0.95kg程
度に留めることが安全とされていますが,本
解析から0.97kgまでは安全であることが示さ
れました。また,高増体区の解析結果
から,DG1.03kgを超えると乳量は減少するという結
果も示されました。
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以上の結果を応用し,「21ヵ月齢の初産分娩
における乳生産性を高めるための発育曲線」を
図2に示しました。この発育曲線は21ヵ月齢
の初産分娩を前提とし,乳量が減少しない増体
速度と最大の受胎時体重を両立しています。ま
た,MM区,HM区,HH区の分娩難易が,難
産を示す3以下のスコアであったことから,そ
れらの分娩時体重を目標とした安全を考慮した
発育曲線です。
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この発育曲線の具体的な効果ですが,1つめ
は受胎時体重が1kg増加する毎に305日乳量
が8kg程度増加するという結論から,体重350kgに
比べ375kgの受胎は,初産乳量が200kg増
加することが期待できます。
2つめは飼料費の減少が上げられます。大 まかな試算の結果ですが,375kgでの受胎を 前提にすると,DG0.62で現状の26ヵ月分娩 (DG0.62kg)の場合は,飼料費が284千円で, 粗利益(乳代−飼料費)は365千円です。同 様に24ヵ月分娩(DG0.75kg)の場合は,飼料 費が265千円で粗利益が383千円。図2の発育 曲線(DG0.97kg)では,飼料費は257千円で, 粗利益が391千円となるため,26ヵ月齢に比 べ26千円。24ヵ月齢に比べ8千円の利益の向 上が図られます。 3つめは安全に初産分娩が迎えられる。これ は,前述したとおり分娩事故の危険が少ない体 重まで増体させるためです。 4つめは保有頭数の減少。平均産次2.7産, 経産牛頭数40頭,子牛損耗率5%の経営の場合, 初産分娩月齢が26ヵ月の場合の育成牛保有頭 数は30.5頭です。しかし,同じ条件で24ヵ月 齢に短縮された場合は28.1頭,さらに21ヵ月 になった場合は24.6頭と約6頭少なくなります。 ![]()
日本国内では,今回のような100頭を超える
乳牛のデータを用いて解析した研究は,今まで
行われていません。さらに,本研究では近年の
能力向上が図られた乳牛の初産泌乳期の305日
間の実乳量のデータを用いているため,現在の
酪農の実情に即していると考えられます。本研
究によりDG0.97kgまでは初産305日乳量に影
響せず安全であることが明らかになりました
が,これは社団法人日本ホルスタイン登録協会
における標準発育値の上限を超えている
ため,AI適期までの増体速度を再検討するきっかけ
になるデータといえます。また,日本飼養標準
(2007)におけるAIの開始基準は,体重
が350kgで体高が125cmとされていますが,これは
基準に達しない受胎は分娩事故あるいは分娩後
の乳生産性の低下を招くというマイナス面から
設定されている基準です。今後は,その基準に
加え初産時の乳生産性を高めるために受胎の目
標体重を設定することを提案していく必要があ
ると考えられます。
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