フレーバーリリースとは?
食肉の香りは、「鼻先で嗅ぐ香り」と「口中
で噛んだときに口腔から鼻に抜ける香り」の2つに分けられます。後者の香
りはフレーバーリリースと言われています。食肉の「おいしさ」
を感じる判断根拠には、味、フレーバーリリー
ス(香り)、テクスチャー(口当たり、歯ごた
え、舌触り等)が上げられますが、中でもフ
レーバーリリースが占めるウェイトは大きいと
言われています。日本獣医生命科学大学の松石
教授の研究によると、鼻孔を閉じて食肉の動
物種の識別を約30名のパネラーで検討したとこ
ろ、最も重要な貢献をしているのはフレーバー
リリースで、次はテクスチャーでした。味の寄
与は著しく小さいと報告されています。
フレーバーリリースは、味と同時に感じるた
め、しばし混同されますが、おいしさに深く関
係しているため、食肉の品質向上を図る上で重
要と考えられています。その点を簡単に試す方
法は、牛肉と豚肉を鼻をつまんで食べてみると
わかりやすいと思います。多分、みなさんは、
その肉が牛肉か豚肉か分からないと思います。
しかし、これまでにフレーバーリリースの香り
成分の採取方法、評価方法は研究されていま
せん。そこで、養豚研究所では平成23年度から
肉用牛研究所と共同で、「フレーバーリリース
プロファイリングと臭気マッピングに関する研
究」に取り組んでいます。本研究は、豚肉の香
り成分とフレーバーリリースの分析により、お
いしさに影響する肉の香り成分を特定し評価す
ることを目的としています。
香り成分の測定方法の検討
香り成分の測定は呼気ガス測定装置(ブレス
マス)で分析を行っています。この機械は、独
立行政法人日本原子力研究開発機構が所有して
おり、核融合技術として開発された微量ガス成
分の高感度分析技術を実用化した測定装置で、
ヒトの呼気ガス診断、農水産・畜産物の鮮度
評価など広範囲の応用が可能な機械です。しか
し、今までブレスマスによりフレーバーリリー
スを測定した知見はないため、ブレスマスでフ
レーバーリリースを測定する方法を確立するこ
とからスタートしました。具体的には、ブレス
マスで肉から発生するガス成分を採取するた
め、サンプル量、調理方法、咀嚼の再現、温度
等を検討し、分析のための処理方法を作成しま
した。図1は調理方法によるガス成分の違いを
示しており、茹で肉のガス成分が最も高いこと
を示しています。

呼気ガス測定装置(ブレスマス)
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オフフレーバーの特定
豚肉は、特有の「におい」「くさみ」によ
り、食べるのを敬遠している消費者が一部に
いるため、そのような嫌なにおい(オフフレー
フレーバー)を見つけることが重要と考えられます。
どのような肉でオフフレーバーが発生するかを
特定できれば、くさみのないおいしい豚肉が生
産できると考えられます。現在、香りに強く影
響すると思われる性別の違いについて検討して
います。雌、去勢、雄の肉のガス成分を調べた
ところ、それらのガス成分の間には、質量87と88の成分に違いがあるという傾向が認められま
した。今後、この様な特徴的なガス成分を中心
に、成分の特定を行っていきます。
最終的には、今まで「おいしい」という感覚
でしか伝えられなかった豚肉の評価について、
ブレスマスによりフレーバーリリースを数値化
できれば、新たな指標が作成され、県産豚肉のPRに貢献できると考えられます。
参考文献
松石昌典. 2004. 牛肉の香りと熟成. 日本味と匂
学会誌11. 137-146.
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