今年度の定期人事異動により畜産課長を命じられました。本県の畜産振興に全力を尽くして参りますのでよろしくお願いいたします。
 畜産をめぐる近年の情勢は、平成18年秋以降のアメリカのバイオエタノール需要の増大に起因した穀物価格の高騰や燃料や資材価格の高騰が続いたことから、畜産経営は深刻な影響を受けました。その後、アメリカの金融危機に端を発する世界的な不況の影響から飼料等の価格高騰は落ち着きを見せているものの、実質的な飼料価格は依然として高く、国内の畜産物価格も低迷していることから畜産業を取り巻く環境は今後とも予断を許さない状況にあります。
 このような状況の中、農林水産省では、国内における食料供給力の強化や国際交渉における戦略的な対応、農山漁村の活性化、資源・環境対策などを柱とする「21世紀新農政2008」を推進することにより、激動する世界の食料事情に対応した食料の安定供給体制の確立を目指すとともに、飼料価格高騰に対する畜産経営対策についても様々な施策を講じているところです。
 一方、本県では、「茨城県農業・農村振興計画」に基づき「食と農」「人」「地域」の3つの視点から本県農業を元気にする施策を推進しながら「消費者のベストパートナーとなる茨城農業」の確立を目指す「茨城農業改革」をさらに進展させ、全国をリードする力強い茨城農業の創出を目指しております。また、昨年度からは、農村における環境保全活動と環境にやさしい営農活動を地域ぐるみで推進する「エコ農業茨城」に取り組んでおります。これらのなかで畜産においては、常陸牛に代表される茨城の顔となる畜産物のブランド化や生産情報の公開、高病原性鳥インフルエンザ防疫体制の強化などによる安全・安心な畜産物の生産や家畜排せつ物処理施設整備の推進が計画の主な内容となっております。
 現在、畜産が直面している大きな課題は、生産費に占める割合の高い飼料価格の高騰であることから、畜産経営の安定を図るためには、輸入飼料への依存度を減らすことが重要であり、そのためには、飼料の増産や食品残さの飼料化を推進し、国産飼料の生産・利用を拡大していく必要があります。また、今後も畜産が消費者の理解を得ながら発展していくためには、家畜排せつ物の循環利用の推進と環境への負荷削減対策を併せて進め、「環境にやさしい資源循環型の畜産」を目指す必要があります。
 そこで、平成21年度の重点施策のうち、生産基盤の増強として、茨城中西部地区(筑西市、笠間市、小美玉市他)を対象として、「草地畜産基盤整備事業」を実施することにより、地域の飼料自給率の向上を図るとともに畜産の担い手の規模拡大や経営の効率化、安定化を支援してまいります。
 また、「飼料用稲利用推進事業」により、畜産農家における飼料用稲の利用拡大を図るため、WCSの利活用に必要な機器の導入による生産集団の活動や飼料用米を活用したモデル集団の活動を支援してまいりますとともに、引き続き「耕種作物等自給飼料確保緊急対策事業」により、飼料の収穫・調製等に必要な機械の導入を支援するなど飼料増産を推進してまいります。
 畜産物流通の促進及び畜産経営の体質強化としては、「常陸牛ブランド確立推進事業」により、引き続き常陸牛の販路拡大や生産履歴情報の公開、肉質や美味しさ等のデータ分析に基づく美味しい牛肉づくりに向けた取組など他銘柄との差別化を進めるとともに、酪農家における受精卵移植による常陸牛の増頭対策など常陸牛の産地強化に取り組んでまいります。

また、「系統豚普及・銘柄豚生産体制強化事業」により、系統豚の安定供給体制を構築し、ローズポークの品質向上と生産体制の再構築による生産拡大を推進してまいります。
 家畜衛生対策の充実と安全な畜産物の生産として、家畜伝染性疾病の発生やまん延防止、飼養衛生管理基準に基づく衛生指導の徹底を図るとともに、動物用医薬品の適正使用の推進を図ってまいります。また、「高病原性鳥インフルエンザ対策事業」により、引き続き、鳥インフルエンザの監視体制の強化と円滑な初動防疫体制の維持に努めてまいりますとともに、「牛海綿状脳症検査推進事業」により、24カ月齢以上の死亡牛全頭検査を継続し、BSEの発生拡大防止が図られるよう監視してまいります。
   畜産環境対策の充実として、家畜排せつ物の循環利用の推進と環境への負荷削減を進めるため「資源循環型畜産確立事業」、「いばらき畜産環境保全促進事業」、森林湖沼環境税を活用した「霞ヶ浦流域畜産環境負荷削減特別対策事業」により霞ヶ浦流域の畜産負荷削減を図ってまいります。
 試験研究の推進として、黒毛和種のうまみに関連する遺伝子研究、常陸牛のうまみ成分の分析や飼料米を活用した畜産物の生産など、本県銘柄畜産物の一層の高品質化に取り組んでまいります。
 これらの主要な施策に加えて、「生産基盤の増強」、「畜産物流通の促進及び畜産経営の体質強化」、「家畜衛生対策の充実と安全な畜産物の生産」、「畜産環境対策の充実」、「試験研究の推進と指導体制の充実」の5本を柱とする種々の施策を効率的、効果的に執行し、本県畜産の振興を図ってまいりますので、関係者の皆様のご理解ご協力をお願い申し上げます。

1 生産基盤の増強
(1) 乳用牛については、牛群検定や授精卵移植技術を活用した改良を進め、産乳能力の向上と高品質牛乳の生産を推進する。
(2) 肉用牛については、能力の高い供卵牛を活用した改良と優秀な種雄牛の作出、雌牛群の整備により産肉性に優れた肉用牛の生産を推進する。
(3) 豚については、系統豚や能力の高い種豚の造成を進め、それらを活用した高品質な豚肉の生産体制を整備する。
(4) 飼料生産基盤に立脚した畜産経営を実現させるため、飼料畑等の造成・整備を実施するとともに、水田を活用した飼料用稲の生産・利用の円滑化、耕作放棄地等未利用地の活用等を推進し、飼料増産を図る。
(5) 公共育成牧場に対する支援対策を実施することにより、公共育成牧場の一層の活用を図る。
(6) 耕作放棄地等を活用した和牛繁殖牛などの放牧技術の普及や受精卵を活用した増頭対策により肉用子牛の生産拡大を図る。

2 畜産物流通の促進及び畜産経営の体質強化
(1) 常陸牛、ローズポーク、いばらき地鶏等の県銘柄畜産物のブランド力を向上させ、それらを牽引役とした消費拡大対策を進めるため、販路拡大や知名度向上対策を推進するとともに、生産拡大や生産情報の公開、品質の向上や差別化等の取り組みを推進する。
(2) 「系統豚」を活用した銘柄豚「ローズポーク」の生産・販売体制強化を推進する。
(3) 農業改良資金等の制度資金を活用し、畜産農家の営農意欲の向上と生産性の向上を図る。
(4) 広域農業開発事業参加者に対し、営農指導を実施することにより、経営の健全化を図る。
(5) 養豚農家が経営的に安定した生産に取り組めるよう畜産物価格補償事業を推進する。
(6) 飼料価格の高騰対策関連事業を推進し、畜産農家の経営安定を図る。
3 家畜衛生対策の充実と安全な畜産物の生産
(1) サーベイランス検査による摘発淘汰と発生予察によって、家畜伝染性疾病の大規模な発生を未然に防止するとともに、発生時のまん延防止を迅速かつ的確に実施することにより、畜産経営の安定化を図る。
(2) 生産者自らが取り組む家畜伝染性疾病の予防への取り組みを支援し、市町村を単位とする地域の防疫体制を整備する。
(3) 家畜衛生情報の収集、診断予防技術の向上、防疫マップシステムの整備、動物由来感染症の家畜における発生状況の把握を行い、監視・危機管理体制を整備するとともに、慢性疾病対策による生産性向上を図る。
(4) 飼養衛生管理基準に係る衛生指導、安全な鶏卵の供給体制の整備、動物用医薬品の適正使用の指導及び飼料製造業者等への立入検査により畜産物の安全性を確保する。
(5) 24ヶ月齢以上の死亡牛のBSE全頭検査を推進し、生産段階におけるBSE監視体制を引き続き維持する。
(6) 高病原性鳥インフルエンザに対する監視体制の強化や防疫体制の充実を図る。

4 畜産環境対策の充実
(1) 「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」の管理基準に適合した家畜排せつ物処理施設の整備を推進する。
(2) 「霞ヶ浦水質保全条例」に対応するため、家畜排せつ物の処理施設など負荷削減施設の整備を推進する。
(3) 地域土づくり推進協議会と連携のもと、生産たい肥等の成分分析及び腐熟度等の品質診断と生産・利用の指導により、畜産農家における良質たい肥等の生産と耕種農家における利用の促進を図る。
(4) たい肥生産情報の提供、耕種農家との意見交換会などを実施し、たい肥の広域流通を促進する「茨城県たい肥利用促進協議会」への活動を支援する。
(5) 汚水浄化処理施設の巡回指導により畜舎排水処理の適正化を図る。

5 試験研究の推進と指導体制の充実
(1) 省力的管理、高付加価値畜産物の生産、未利用資源の有効利用など、社会的、経済的な要求に則した家畜飼養管理技術の確立に向けた試験研究を推進する。
(2) 肉用種雄牛の作出のための後代検定、系統豚の造成、受精卵移植等の先端技術の開発と応用を試験研究課題とし、家畜改良の推進を図る。
(3) 家畜ふん尿のリサイクルと家畜ふんたい肥の利用促進を試験研究課題とし、畜産環境保全技術の開発を図る。
(4) 畜産情報の収集・提供や畜産技術指導員等の設置により、畜産団体の組織活動の強化と指導体制の充実を図る。
(5) 畜産経営指導体制を整備し、各種経営指導を実施することにより、畜産経営体の経営及び生産技術の高度化を図る。
(6) 養鶏業の活性化と安全・安心な鶏卵・鶏肉の生産のための研究を推進する。


平成21年度畜産関係主要事業及び予算額

施  策  名 小  項  目 事  項  名 予算額(千円) 備 考
1 生産基盤の増強 家畜改良増殖費 家畜改良増殖対策事業費補助 6,122
家畜改良増殖対策事業費 9,585
飼料対策費 飼料特別対策指導事業費 2,429
耕種作物等利用自給飼料増産事業費補助 42,741
稲発酵粗飼料増産事業費 928
耕畜連携水田活用対策推進指導事務事業費 200
放牧等による遊休農地再活用推進事業費 673
飼料用稲利用促進事業 3,744
国産飼料資源活用推進事業 206
稲発酵粗資料生産集団育成事業費 6,000 新規
飼料用米地域流通モデル事業費 5,800 新規
牧野改良費 里美共同模範牧場整備強化事業費補助 5,496
畜産担い手育成総合整備事業費 105,105 新規
2 畜産物流通の促進及び
畜産経営の体質強化
畜産振興費 大家畜経営活性化資金利子補給金 84
大家畜経営改善支援資金利子補給金 315
家畜疾病経営大家畜経営維持資金利子補給金 649
畜産振興資金貸付金 841,000
酪農近代化促進費 150
酪農ヘルパー組織強化事業費補助 5,040
畜産物流通対策費 肉畜鶏卵生産流通促進事業費 1,314
畜産物価格補償事業費補助 12,252
系統豚普及・銘柄豚生産体制強化事業費 9,632
常陸牛ブランド確立推進事業費 16,810
牧野改良費 広域農業開発事業対策費 255
3 家畜衛生対策の充実と
安全な畜産物の生産
家畜衛生対策費 家畜衛生対策事業 22,232
家畜衛生特別対策事業費 5,063
獣医療提供体制整備事業費 920
動物用医薬品薬事監視費 691
家畜伝染病予防費 家畜伝染病予防事業費 47,567
牛海綿状脳症検査推進事業費 45,201
高病原性鳥インフルエンザ対策事業費 14,117
死亡牛牛海綿状脳症検査補助委託事業費 19,931
自衛防疫強化総合対策事業費 5,896
地域防衛防疫推進事業費補助 924
家畜保健衛生所費 家畜保健衛生所運営費 46,359
飼料対策費 飼料対策推進事業費 411
4 畜産環境対策の充実 畜産環境保全対策費 資源循環型畜産確立指導事業費 1,550
地域畜産環境対策事業費補助 200,690
資源リサイクル畜産環境緊急対策事業費 8,000
霞ヶ浦等畜産負荷低減推進事業費 734
家畜排せつ物汚水浄化処理特別対策事業費補助 30,000
家畜排せつ物処理新技術実証モデル事業費補助 20,000
直接還元解消対策事業費補助 25,000
良質たい肥広域流通促進事業費補助 2,000
5 試験研究の推進と
指導体制の充実
畜産振興費 畜産経営指導事業費 4,054
畜政推進事業費 9,652
指定助成等事務事業費 5,754
畜産経営指導体制円滑化推進事業費補助 30,327
畜産センター費 294,061