近年、わが国の畜産においては、生産性の向上と飼養規模の拡大が著しく進行し、家畜共済においても大規模経営(農事法人等)の加入も可能となった。これらに伴いさらに「家畜共済加入者」のニーズに合った制度とすべく平成16年4月より新改正制度が施行された。
 今回は、その制度についての紹介と、最近時の家畜共済事業についての紹介をしながら家畜共済事業の考察を加えたいと思います。

1.引受について
(1)共済目的の種類
 改正制度において共済に加入できる種類については、乳用成牛(出生後6ヶ月に達した日からの乳用種に属する雌牛をいう)、乳用子牛等(授精等後240日に達した胎児から出生後5ヶ月の末日までのものをいう)、肥育成牛(出生後6ヶ月に達した日のもので掛金期間開始時に肥育を行っているもの及び期間中に肥育が行われるものをいう)、肥育子牛(出生後5ヶ月までのもので掛金期間開始時に肥育を行っているもの及び期間中に肥育が行われるものをいう)、その他の肉用成牛(出生後6ヶ月に達した日のもので乳用種に属する牛、肥育牛として飼養している牛以外の牛)、その他の肉用子牛等(授精等後240日に達した胎児から出生後5ヶ月の末日までのもので乳用種に属する牛、肥育牛として飼養している牛以外の牛)、一般馬、種豚(豚であって繁殖に供するものをいう)、特定肉豚(種豚以外の豚で、加入時点で出生後20日を過ぎているか、且つ離乳しているものをいう)、となっている。
(2)加入状況
 現在の加入は、主に乳用成牛・肥育成牛・その他の肉牛等(肉用子牛・胎児を含む)・種豚・特定包括肉豚が大半を占めているが、13年度を頂点に飼養戸数の減少傾向とともに頭数の減少傾向にあった(グラフ1、2)。

グラフ1


 16年度については、改正制度を推進したため、乳用子牛・肥育子牛の新規引受頭数増が若干見られた。
 しかし、乳用子牛(胎児)等については、農家の共済組合に対する異動処理が煩雑なために、繁殖管理台帳等の整備がされていない農家の加入は困難であるとの問題指摘をされ、他県のような加入頭数の伸びまでには至らなかった(グラフ2)。

グラフ2


 12年度の制度改正では、事故除外への加入方式が拡大し肥育牛・種豚においては、全体の約50%以上の事故除外加入がみられるようになった(グラフ3、4)。
 今後、16年度改正で新規共済目的が追加された畜種については、危険段階別加入(農家被害率が3年後の掛金に反映する加入方式)・事故除外加入方式とともに推進することにより、大規模農家の共済加入ニーズに対応できていくものと考えられる。

グラフ3
グラフ4

 しかし、先進的大規模農家ニーズ(通常の飼養では予防衛生を主とした経営)にはこれだけで対応可能かといえば、加入推進時によく問題提起される診療獣医師「経営指導も受けれる産業動物診療獣医師」の減少により、オールリスク(死廃・病傷事故のすべてを含む)での共済加入が敬遠がちとなる場合が多々みられ、今後の家畜共済事業にとっても憂慮すべき状況と考える。また、規模拡大のみを優先した畜産経営に対する危機的(防疫対策が手薄となる)状況であるとも考えられないだろうか。

2.異動について
 共済関係での異動の種類には、導入、資格取得、授精等後240日目、譲渡(出荷を含む)、母畜の譲渡等による資格喪失、出生、資格喪失(資格取得前の異動による)、死廃事故等があり、これらの事象が発生した時点ですべて、もよりの共済組合等へ速やかに異動通知をすることが義務化されております。
 さらに、14年度からは、牛トレーサビリテイ法による個体識別番号耳標の装着が開始され、個体識別が明確となり、16年・17年度に実施された会計検査においても全国の共済組合等において、個体識別番号登録耳標との対比で異動の不適正を指摘され、今回の改正において共済事業としてもこれらを活用し個体の把握をすることとなった。
 今後、共済としても加入農家の協力をもとめながら、一層の異動徹底を図らなければならないところでありますので、関係機関等においてもご協力をお願いします。

3.共済事故について
 11年度以降の各畜種における死廃事故の発生状況を見ると、全体的には減少傾向にあるが、13年・14年度には、乳用牛・肉用牛で若干の発生割合が増加傾向をたどった。これらの要因としては、14年度夏季の暑熱及びBSE騒動による畜産農家の不安定な飼養形態での牛への影響があったのかと思われるような事故発生(死亡事故の多発)の傾向が見受けられた。
 そして、その後の事故についても、一頭当たりの共済金の支払いが拡大傾向にあり、農家経営にとっての損害額は共済事故発生状況(グラフ5、6)とは異なり、拡大傾向となったまま現在も続いているものと思われる。
 現在、「死亡牛及びサーベイランス牛の全頭検査」が実施され当分の間継続されるとのことであり、共済事故で起立不能となるような事故については、農家の意図にかかわらず全損事故となってしまうので、今後ますます慎重な飼養形態が要求されるようになるものと思われる

グラフ5


グラフ6


4.近年における病類発生状況
 最近の病類発生状況については、ここ数年の減少傾向以外に特別な発生状況はみられないが(表1)、全体的加入が事故除外(火災・自然災害・伝染病等の発生に対してのみが補償の対象となる)方式へと推移しているため、一般的な疾病発生の傾向を把握することが難しい状況となる傾向にある。我々共済としても本来の保証にての加入を推進したいところではあるが、先にも記したように、畜産経営に対応する診療獣医師数の減少が、そのひとつの加入要因ともなっており、また このことは共済の損害防止事業実施にも支障をきたす状況となってきている。
 このような現況の中で、大規模経営者の共済に対する一般損害保険「いざという時のための保険」に近い保証内容(事故除外加入方式)の期待が益々大きくなって行くなかで、伝染病等の疾病が発生した場合、これらの加入方法ではそれら疾病発生の把握も遅れ被害の拡大につながる可能性がある。また、共済としての財源確保という観点からも、災害補償としての使命に不安が募っていく状況となるものと思われる。