はじめに
クローンとは「1個の細胞あるいは個体から無性生殖によって増えた、全く同一の遺伝子をもつ細胞群あるいは個体群」という意味です。動物においても一卵性双子のように、まれにではありますが、全く同じ遺伝情報を持った複数の個体が誕生することはあります。しかし、これは偶然によるもので、クローンを人為的に誕生させる技術がクローン技術です。
体細胞クローンはヒツジ、マウス、ウシ、ヤギ、ブタ、ミニブタ、ウサギ、ネコ、ラバ、ウマ、ラ
ットおよびシカで成功しており、つい最近イヌでの成功が発表されました。動物種によって成功率に大きな差がありますが、皮膚などの体細胞を培養して増やしながらドナー細胞として使用できるので、できるクローンの数は理論上無限です。
豚における体細胞クローンの研究は人間の医療利用を主な目的として始められ、2000年に世界初の体細胞クローン豚が英国と日本(農林水産省畜産試験場)でほぼ同時に誕生しています。都道府県では、茨城県の他に鳥取県と静岡県で成功しています。平成17年5月現在、全国4機関、2大学で合計139頭のクローン豚が誕生しています。
豚におけるクローン技術の応用には、以下のようなことがあります。
1.希少な品種の体細胞を遺伝資源として保存しておけば、クローン技術を使って再生増殖させることができます。
2.優良な豚のクローンを増やすことで、高品質な畜産物(肉など)を安定的に供給することが可能となります。これには上記の1と同様、遺伝子操作を行いません。
3.人間に有用な遺伝子を動物の遺伝子に組みこみ、その動物の生産物から有用な物質を生産させ、医薬品の生産に用いることができます。クローン技術ではドナーの細胞を培養するので、そこで目的とする遺伝子を導入する方法です。生まれたクローン豚は遺伝子組み換え家畜として利用されます。
4.人間の移植用の臓器として豚の臓器が注目されており、移植による拒絶反応を遺伝子レベルで排除することで臓器移植に利用できます。しかし、このような豚から人への異種移植の場合はウイルス感染の危険性が指摘されており、これら感染症の対策が不可欠です。
当センターでは、上記の遺伝子操作を行わない1、2の利用法を目指して、平成14年度から畜産センターとプライムテック株式会社(土浦市)の共同研究として体細胞クローン豚の生産の予備試験を実施してきました。プライムテック社がクロ
ーン胚作出を担当し、畜産センターが移植手術と代理母の発情同期化および飼養管理を行いました。その結果、平成16年10月30日に養豚研究所で5頭の体細胞クローン豚が誕生しました。元の体細胞は養豚研究所で飼養されているランドレース種雌豚の耳の細胞です。その後クローン豚は正常性調査のために飼育され、約9ヶ月齢に育っています。ここではその研究の概要を紹介します。
体細胞クローン技術を使う理由
豚系統は閉鎖群で維持するため、近交退化による産子数減少等で、長期間維持することが困難とされています。また、豚の受精卵は凍結保存にきわめて弱いため、受精卵での保存も困難で未だ実用化されていません。牛では受精卵を体外で長く培養し、その後凍結保存することが当たり前ですが、豚ではとても困難なことなのです。そこで、耳の皮膚等の体細胞を採取して凍結保存しておけば、遺伝資源を後で生産・増殖させることが可能となります。これが、畜産領域での豚クローン技術の主な利用方法です。
どのようにして体細胞クローン豚をつくるか
1.卵子の成熟培養と除核
卵巣の小卵胞から、注射器を用いて卵子を吸引します。良質な卵子を選別し、約48時間培養し、卵子を成熟させます。そして、培養した卵子のうち第一極体を放出して成熟しているものを選びます。クローンでは卵子の核は不用なので除去します。これを除核と言います。細いガラスの管をもちいて極体と周辺の細胞質を吸引除去して行います。こうして得られた核のない卵子をレシピエント卵子として使用します。
2.ドナー細胞の準備
体細胞クローンのドナー細胞としては、卵丘細胞、卵管上皮細胞や上皮由来線維芽細胞など様々な由来の体細胞が使用されていますが、ここでは、耳由来線維芽細胞を継代培養したものを使用しています。どんな時期の細胞でも核移植に用いることができるわけでなく、休眠状態で周期が止まった状態(G0期)の細胞が必要です。そこで、培地でシャーレ一面に増殖するまで培養し、細胞周期を調節します。使用当日にはシャーレから細胞を剥離して、ドナー細胞として使用します。
3.ドナー細胞の注入
除核した卵子の細胞質へドナー細胞を注入します。ピエゾ式マイクロマニュピレータという器械をもちいて顕微鏡下で操作します。
(写真:プライムテック社)ドナー細胞を除核した卵子へ注入しようとするところ
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4.活性化処理および発生培養
核を注入して1〜2時間後に電気融合処理により活性化を行います。活性化した卵子は合成培地
で培養にかけられ、成長を始めます。
(写真:プライムテック社)2〜4細胞に発生したクローン胚
5.代理母への移植
2日ほど培養したクローン胚は、当センター養豚研究所で飼養していた代理母豚(受胚豚)に移植されます。ホルモン処理により代理母豚の発情周期をクローン胚と同期化しておきます。そして、発情後2日目にクローン胚を1頭あたり100〜200胚移植します。牛のように体外での培養が確立していて、胚盤胞まで発育した胚を開腹手術無しに子宮に移植できるなら簡単ですが、豚の胚は体外培養が難しいため、2細胞から4細胞に発育した早い段階で全て卵管に移植しているのです。
移植による受胎率はいまだ10%と低いのですが、技術のポイントが代理母豚の発情同期化であることがわかりました。代理母豚の卵巣と子宮の状態を良好に管理することで将来的に受胎率の向上が可能と考えられます。
(写真)開腹手術により卵巣と子宮を確認しているところ
(写真)クローン胚を卵管に注入しているところ
これまでの研究の成果によって、以下のような結果が得られています。
1.クローン豚のDNAを調べた結果、ドナー豚のDNAと同一であることがわかりました。
2.クローン豚の体重を測定した結果、クローン豚はドナー豚と比較して、ほぼ同様に発育することがわかりました。
現在の状況
現在、生産されたクローン豚は発育能力や繁
殖能力における正常性に関する調査が行われています。雌なので発情等の性行動や受胎性を調査しているところです。順調であれば、今年中に後代子豚が生れる予定です。
(写真:養豚研究所)生まれて数日のクローン子豚
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と き 10月1日(土)、2日(日)AM10:00〜
ところ 八郷町根小屋 茨城県畜産センター |