平成17年2月14日、常陸大宮市の全農茨城県本部家畜市場でのセリ終了後、畜産センター肉用牛研究所、県草地協会共催により、繁殖和牛農家などの関係者約100名が参加して繁殖和牛の耕作放棄地放牧セミナーが開催されたので、その概要を紹介する。
1.本県での耕作放棄地放牧の実施状況
 本県の耕作放棄地面積は約12千で年々増加している(H12農業センサス)。そこで肉用牛研究所では、平成14年度に「耕作放棄地繁殖和牛放牧利用技術検討会(構成:県草地協会、県北の地方総合事務所、農業改良普及センター、市町村、農協)」を組織し、設置、移動が簡易に行える電気牧柵を利用した耕作放棄地放牧の推進について検討してきた。
 当研究所で繁殖和牛を耕作放棄地に放牧し、放牧牛のボディーコンディションや放牧地での採食行動などを観察した結果、@繁殖和牛は我慢強く賢い動物であること、A県内の耕作放棄地に生えている野草はほぼ食べ尽くすことができ、離乳から分娩2ヶ月前では野草のみで十分であることが実感された。
 耕作放棄地放牧のポイントは、放牧に適した繁殖和牛を確保することであり、@初めて放牧する場合はパドックでの屋外での飼養や電気牧柵への馴致をおこなうとともに牛の放牧適性を判断し、A給与飼料の野草への馴致などが必要である。
 平成15年度は、当所飼養の繁殖和牛2頭を金砂郷町(現常陸太田市)の元畑と元水田であった耕作放棄地に5月末から放牧し、実証展示と説明会を行った。植生は、ススキ、クズ、ヒメジオンのほかに、牛の嗜好性が低いとされるヨモギ、セイタカアワダチソウ、ギシギシなどであったが、慣れるとこれらも食べ尽くした。また繁殖和牛2頭を同じ元畑(20a)に秋にも放牧し年に2回計53日間放牧できた。また2頭を3カ所の放牧地で転牧を行いながら分娩予定の1ヶ月前まで連続して約4ヶ月間放牧し、正常分娩(子牛体重、雌28kg 雄37kg)した。これらの成果及び電気牧柵一式で乾電池式電牧器を利用した場合20につき5万円ほどで設置できることなど経費面も盛り込み、県草地協会とともに、耕作放棄地放牧マニュアルを作成した。
 平成16年度は、春に県最北部地域の和牛繁殖農家を対象に普及を図るため、高萩市で地元の農業改良普及センター、農協、県草地協会等の協力を得て元水田で電気牧柵設置の実演をした。あらかじめ電牧線の下の草刈りを行った耕作放棄地30aを、2人作業で2時間弱で設置し、労力のかからないことを実証展示した。その後そこで放牧実証展示を行い、普及を図ったことなどで16年度は県内で8市町村の17農家が耕作放棄地23カ所、12ha余で放牧するに至った。
 全国的に繁殖和牛頭数は、停滞傾向にある。本県では、繁殖農家が県北部地域に集中しているが、耕作放
棄地の野草、雑草も飼料として利用できる繁殖和牛の放牧は全県的に普及できると思われる。
2.耕作放棄地放牧のメリットと問題点

(1)メリット
@ 購入飼料費の節減(低コスト)
A 労力の軽減(省エネルギー)
B 受胎率の向上(繁殖成績の向上)
C 飼料自給率の向上
D 野生動物の棲息域の抑制(イノシシ対策)

(2)問題点
@ 衛生害虫(ハエ、アブ)対策

耳標型殺虫剤を装着してから放牧する。
A 飲水器の設置

 風呂桶などの利用。降雨時飲水器周辺が泥濘化するので設置場所に注意。
B 牛の捕獲

 日頃牛の観察時に少量のえさを手渡しで与え、人に慣れさせると捕獲しやすい。連動スタンチョンや追い込み柵の利用。
3.関連助成事業
 畜産協会から繁殖雌牛の導入費、電気牧柵経費、簡易牛舎設置費などが補助される地域肉用牛振興特別対策事業を説明した。
4.意見交換の概要
○1ヶ月放牧して、飼料費、労力等低減され牛も順調であった。○2ほど実施した。子牛の繁殖率も良く近くに放棄地が増えているので、増頭している。牛が逃げたときがあったが、家に戻ってきた。逃げたときは電牧線1段張りであった。2段張りがよい。○分娩予定1ヶ月前まで放牧できた。○雨風のなか心配したが、問題なかった。牛の出し入れで癖のある牛もおり、そのような牛は放牧に適さないと思う。○捕獲には前の日から2、3日フスマを与え、鼻環をつかまえると良い。○これから取り組みたいので、現地実施事例を見たい。
 今後取り組みを計画しているところは、地元農業改良普及センター、市町村、農協や畜産センタ ー肉用牛研究所に相談下さい。また土地の利用(斡旋、仲介)について、市町村の協力が必要と思われる。