地域の概況
/
経営の概要
/
経営管理・飼養管理の特色
/
地域に対する貢献
/
将来の方向
/
経営への支援活動




 安達牧場がある笠間市は茨城県の中央部に位置し、県都の水戸市に隣接する。総面積は約240.27kuで、東西約19km、南北約23kmで市の北西部は八溝山系が穏やかに連なる丘陵地帯で、南西部には愛宕山が位置し、北西部から東南部にかけて概ね平坦な大地が広がり、中央を涸沼川が北西部から東部に貫流している。 夏は気温、湿度ともに高く、冬は乾燥した晴天の日が多い太平洋型の気候となっている。
 市内の農家戸数は4374戸(平成22年)、耕地面積は4051haで、主な生産物は栗、梅、菊で、花き類・花木は県内3位の生産量・誇る。
 笠間市全体の畜産農家戸数は、酪農36戸、肉用牛19戸、養豚12戸、採卵鶏8戸、ブロイラー2戸で、市内には全農笠間乳肉研究所、東京大学付属農場を有する。









 安達政弘さんは1999年(平成11年)、政府系シンクタンクを退職し46歳で2頭の黒毛和種肥育経営からスタートした。5年、10年、15年後の長期計画を立て、コスト意識をもった経営を目指し、2000年(平成12年)に自己資金による素牛導入で20頭規模まで拡大し、自身による手作り牛舎を建設した。
 その後、BSEや口蹄疫、東日本大震災など逆境に見舞われたが、それを逆にチャンスと判断し、素牛価格が下落しているうちに増頭を進め、10年後の2011(平成23年)には目標としていた100頭規模となった。現在は90頭を飼養し、銘柄牛の「常陸牛」を生産している。
 安達さんの経営の特徴は、@簿記や生産記録の記帳、A作業効率の改善、BPR活動やメディアへの露出といった積極的な販売戦略、Cデータ分析に基づく素牛の選定、の4点が挙げられる。詳細は後述するが、これらにより安達さんの経営は生産性に優れ、一方で地域の畜産農家、耕種農家との連携を深め、資源循環型畜産への取り組みを進めている。









【簿記や生産記録の記帳】
 コスト意識を持つために、経営データをしっかりと捉え、飼養管理(牛の個体 管理、治療履歴等)、生産費等(素畜費、 飼料代等)の費用記録をまめに記帳し ている。
 また、農業者を対象とした地元の青 色申告勉強会(笠間地区パソコン研究 会)でも農業簿記ソフト「ソリマチ」 を使った簿記勉強会に参加し、自身で 青色申告書の作成も行い、研究会の会 長も務めている。
【作業効率の改善】
 安達さんの経営では現在、地元の定 年退職者を1人雇用し、飼養管理作業 全般を任せている。雇用に当たり、作 業マニュアルを作成し、作業内容を分 かりやすく解説。さらに、個体ごとに 血統や導入日を記録したボードを牛房 の入口に設置するなど、誰が作業して も間違いが起こらないよう工夫してい る。また、牛舎の飼槽の高さや用具の 位置など、作業導線に考慮し、効率よく作業 できるよう自身で設計、建築した。  従業員とは年に二度、互いの家族と一緒に 日帰りの旅行に出かけたり、生産した牛肉を プレゼントしたり、福利厚生の充実も図っている。
【販売戦略】
 一般に生産者は牛を育てることにのみ重点 を置き、販売対策が弱い面があるが、安達さ んは6次化の流れを見込んで自身でも積極的 に常陸牛を売り込み、生産から販売、そして 消費までフードチェーン全体に力を入れてい る。
 そのためには、地域の・s場に安定的に良い 物(良い牛)を供給すること、自分のブラン ド化(安達さんの育てた常陸牛として)を確 立することが収入の安定には何より大事なこ とと捉え、生産から消費に至るまでの人間的 な信頼関係の上に成り立つものと考えている ことから、次のことを実践している。
 @出荷時は、必ず枝肉市場へ出向き、自分 の枝肉の確認や、自分より成績の良い枝肉の 状況を把握し、市場で会う生産者同士の情報 交流や、買参人との人間関係を深め、高く売 れるためにはどうするかなど、消費者のニー ズの確認をしている。
 A自分の枝肉を地域や友人などに広くPR する(地元のイベントなどで肉を提供)。
 B自身で育てた常陸牛を提供してくれる店 を開拓することにより、お店にも買参人を紹 介することができることや、友人やお客さん を招待し、色々な意味で理解してもらうため の試みとして実践している。現在、フランス 料理2店、寿司店2店に、安達さんが肉を市 場で買い戻して卸している。
 C常陸牛指定生産者として、各種メディア 等の取材、研修にも惜しまない対応をとるこ とにより、自分の経営のみならず、茨城県の 常陸牛を知ってもらうための努力をしてい る。
【データ分析に基づく素牛の選定】
 素牛導入型の肥育経営で、生産技術の高品 質化を図るため、データ分析等により、自分 に合った素牛の生産農家や血統などをいち早 く見極め、適正な価格で購入することが牛飼 いのポイントと捉えている。
【コスト削減の取り組み】
 近年高騰している敷料用のオガコは製材工 場に収集に行くことで無償で譲渡してもら う、稲わら収集を家族で行う、機械は中古の ものを探して購入するなど、コストを極力抑 えることを徹底。また飼料メーカー2社に飼 料価格を競わせ飼料費の低減を図っている。







【家畜排せつ物の処理について】
 家畜排せつ物法に基づく堆肥舎での処理方 法により堆肥生産を行っている。近隣耕種農 家との耕畜連携を図り、堆肥はマニュアスプ レッターによる散布(3t=3000円)まで行 うなど、耕種農家の負担軽減をするとともに、 近隣住民には、畜産への理解をしてもらえる よう取り組んでいる。さらに、大手飲料メー カーの主力商品の原料となる野菜を生産して いる農家への堆肥の流通販売、また、それら の堆肥を利用した地元の特産品、栗、梨、米 (ホタル米= 5s)も販売し、地域資源循環 型農業を推進している。













 現在、2人の息子は社会人(会社員)とし て生計を立てているが、どちらかが後継者と して、これまで築き上げた肉用牛経営を継承 してほしいと願っている。政弘さん本人がま だ62歳であり、今後10年は経営を続けて行く 計画である。








 平成19年より茨城県畜産協会が経営診断 (畜産経営改善指導チーム)を実施し、それ に基づき以下の2点をはじめ、経営収・xの把 握や改善方法の検討・ノ取り組んでいる。
 @飼養管理(個体管理)に関するデータ収 集の仕方について、自身で管理できるよう EXCEL管理表を導入、出荷までのデータ管 理を行い、それに基づく基礎データ管理の仕 方について指導を受け、現在も活用している。
 A当初の診断から枝肉重量が小さい状況が 最大の課題であり、改善のため、それまで2 回給与体系から、昼間の給与を含めた3回給 与(朝4s・昼2kg・夕4s)を取り入れ、 増体する取り組みを実践した。その結果、平 成19年の出荷平均枝重481sから、平成22年 には524sと改善した。
 安達さんは「『牛飼いと人間関係の構築』 は重要であり、第三者の目を入れることによ り、自分では気づかなかった点、再確認でき る点など、関係機関と接することにより自身 の視野や活動範囲を広め、生きがい、やり甲 斐を深められる」という。
 農家および買参人との信頼関係も重要だ が、自身の所属団体(茨城県家畜商業協同組 合)や、その他畜産関係団体とも連携をとり、 さまざまな関係機関等(農家、獣医、教師、 団体職員等)との勉強会にも参加している。