地域の概況
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和牛繁殖肥育一貫経営の先駆者
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繁殖成績
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繁殖牛の改良
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肥育成績の向上
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消費者に評価される牛づくり:佐藤 ブランドの確立へ
耕畜連携で地域貢献を図る
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周年放牧による景観維持・耕作放棄地解消
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県の和牛育種改良に貢献
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後継者育成
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経営への支援活動




 佐藤宏弥さん・博子さんの農場(屋号:ドリームファーム)のある常総市は、茨城県の南西部、都心から55km圏内に位置しており、 東はつくば市・つくばみらい市、西は坂東市、南は守谷市、北は八千代町・下妻市にそれぞれ接している。標高は約5 〜 24mで、四季を 通じて穏やかな太平洋型の気候である。
 市のほぼ中央には一級河川の鬼怒川が流れており、東部の低地部は広大な水田地帯である。西部は丘陵地で、集落や畑地、平地林が 広がっているが、住宅団地や工業団地、ゴルフ場なども造成され、近郊整備地帯として都市機能の強化も図られている。
 道路体系は、本市を南北に国道294号、東西に国道354号が整備されており、周辺市町村と連絡する主要地方道や一般県道がある。 さらに、本市のほぼ中央部には首都圏中央連絡自動車道が計画され、広域道路網の整備が進んでいる。
 また、南北に関東鉄道常総線が走り、取手方面と下妻・筑西方面を結び、守谷においてつくばエクスプレスと接続し、東京都心など への所要時間の短縮により通勤圏の拡大が進んでいる。
 農業は、平坦で広い農用地を生かし大消費地に向けて稲作、白菜、スイカ、メロン、ホウレンソウ、ネギなどの野菜を出荷する都市 近郊型農業が盛んに行われている。平成25年大八州開拓団により開田された。現在でも、大八洲開拓農協の組合員は隣接する守屋市を 含め、17戸が酪農・A4戸が肉用牛経営を営んでいる。







 宏弥さんは20歳で就農し、経営当初は乳用種の肥育に取り組んでいたが、昭和57年ころから交雑種の肥育へと経営を切り替えた。平成3年には牛肉輸入自由化の影響を考え、黒毛和種へと経営の転換を目指したが、肥育経営は素牛価格や枝肉価格といった外的要因の変化による収益変動が大きいことから、平成4年2月に繁殖和牛を導入し、和牛繁殖肥育一貫経営を目指した。
 一貫経営は繁殖牛導入から育成、分娩、子牛の育成・肥育から出荷まで4年近い期間が必要で、基礎牛の導入費に加え、繁殖牛、子牛、肥育牛の飼養費が必要で飼養管理が複雑になるため、当時県内では、一貫経営にチャレンジしようとする経営は数多くあったが、なかなか定着しなかった。
 そのような中で佐藤さんは交雑種の肥育を継続して経営の基盤を維持した状態で、地道に数頭ずつ繁殖牛を導入し、系統の良い自家産牛を保留しながら、資金繰りに苦慮しながらも自己資金で増頭を図り、長男が就農した平成13年には、繁殖牛30頭まで規模を拡大した。
 屋号である「ドリームファーム」の由来は、「目標・希望・夢を持って経営に取り組めば「苦」も「楽」となる」ことからで、これを経営哲学としている。












 限られた飼料基盤の中で、繁殖経営に取り組んでいたが、平成12年から菅生地区で飼料稲の生産に取り組み始め、栽培を耕種農家、収穫を佐藤さんが行う耕畜連携により、飼料稲の栽培面積は15haまで増加。粗飼料不足の解消と堆肥還元圃場の確保の点で経営の転機となった。
 しかしながら、親子2世代の労働力では、飼料稲の作業が増える9〜 10月の農繁期では限界に達し、作付品種による収穫時期の分散によって多少緩和されたものの労働時間は減ることはなく、また、牛舎の規模も上限に達したことから、繁殖牛50頭規模から増やせない状況だった。
 その状況を解決したのが、(独)農研機構が取り組んだ「稲WCSを利用した繁殖牛の周年放牧」の試験研究への参加だった。周年放牧に取り組むことで、飼養管理や飼料稲の収穫運搬作業の軽減が図られ、その後飼養結果が順調であったことから、県の「元気アップチャレンジ事業」や「地域肉用牛事業」の助成を受け規模を拡大し、現在では繁殖牛80頭規模にまで増頭し、家族労働による多頭飼養を実現している。







 ドリームファームでは下記の取り組みにより、経営診断を開始した平成15年以降、10年続けて1年1産を達成している。

@稲WCSとヘイキューブの組み合わせを基本として、粗飼料主体の栄養バラ
    ンスのとれた繁殖牛を飼養している。
A発情発見に努め、息子の治彦・≠ェ授精師として、適期授精を心掛けている。
B放牧を始めてからは、適切な運動と栄養状態の改善が図られている。

 平成24年の成績では、受胎率53.1%ながら平均空胎日数は68日の好成績となっている。繁殖牛の状態がよいことから発情回帰が早く(授精開始日の平均が分娩後44日)、発情発見率は85.7%と初回受精で受胎しなかった場合でも、発情発見に努めて適期授精を行っていることが数字に表れており、このことが良好な繁殖成績につながっている。











 育種価と産子の肥育結果から繁殖雌牛の能力把握に努め、高能力牛の産子を積極的に保留し、高能力牛の受精卵を成績の悪い母牛につけることで、自家産牛を中心に能力の高い母牛群の整備に取り組んできた。平成24年には、ドリームファームの育種価判明牛62頭のうち、9頭が県内の脂肪交雑育種価トップ50に入るなど、県内トップクラスの改良レベルを達成している。
 特に最近は全国的に牛白血病の陽性牛が増え、病気の蔓延が懸念されている。そのためドリームファームでは、牛白血病の清浄化に向けて4年前から取り組みを始めた。経営内に高い能力の基礎牛がそろっていることもあり、感染リスクのある外部導入を控え、自家産の雌子牛だけを繁殖牛に仕向けている。






 平成24年から平成25年にかけて・o荷・ウれた126頭の枝肉成績は、肉質等級4以上が条件である「常陸牛」率100%を達成している。常陸牛となる枝肉の中でも、BMSナンバーが二桁を超える割合が高く、上位クラスの枝肉等級5に格付される割合が75%を超えるなど驚異的な成績となっている。






 ドリームファームでは消費者に美味しいと感じてもらう牛肉生産を第一に考えて、ストレスの与えない飼養管理を心掛けている。その高品質な牛肉の評価から、年間を通じてドリームファームの牛肉を専門に取り扱う卸小売業者や専門業者が出てきた。そのため消費者の自分の牛肉に対する評価がこれまでよりはっきりと得られるようになり、自身の美味しい牛肉生産へのモチベーションや品質向上のための貴重な情報元となることから相互の信頼関係の構築を重視している。







 ドリームファームは専用収穫機を導入し、耕種農家が栽培し収穫を畜産農家が行う耕畜連携により稲WCSを生産している。そのほか、30ha分の稲わら収集を行い肥育牛に与える粗飼料を地域でまかなっている。水田に飼料イネなどを導入することにより、畜産農家では、自給飼料の生産拡大、堆肥の流通がスムーズになり、一方、耕種農家では、遊休水田の解消や堆肥利用による肥料代のコスト低減が図られている。特に、利根川の遊水地である菅生地区の水田では、台風上陸による被害のリスクが高く、飼料稲生産によって8月中に収穫可能な早生品種の導入できることは、地域条件に合っていると考えられ・驕B



(表2)販売肥育牛の枝肉成績の推移






 ドリームファームでは、牛舎から10km離れている大生郷地区の耕種農家菅原農園と連携し、遊休農地や水田を有効活用する肉用牛の周年放牧に取り組んできた。 放牧方法は、夏季(4〜 11月)は遊休農地(畑)に放牧し野草を採食させ、冬季(12 〜翌年3月)は隣接する水田に放牧し、運搬と給餌作業を軽減するため、現地で生産された稲WCSを給与している。放牧により、9ha以上の遊休農地を解消し、地域の景観を保持するだけでなく、地域住民への放牧説明会を兼ねた交流会を定期的に開催することで、住民に牛を身近で好意的な印象に感じてもらえるようになった。
 また、この取り組みは平成24年まで続いたが、この経験を生かして現在でも菅生地区で水田放牧を継続し、大生郷地区では、耕種農家の菅原農園が自ら繁殖牛を導入し、新たに和牛繁殖経営に参入して水田飼料作物を栽培するとともに、放牧による和牛飼養を開始した。


(図)放牧による地域資源循環






 ドリームファームでは、長年の改良により、高い育種価の繁殖牛を多数飼養している。特に高い育種価をもつ繁殖牛には・A県の指定交配に積極的に・ヲ・ヘし、種雄牛候補牛を多数輩出することで、県の育種改良に貢献している。また、平成24年に長崎で行われた「第10回全国和牛能力共進会」に向けて、県有種雄牛「北国関7」の産子を多数生産し、9区肥育牛の部において茨城代表として2頭出品し、一等賞を受賞した。佐藤さんは将来は種雄牛を保有するブリーダーになるのが夢だという。






 平成12年に長男が農業大学校を卒業して就農。一貫経営では一般的には繁殖と肥育で作業担当を分けることが多い中、ドリームファームでは、経営の後継者として繁殖から肥育まですべての管理を任せ、経営成果に対する責任を自覚できる環境を作った。
 飼養頭数が増えてきた平成20年には、スーパーL資金で6000万円借り入れし、自分たちが理想とする作業性のよい牛舎を新築した。牛舎新築により飼養環境が良くなるだけでなく、将来に向けた設備投資を行うことで肉牛経営に対するモチベーションが向上した。






公益社団法人茨城県畜産協会では、平成16年度より一貫経営のモデル農場としてドリームファームの経営支援に取り組んでいる。支援内容は、経営診断によって増頭を行っていく中で複雑になる経営内容の把握し、繁殖部門と肥育部門それぞれ技術・経営成績の評価を行った。また、県内の支援機関と連携し、飼養管理、育種改良、飼料生産といった分野ごとの課題解決にも取り組んでいる。
 飼養管理面では、一貫経営を始めた当初は質量ともに個体間のバラつきが大きく、枝肉販売価格が導入型の肥育経営と比べ大きく下回る成績であった。そこで茨城県畜産農業協同組合を中心に一貫経営のメリットを活かす早期肥育開始のための肥育マニュアルの作成、個体間のバラつきを減らすための群編成方法の指導など改善に向け取り組んだ。
 育種改良面では、繁殖牛の育種価情報の提供や茨城県畜産センターによる受精卵移植技術指導により、母牛群の改良促進を支援した。飼料生産面では、結城普及センターを通して県草地協会の自給飼料コンクールに出品し、品質評価と技術指導により自給飼料の高品質化と増収に取り組んでいる。
 また、放牧指導については、国の研究機関である農研機構の試験研究の一環で行われておりましたが、中央畜産会の実施する専門家派遣事業により、経営診断実施日に中央農研の研究者を派遣していただくことで、多面的な支援が実現できた。
 近年では、1年1産である分娩間隔12カ月以内の成績を維持し、育種価上位牛を多く作出し、一貫経営でありながら2年連続で出荷頭数全頭が枝肉等級4以上のみに刻印される「常陸牛」となるなど経営の基礎をなす技術が特に優秀であり、経営内容も大幅に改善してきている。また、低コスト、省力化、自給率向上につながる耕畜連携による稲WCS生産や放牧等に積極的に取り組む一貫経営のモデル的な事例となっている。