従来から黒毛和種繁殖牛の放牧は,低コストで省力的な飼養管理方法として活用されています。
近年,購入飼料価格の高騰と担い手不足への対応が求められるなか,簡便な電気牧柵の普及により小規模な遊休農地を利用した放牧が可能となり,放牧が見直されています。
しかしながら放牧利用は春から秋にとどまり,秋から春には牛舎で飼養する形態が一般的であることから,放牧期間を延長することにより一
層の低コスト化・省力化が求められています。
そこで当所では,放牧期間の延長と周年放牧技術を開発することを目的に採草地,水田,遊休農地等で放牧利用するために試験を実施しています。
試験1 牧草の追播効果の検討
放牧地を冬季に利用するため,秋に放牧が終了した後に追播する寒地型牧草の草種及び追播時期,利用時期を検討した結果,10月中旬のライムギの追播が最も適していました(表1)。利用時期は1月中旬〜4月下旬まで1番草〜3番草まで利用が可能でした。
追播による放牧実証試験を行った結果,同一圃場で冬季に2回放牧可能なことが実証され,牧養力は1月中旬で14.0CD/10a(1番草),3月下旬で16.0CD/10a(2番草)となりました。
試験2 水田の冬季放牧地としての利用性の検討
水田の冬季放牧を検討するために,イネの種類(もち米,うるち米,飼料米)によるひこばえの利用性を検討しました。
イネの種類では飼料米ひこばえが推定牧養力及び推定TDNとも最も高く,放牧利用には飼料米ひこばえが適していました。
この結果をうけ9月中旬の稲刈り後に尿素施肥を行った後,イタリアンライグラスを追播して放牧実証試験を行いました。11月下旬〜12月中旬の間,5.8CD/10aの牧養力を示したことから,飼料米ひこばえとイタリアンライグラスを利用して年内放牧が可能なことが実証されました。
試験3 秋季備蓄草地を利用した冬季放牧の検討
冬季の放牧利用を目的に禁牧し草を蓄えた秋季備蓄草について,窒素施肥による備蓄期間及び利用性の効果検証を行いました。
寒地型牧草の草地の備蓄期間は,施肥を行って60日間備蓄した11月中旬の推定牧養力は無施肥で90日間備蓄したものと同程度でした。
11月中旬以降については,霜により半ば枯葉状態(フォッゲージ)になりましたが,1月中旬まで推定牧養力は40CD/10aを維持し,成雌牛維持の必要成分量を満たしていることから,1月中旬まで放牧利用できることが示されました(表3)。
また,放牧実証試験を推定牧養力が最大になった12 月中旬に行った結果,嗜好性も良好でした。
本年度もそれぞれの実証試験を継続実施中であり,組み合わせによる周年放牧の検証について今後とりまとめてお知らせしたいと考えています。
*語句説明
※ひこばえ: 刈り取り後のイネの茎から自然に出る側芽が伸びたもの。
※寒地型牧草: 温帯地起源の牧草類。生育に好適な気温が15〜20℃と比較的低い。
※フォッゲージ: 晩秋の寒さにより半ば枯れ葉状になった草
※牧養力:草地で牛が何頭・何日飼養できるかを表す単位。500kgの牛を1日放牧すると1CD
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