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黒毛和種肥育牛に対する稲発酵粗飼料の給与と生産性について
茨城県農業共済組合連合会家畜課 久保木 正則

 稲発酵粗飼料(稲WCS)は,耕畜連携のも とで生産できる安全な粗飼料である。しかし, 肥育農場では,稲ワラと比較して稲WCS のβ カロテン含量が高いのではという不安から,あ まり利用されていない。
 今回,稲WCS の給与を推奨している農業協 同組合(JA)所属の肥育農場において,JA 飼 料給与マニュアルに沿った飼養管理を行う農場 (慣行区),このマニュアルに稲WCS 給与を追 加した農場(給与区),これら2農場における 代謝プロファイルテスト(MPT)結果および 出荷成績を検討した。その結果,稲WCS の給 与は,肥育牛の生産性を向上させる事が推察さ れたので報告する


 1.農場の概要

1) 肥育素牛導入状況(出荷牛対比,同一家畜 市場,10ヵ月齢前後,黒毛和種,去勢)




2)給与飼料
(1) 慣行区:JA 飼料給与マニュアル(粗飼 料:稲ワラ飽食,濃厚飼料:市販配合飼料, ビタミンA(VA)コントロール:24ヵ月 齢前後にて飼料添加剤等による暫時補給)
(2) 給与区:JA 飼料給与マニュアルに準ずる が,VA 補給無し。H21年当初から,肥 育前期において稲WCS を3s給与開始 した。同年秋頃,肥育後期から出荷まで 稲WCS を2s追加給与した。



 2.調査項目および期間

1) MPT:慣行区がH21年2月,給与区はH 24年3月。牛群全体から肥育期ごとに抽出。
2) 出荷成績:JA 販売実績よりH21年から3 ヵ年間。



 3.成 績

1) MPT(曲線内:肥育牛正常範囲,横軸:月 齢,○:慣行区,×:給与区)

(1) 共通点:両区共に体脂肪動員を示す遊離 脂肪酸が安定しており,肥育牛にて特有 の肝機能異常は見られなかった。

(2)慣行区:肥育中期頃までは大きな問題が 無く,飼養管理は良好であった。しかし, 後期頃から飼料摂取状況を反映するマグ ネシウム(Mg)「グラフ-1」や尿素窒 素(BUN)「グラフ-2」は低下する傾向 にあり,体内栄養度を示す総コレステロ ール(Tcho)「グラフ-3」やアルブミ ン(Alb)「グラフ-4」もまた低下して いた。本農場は24ヵ月齢前後から定期的 にVA の飼料添加等を実施していたので, VA コントロール「グラフ-5」は良好 であったが,飼料摂取の安定化には反映 されていない結果となっていた。

(3) 給与区:後期以降においてMg やBUN が 高く推移し,Tcho やAlb は良好となっ ていた。これは後期以降に対する稲WCS の給与により,濃厚飼料の摂取が継続的 に安定した結果と考えられた。VA につ いては,慣行区と同様に低下が顕著とな っていた。しかし,稲WCS 給与を反映 してβカロテン「グラフ-6」は高くな ったが,VA は低い状態で上手くコント ロールされていた。

2)出荷成績
 給与区において,稲WCS が未給与であっ たH21と完全に給与したH23を比較すると, 枝肉重量および上物率(歩留等級:A・B, 肉質等級4・5)にて,成績の向上が顕著と なっていた。







 4.考 察

 肥育牛の肉質向上を目的としてVA コントロ ールが普及,定着しており,特に肥育後期以降 においては,様々な手法により実施されている。
 今回,βカロテン含量が高く嗜好性の良い稲 WCS 給与により,後期以 降の飼料摂取は安定してい た。また,VA については稲 WCS のβカロテンを利用し ながら低くコントロールさ れており,その結果,枝肉 重量や上物率等の肥育成績 は良好となり,生産性が向 上したと推測された。
 ただし,稲WCS を肥育 農場で給与する際には,牛 群全体のVA コントロール の推移,濃厚飼料中のβカ ロテンを含めたVA 添加量 等を把握すべきと考える。
 転作等により稲WCS の作付面積は増加傾向にあるが,これを給与する 農場は少ない。また,飼料は高騰の一途となっ ており,国内で生産できる飼料を多く用いる事 が出来れば,経営は安定すると思われる。今回 の報告が,耕畜連携に反映される事を期待する。




※久保木正則様は,今年2月13日病気のためご逝去されておりますが,
この原稿は生前にご寄 稿いただいたものを掲載させていただきました。
心からご冥福をお祈り申し上げます。