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稲発酵粗飼料を活用した繁殖和牛放牧
茨城県農業総合センター 専門技術指導員 加 藤 康 明

 はじめに

 耕作放棄地等における簡易電気牧柵を用いた 季節放牧技術(春から秋)は,繁殖和牛農家の 省力化や地域環境保全技術として普及定着して きました。
 しかし,晩秋から冬季は草量が低下するため, 牛舎での飼養管理を余儀なくされていました。
 近年,冬季飼料として稲発酵粗飼料を利用する 放牧技術が取り入れられてきたので紹介します。


 放牧牛の選定

 放牧する牛は,入牧や退牧の手間を考慮して, 分娩予定が間近な牛は避けるとともに,分娩予 定日がなるべく近い牛を選ぶと退牧回数が減り 効率的です。
 また,元気がない牛や状態が悪い牛は放牧せず,舎飼いにしましょう。



 冬季の放牧管理

 繁殖牛1頭1日あたりの稲発酵粗飼料の給与 量は,約22sです。
 繁殖牛6,7頭を放牧する場合,2日に1度, ロールベール1個を給与するペースです。
 飼料コストは,稲発酵粗飼料の単価を13〜 14円/s(原物)程度として算出すると1日1 頭あたり280〜310円です。
 稲発酵粗飼料は,飼料中の蛋白質が低いため, 補助飼料として,ヘイキューブ700g / 頭・日 程度,または,配合飼料250g / 頭・日程度を 目安に牛の栄養状態にあわせて給与してください。
 また,飲水は,繁殖牛1日1頭あたり夏場は 35リットル,冬季でも15リットル程度必要です。
 冬季は,水槽が凍結する可能性が高いので, 毎日の観察のなかで必ず確認し,必要に応じて 氷を割るなどの対応が必要です。



 ロールベールの積み下ろし

 飼料用稲専用収穫機で調製されたロールベー ルは200〜300s程度の重さがあるため,ベー ルグラブなどの重機をもたない小規模繁殖牛農 家には扱いにくい飼料でした。
 一方で小規模であることは,ロールベールを 週に1〜3個運搬すれば飼料確保は十分なの で,重機は不要とも言えます。
 そこで園芸用の三脚ヘッドと単管パイプ,チ ェーンブロック等を組み合わせた安価な三脚 (写真1)を作ることで,ロールベールを簡単 に積み下ろすことが可能となります。(資材費 約34千円)


写真1 ロールベールの積み下ろし用三脚



 ロスが少ない稲発酵粗飼料給与

 稲発酵粗飼料のロールベールを給飼柵無しで 給与すると食べ散らかしや排せつ物の汚染等に より,約20%程度のロスが発生します。
 また,特定の場所で飼料を給与すると牛が常 時集まるため,蹄圧により放牧地が泥濘化しや すくなり,牧養力の低下につながります。
 そこで,(独)中央農業総合研究センターでは, 可搬給飼柵「らくらくきゅうじくん」(写真2・ 図1)を開発しました。


写真2 可搬給飼柵を利用した飼料給与「らくらくきゅうじくん」





図1 可搬給飼柵「らくらくきゅうじくん」の仕様


 この給飼柵はわずか29sと軽量であるため, 人力で簡単に移動できます。
 ロールベールを給飼柵に持ってくるのではな く,給飼柵の方をロールベールのところまで移 動させ,上から被せて使用します。
 また,給飼柵の下部には,ストッパーがある ため,牛が稲発酵粗飼料を放牧地に引き込むこと がほとんどなく,効率的な飼料給与が可能です。 (問い合わせ先(独)中央農業総合研究センタ ー土壌肥料研究領域 TEL:029-838-7179)



 県内での取組について

 県内で繁殖牛が最も多い大子町では,稲発酵 粗飼料の生産が盛んな結城市の水田において, 平成21〜22年度に2度に分けて,冬季放牧を 実施してきました。
 平成23年度には,結城市での冬季放牧の経 験を活かし,冬季の最低気温が-10℃になる 大子町で,放牧を実施しました。
 放牧牛は開始1ヶ月こそストレスによる体重 の減少がありましたが,その後回復して,厳冬 のなか元気に過ごすことができ,放牧終了後に は,事故なく健康な子牛を分娩しました。
 この取組を契機として,大子町では冬季放牧 がいっそう広がっています。
 また,本年度は大子町だけでなく城里町でも 冬季放牧が始まりました。
 放牧は牛舎飼育に比べ,約30%の労働削減に つながります。
 さらに冬季放牧を行うことで,分娩直前や授 乳中の牛を除き,1年をとおして放牧地の有効 活用が可能なことから,牛舎の効率的な利用が 図られ規模拡大につながる技術として活用でき ます。