最新年度 平成24年度 平成23年度 平成22年度 平成21年度 平成20年度 平成19年度〜

     ホーム >  畜産茨城平成24年度 > 1月号 : 高消化性イタリアンライグラス系統 「友系31号」の育成


高消化性イタリアンライグラス系統
「友系31号」の育成
茨城県畜産センター飼料研究室 深沢芳隆


 はじめに

 茨城県畜産センターでは現在に至るまで,イタリ アンライグラス品種の育成試験を実施しています。
 今までイタリアンライグラスの育種は乾物収量 (反収)や耐倒伏性の向上に主眼がおかれてき ましたが,近年,飼料価値向上の試みが各草種 で進められていて,その一つとして現在消化性 が注目されています。というのは,栽培面積及び 反収が同じであれば,TDN含量を高めることでTDN収量が増加し,購入飼料で補わなければな らないTDN量を減少できますし,乳牛の高能力 化に伴い,限られた乾物摂取量をより有効に利用 できる良質な粗飼料が求められているからです。 ここでは当センターで育成した高消化性イタリア ンライグラス系統「友系31号」について紹介しま す。


 「友系31号」の育成経過

 まず,イタリアンライグラスの育種につい て簡単に述べますと,秋にイタリアンライグ ラスの個体(苗)を畑に植えて(写真1), 翌春に調査を実施,目的となる形質の優れ た個体を選抜,交配,採種します。この作 業を繰り返すことにより,優良な系統を育 成していきます。
 高消化性イタリアンライグラス系統につ いては平成16年から育成を開始しました。 具体的には,市販早生品種を材料として, その個体の中でOb(低消化 性繊維)の低いものを選抜 しました。その後低Obによ る選抜を2回繰り返し,得ら れた系統の生産力を検定, 低Obで推定TDN含量,推 定TDN収量が高く,倒伏 程度の低い3母系を選定, 種子を等量混合して「友系31号」(写真2・左)としまし た。種子増殖後,平成21年 から各種試験を実施しまし た。


写真1 イタリアンライグラスの個体植え試験の様子


写真2 「友系31号」の草姿 左:「友系31号」 右:「タチワセ」


 「友系31号」のTDN含量

 3カ年,全国のべ21場所平均の「友系31号」の 推定TDN含量を図に示しました。「友系31号」 は1番草,2番草ともに,比較した「はたあおば」や 「タチワセ」よりもTDNが高い結果になりました。 「友系31号」は他の早生品種との比較でも,また 出穂前から開花期のどの生育ステージにおいても 高いTDN含量を示しています。
 このように「友系31号」のTDN含量が高い理 由として,細胞内容物(水溶性もしくは蛋白分解 酵素で分解される部分)含量,その中でも可溶性 炭水化物含量が高いことがあげられます。材料 草が乳酸発酵に適した水分条件ではサイレージ にしても「友系31号」の高TDN特性が維持され ること,また材料草が高水分で乳酸発酵に不適 な条件下では材料草中の細胞内容物含量が高 いほど発酵品質が良いことがパウチ法(真空パッ ク)を用いた試験で確認されています。


図 「友系31号」のTDN含量
   3カ年,のべ21場所の平均


 「友系31号」のその他の特性

 「友系31号」の出穂始日は「はたあおば」や「タ チワセ」など,他の早生品種と同程度です。本県 では4月末〜5月始めに刈取適期(出穂期)にな ります。「友系31号」の倒伏程度は,「はたあお ば」よりは高いですが,「タチワセ」よりは低く, 実用的な耐倒伏性を備えているものと思います。 「友系31号」の1,2番草の合計TDN収量は「は たあおば」より6%多収となっています。この理由 として,「友系31号」が1,2番草ともに高TDNで あることと,1番草刈取後の再生に優れ,2番草 が多収であることがあげられます。(表)
 表 「友系31号」の諸特性
  友系31号 はたあおば タチワセ
出穂始日 4/25 4/25 4/24
倒伏程度 1) 2.3 1.8 3.1
乾物収量 2) 103 100(109.5) 103
推定TDN含量 3) 106 100 (64.5) 102

      1)1番草倒伏程度  1(無)〜9(甚)  いずれか
        の品種・系統で倒伏が発生した,3カ年,のべ17場
        所の平均。

      2)3カ年,のべ25場所の平均  「はたあおば」を
        100とした指数(( )内は実数(kg/a))。1, 2番草
        の合計。

      3)3カ年,のべ21場所の平均  「はたあおば」を
        100とした指数(( )内は実数(kg/a))。1, 2番草
        の合計。


 最後に

 「友系31号」については平成25年度の品種登 録出願を目指して準備を進めています。ご質問 等は茨城県畜産センター飼料研究室(0299-43-3333)までお問い合わせください。