はじめに
放牧は,舎飼いに比べて餌を与える手間や牛
舎清掃など労力が省け,飼料自給率の向上と低
コスト生産に有効であり適度な運動やストレス
軽減で健康増進などが見込まれるなど多くの利
点があります。また,茨城県では2万ヘクター
ルを超える耕作放棄地があり,その利活用を推
進しています。その利用方法の中でも肉用繁殖
牛の簡易放牧は,県内では県北中山間地域を中
心に約160ヘクタールで取り組まれています(平
成23年度)。さらに,家畜改良センターをはじめ
各種団体でもマニュアルを作成するなどして放
牧を推進しています。
放牧の飼養管理啓発用のパンフレット(当所管内の県北中山間地域を中心に配布)
健康管理
預託放牧については熟練の管理者による日常
管理が行われており,定期的な衛生検査を実施
していますので,体調不良牛などの早期発見が
しやすい状況にあります。一方,簡易放牧につ
いては,取り組みの実績が増えましたが経験
の少ない畜主が自己管理することが多く,放牧
事故に注意する必要性が見受けられます。その
ため放牧準備については,次を目安としてくだ
さい。@栄養を考えた採食の面から,放牧地の
面積は成牛2頭を15日飼養するには10アール程
度の確保,A飲水量は,成牛1頭あたり夏場は35リットル/日,秋冬は15リットル/日程度が必
要。B放牧環境等の面から,特に夏期には立木
や小屋を利用した日陰を設けること,C入牧前
には必ず採草の給与や群れ行動など放牧環境に
充分馴致することも重要。加えてD放牧管理の
ために簡易枠場を設置することが望まれます。
枠場や簡易スタンチョンに入るように配合飼料
などで慣らしておくと,入退牧をスムースに行
うことができ,健康観察や疾病予防措置には非
常に便利です。
事故防止
放牧では,ダニの吸血によるピロプラズマ病
に罹り貧血を起こすなど放牧病が発生する危険
性を伴っています。実際,平成23年度にはダニ
対策を実施していなかった簡易放牧中の黒毛和
種繁殖牛で,ピロプラズマの重度感染による事
故がありました。この事例では舎飼いの同居牛
にピロプラズマ感染が認められなかったことか
ら,当該牛は放牧することでピロプラズマに初
めて感染した状態でした。一般に黒毛和種はピ
ロプラズマに対して感受性が低く,感染しても
臨床症状を呈しにくいとされていますが,ピロ
プラズマ初感染牛は貧血が急激に進み重症化
しやすいことがあります。当所における公共牧
場で衛生検査を実施する際には,このような事
故を防止するため,初放牧牛は2か月程度を目
安にいったん退牧させて舎飼いし,牛の健康状
態を確認するよう指導しています。ダニや寄生
虫には,外部寄生虫の防虫菊製剤(フルメトリ
ン,ペルメトリン製剤など)や内部寄生虫駆除
剤(イベルメクチン製剤)の投与(獣医師の指
示により投与してください)が有効です。フル
メトリン製剤やイベルメクチン製剤は首から尾
部までの背線に滴下するタイプですので,簡便
に実施できますが,牛を繋ぐ必要がありますの
で簡易枠場や追い込み柵の設置で効率的に行え
ます。
まとめ
耕作放棄地を活用した肉用繁殖牛の簡易放牧
は,資料資源の少ない日本において低コストか
つ省力的生産の点で特に優れ実益の見込まれる
飼養方法です。しかし,放牧している牛の充分
な観察を怠ったり,疾病対策を充分に行わない
と放牧事故も発生します。畜産農家の皆様,十
分な準備で効果的な放牧をしましょう。
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