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ホーム > 畜産茨城平成24年度 > 9月号 : 畜産人として知っておきたい人獣共通感染症の知識 |
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畜産人として知っておきたい人獣共通感染症の知識 |
茨城県獣医師会 |
最近,牛海綿状脳症や高病原性鳥インフルエ
ンザ,重症急性呼吸器症候群等の感染症が,動
物から人間にうつる病気としてマスコミ等で問
題視されてきている。これらの病気は「人獣
共通感染症」とか「動物由来感染症」とも言わ
れ,人と動物の共通の病気として注目されよう
になった。これらの病気は,どんなルートで動
物から人に感染してきたのか,そしてこれらの
病気に対する対策は,どのようにしたら良いか
等を常に動物に接触している畜産関係者は,あ
る程度の知識を持っていることが必要であろ
う。今回これらの感染症について,その概要を
紹介する。
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動物から人に感染する病原体は,ウイルスや
細菌あるいは,ある種の原虫,寄生虫,等々
八百数十種以上にも及ぶとされている。しか
も,その大きさは,肉眼で見ることの出来る寄
生虫から光学顕微鏡や電子顕微鏡でしか見るこ
とも出来ない極小のものまで千差万別である。
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(1)細菌類 ドイツの片田舎の開業医コッホによって発見 された炭疽菌は,人類史上初めて病原体である ことが証明された。その後,次々に各種の細菌 による病原体が発見されている。古くからバク テリアと呼ばれ,その形も多く球菌,桿菌,連 鎖,ニ連鎖,ぶどう状等々のものが顕微鏡下で 見られるのが細菌類である。 主な人獣共通感染症の病原菌としては,炭疽 菌,豚丹毒菌,サルモネラ菌,ブルセラ菌,O157大腸菌,ブドウ球菌,野兎病菌などが上げ られる。 |
(2)ウイルス類 ウイルスの発見は,そう古くなく今から120年ほど前のことである。最初はタバコモザイク 病の病原体が,細菌類が透過することが出来な い素焼きの,濾過器を通ることが発見され,そ の後,口蹄疫,狂犬病,牛痘,豚コレラ等次々 と,ろ過性病原体が発見された。これらの微生 物は,ろ過性病原体とか不可視性病原体とかあ るいは,バイラス,ビールス,ヴィルスなどと 呼ばれていたが,今日ではウイルスの名称に統 一された。 ウイルスは,光学顕微鏡では,見ることが出 来ないほど小さい生物で,電子顕微鏡で確認が 出来る。しかも,ウイルスは自分自体での増殖 は出来ない生物で,必ず他の生物の細胞組織 の中で増殖可能な特殊な生物体である。主な人 獣共通感染症の病原菌としては,狂犬病ウイル ス,日本脳炎ウイルス,インフルエンザウイル ス等が知られている。 |
(3)リケッチア類 リケッチアは,細菌より小さくウイルスより 大きい微生物で,人工培地では発育できず,生 物の細胞内でしか発育することが出来ない病原 体として知られている。この病原体の発見者リ ケッチ氏に因んでリケッチアと命名された。 発疹チフス,日本紅斑熱,Q熱,ツツガムシ 病等の病原体で,シラミやダニ等の節足動物に よって媒介される。 |
(4)寄生虫・原虫類 最近では,生活環境の改善によって,寄生虫 による被害は極端に減少していたため,一般的 に寄生虫病は軽視されている傾向が見られる。 しかし,海外旅行ブームによる旅行や諸外国か らの訪日外国人の増加,更に諸物品の輸入増加 等流通機構の迅速化にしたがって,広範囲に亘 る各種食品類,またペットブームによる海外か らの各種動物等の輸入によって,思わぬ寄生虫 が発見されたことが起こっていることは軽視す ることは出来ない。 寄生虫は,体の内部に寄生して障害を起す回 虫,線虫等の蠕虫類と体の外部に寄生するダ ニ,蚤,蚊,アブ等に区分される。更に,動物 の体内で増殖し被害を及ぼすトキソプラズマや クリプトスポロジウム等の原虫類がある。 |
新しい動物由来感染症の発生 ここ20年ぐらい前から,動物由来の新しい感 染症が発見され,大きな社会問題として注目さ れ始めてきている。この新興動物由来の感染症 の出現は,その病原体の性状の変化の他に,世 界における社会構造の変動に左右されていると も考えられている。地球自体の温暖化,未開発 地域の急激な環境の変化,あるいは,各地にお ける戦争と人の異常な移動等々,様々な要因が 指摘されている。 主な新興感染症は,1996年の牛由来のBSBプ リオンによる牛海綿状脳症(BSE)や1997年の 高病原性鳥インフルエンザ(H5N1型),2000年 に発見されたハクビシン由来とされる重症急性 呼吸器症候群(SARS),1998年のコウモリから のニパウイルス髄膜炎等がある。また,ヒト免 疫不全ウイルス(HIV)のエイズもアフリカの ジャングルに生息するサルからヒトに感染した ものとされている。 今回,畜産人としてこれだけは知っておきた いと思う人獣共通感染症の概略について,述べ てみたが,今後機会があれば,近年世界各国で 問題視されている最近の人獣共通感染症の詳細 について触れてみたい。 |
(文責諏訪) |