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     平成23年度 > 7月号 : 飼料イネを活用した繁殖和牛放牧


飼料イネを活用した繁殖和牛放牧〜冬季放牧の取り組みを紹介します〜
茨城県農業総合センター 専門技術指導員 小堤万里子


  簡易電気牧柵を用いた耕作放棄地放牧は、省力低コスト技術として県北中山間地域を中心に普及が進み、約90ha (H22 実績)で取り組まれています。しかし、耕作放棄地放牧は草がある春から秋にかけて実施し、草がなくなる晩秋から春先までは、畜舎で飼養管理がされています。そこで、常総市の放牧組合と(独)中央農業総合研究センターが中心となり、県関係機関が連携・協力しながら、稲発酵粗飼料(以下、イネWCS)を冬季間利用した周年放牧技術が開発実証されています。その技術をベースにH21、22 度の冬季間、結城市の大規模普通作経営体と大子町活性化協議会が連携し、関係機関(結城市及び大子町、結城及び常陸大宮農改セ、県北及び県西家保、県西農林、中央農研、農総セ、肉研、畜産協会等)が支援しながら、イネWCS を生産する結城市の水田等へ大子町から繁殖和牛を移動し、放牧に取り組んだ事例及び放牧地で簡易に利用できる給餌柵を紹介します。




  冬季放牧の結果と今後の取り組み

  冬季放牧は、初年目は8頭をH21.12.15〜H22.6.16の約半年間、2年目は福島第一原子力発電所の事故に伴う放射性物質の影響から当初の予定を切り上げ、6頭をH22.12.21〜H23.3.23まで約3ヶ月間、約1haの圃場で実施しました。放牧中の給与飼料は、結城市の大規模経営法人が生産するイネWCS(現物20s/頭・日程度)を主体とし、タンパク不足を補うためのヘイキューブ(0.5s/頭・日)とリンカルを適宜給与しました。放牧期間中の牛の健康状態は、特に問題なく推移し、放牧終了後、大子へ戻った母牛も全頭無事に分娩し、生産子牛も元気に成長しています。実施時の一番の問題点は、降雨が続いた場合の圃場の泥濘化でした。そのため、H22度は、圃場内にコンパネを敷き、乾いたスペースを確保できるように工夫しました。
  冬季放牧も2シーズン取り組み、今年度は結城市で生産されたイネWCS を大子町へ運搬し、大子町内の放牧地内で冬季放牧に取り組む予定です。新たな省力低コスト放牧技術の構築を目指しています。



▲降雪の中の放牧牛(結城市現地)


  給餌柵「らくらくきゅうじくん」で食べ残し激減

  冬季放牧時はイネWCS を放牧給与しているため、簡便な給餌方法や食べ残しが課題でした。そこで、(独)中央農業総合研究センターでは、人力で移動可能な軽量(最軽量タイプの重量29kg)の給餌柵「らくらくきゅうじくん」を開発しました。



▲らくらくきゅうじくんによる給餌


  「らくらくきゅうじくん」はロールベールを囲うことで、食べ散らかしや排せつ物の汚染等による飼料の食べ残しを減らすことができます。給餌柵を用いずに飼料ロールベールをほ場で給与すると、20%以上の食べ残し量が発生します。給餌柵を用いると食べ残し量は、細断型ロールベール(飼料イネを3cm 程度に切断して梱包させ発酵させたもの)で約12%に低減します。さらにストッパーを利用すると細断型ロールベールの食べ残し量は約2%に低減します(表1)。




表1 給餌柵を用いたイネWCS の放牧利用実績



  なお、本装置は(株)大成工機(茨城県つくば市)からテスト販売中です(特許申請中)。
問い合わせ先:(独)中央農業総合研究センター土壌肥料研究領域 TEL:029-838-8817