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     平成23年度 > 7月号 : 自給粗飼料多給による初産分娩月齢早期化技術


自給粗飼料多給による初産分娩月齢早期化技術
茨城県畜産センター酪農研究室 脇本 亘


  はじめに

  近年、酪農経営を巡る情勢がめまぐるしく変動する中で、更新のための後継牛の確保は、自家生産・自家育成が主流となりつつあります。自家育成の数値的目標として、初産分娩月齢は24ヶ月齢とされています。しかし、本県では平成21年度現在で平均25.6ヶ月であり、ここ数年改善されていません。 そこで本試験では、余分な育成コストをなくすため、低コストな自給粗飼料を主体とした育成牛の発育促進を実証し、育成期間を大幅に短縮することを目的とした試験を行いました。


  試験の概要

  試験には、協定6県(千葉、愛知、石川、神奈川、富山、茨城)で生産されたホルスタイン種育成牛のべ29頭を供試しました。試験区は、日増体量0.95kgに必要なTDNのうち80%を自給粗飼料で給与する「粗飼料多給区」と、60%を給与する「配合飼料多給区」とし(図1)、育成前期と育成後期に分けて発育促進による初産分娩早期化技術を検討しました。自給粗飼料は各県で生産されたイタリアンライグラスサイレージをフィーダーで5〜10cmに裁断して給与しました。飼料設計時の粗飼料の成分は、日本標準飼料成分表(2001年度版)の値(TDN69. 9%、CP11. 3%)を使用しました。



                                         図1 給与飼料の概要



1.試験期間
  1. 育成前期(6ヶ月齢〜初回授精・受胎まで)
    開始時体重:200kg、終了時体重:380kg
  2. 育成後期(初回授精・受胎〜分娩前2ヶ月)
    開始時体重:380kg、分娩予定2ヶ月前まで
2.調査項目

  日増体量(DG)、乾物摂取量(共通)、分娩月齢、分娩後体重、BCS(ボディコンディションスコア)、305日乳量



  試験結果

  6県で給与された自給粗飼料の成分値は,可消化養分総量(TDN)が47.5〜59.0%、粗蛋白質(CP)が8.2〜18.0%で、圃場によるバラツキが大きかったことがわかりました。 育成前期の平均D Gでは、粗飼料多給区で0.86kgと良好な発育であるものの、目標増体にはやや及びませんでした。 一方で配合飼料多給区では、目標の0.95kgだけでなく、飼養標準の上限値(1.00kg)を上回り、分娩後の乳生産性に影響を及ぼす可能性があるため、増体の上積みを期待する場合でも粗飼料割合 は70%程度必要であると考えられました。 育成後期の発育成績では、粗飼料多給区の平均DGが0.93kgとほぼ目標通りの発育が実証できました。その結果、初産分娩月齢が22.0ヶ月と大幅に早期化でき、分娩後体重も540kg以上と十分な体格で、安全な分娩がなされました。一方で、配合飼料多給区では、前期と同様に1. 00kgを超え、BCSが粗飼料多給区より高く、やや過肥気味の牛が多くみられました。分娩後の305日乳量は、両区とも8,000kg前後であり、早期分娩で心配される乳生産性の低下はみられず、粗飼料多給区では乳量、乾物摂取量が配合飼料多給区より高くなる傾向がみられました。



  まとめ

  6ヶ月齢〜分娩2ヶ月前までの育成期間全般において、自給粗飼料主体の管理で「発育促進」、「育成期間短縮」が十分可能であることが実証されました。また、この自給粗飼料主体の管理で22ヶ月齢で分娩した場合、チモシー乾草を給与して24ヶ月齢で分娩したケースと比較して、頭あたりの育成飼料費を1/3程度削減できます。ただし、低品質の自給飼料を給与すると発育不良になる可能性がありますので、事前に成分値を把握しておく必要があります。(農林水産省委託プロジェクト研究「粗飼料多給による日本型 家畜飼養技術の開発」で実施した研究成果です)



   表1 育成前期の発育と乾物摂取量
                                                     異符号間に有意差あり(P<0.01)


   表2 育成後期(妊娠期)の発育と分娩後の成績



   表3 受胎確認時期(380kg)の給与量と育成飼料費
                            ※単価及び慣行管理については茨城県畜産経営技術指標に基づき算出