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     平成23年度 > 5月号 : 農家庭先での受精卵の採卵を紹介


農家庭先での受精卵の採卵をご紹介します
茨城県畜産センター 先端技術研究室 坪井 佑季



   現在、乳用種および肉用種ともに受胎率の低下が問題となっており、様々な受胎率向上技術への取り組みがなされています。当センターでは、「メラトニン」を指標とした牛の繁殖性改善を目指した試験研究の一環として、受精卵の採卵および検卵設備の備わったET 車で農家の方に直接伺い、黒毛和種やホルスタインの受精卵採取と凍結までの処理およびその譲渡を行っています。



ET車



ET車内での検卵


   受精卵移植技術とは

   受精卵移植技術とは、優秀な雌牛にホルモン処置を行い過剰排卵を起こさせ、そこに人工授精をすることによって受精卵を採取し、別の雌牛の子宮内に移植することによって優秀な能力をもつ子牛を一度にたくさん生産できる技術のことです。


  受精卵移植技術メリット・デメリット

   受精卵移植技術のメリットとしては、雌雄両方からの改良が可能であること、伝染病に罹患している家畜の受精卵でも適切な処理によって垂直感染を遮断できること、ホルスタインを借り腹とした和牛生産による収益性の向上が図れることなどがあげられます。ただ、採卵や受精卵移植の経費が高いこと、技術者によって受胎率にバラツキが生じること、ホルモンへの反応性や回収卵数に個体差が生じるなどのデメリットもあげられます。


  受精卵回収までのながれ

   まず発情が来た日を0 日とし、9 〜13 日目に卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(PG)を組み合わせた減量投与法による過剰排卵処理を開始します。プログラムどおりであれば処理開始5 日目の午後に発情が来ますので6 日目の朝に人工授精を行い、人工授精の7 日後に採卵を行います。採卵はバルーンカテーテルを子宮角に左右片方ずつ挿入し、灌流液を流し込んで、灌流液ごと受精卵を回収します。この回収した液をフィルタリングした後、顕微鏡にて検卵し、受精卵のランク付けを行います。受精卵は状態の良いものからA 〜D にランク付けされ、A ランクは凍結、B・C ランクは新鮮卵として移植します。プログラムフリーザーで緩慢凍結した受精卵、液体窒素にて保管します。





受精卵回収までのながれ





受精卵の回収作業





回収した7日目の受精卵 胚盤胞Aランク


  POINT! メラトニンとは?

   農家庭先での受精卵の採卵は「メラトニン」をメインテーマとした試験研究の一環で行っていますが、ではメラトニンとは何なのか簡単にご紹介します。
   メラトニンとは睡眠調整を司る体内時計を担う脳内ホルモンのひとつで、その濃度は光刺激を受ける昼間は低く、夜間にピークとなります。
   ヒトにおいては、他に抗酸化作用、抗加齢作用、免疫活性化作用の効果などが報告されています。メラトニンの作用のうち睡眠調節・抗酸化作用と卵巣機能との関係が注目されており、メラトニンの投与によって妊娠率が向上することなどが知られています。本試験では、このメラトニンが牛の繁殖成績にどう影響を与えるのか解明し、牛の繁殖性の改善に活用していくことを目的としています。


  申し込みのながれ

   採卵希望牛の発情を確認したら、団体・獣医師などを通して畜産センターまでお申込みください。こちらでスケジュールを組んで採卵に伺います。
   なお、採卵技術料、受精卵凍結保存料などは県が負担しており、また、受精卵の所有権も依頼者・農家の方にありますので、受精卵の代金は発生しません。その他のホルモン剤や精液などの経費のみ負担をお願いしています。



申し込みの流れ