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     平成23年度 > 5月号 : 平成23年度畜産施策方針と重点施策


平成23年度畜産施策方針と重点施策
茨城県農林水産部畜産課



  現状及び課題 


  平成21年の本県の農業産出額は4,170億円で、前年に比べ114億円減少し、平成20年に引き続き全国第2位となりました。
  このうち畜産は、全体の約四分の一の1,098億円を占め、本県の基幹産業となっております。 平成17年に発生した鳥インフルエンザの影響から回復した鶏卵は全国第1位、養豚は全国第3位の畜産産出額を誇るなど、本県は全国有数の畜産県としての地位を確立し、首都圏へ畜産物を安定的に供給する基地として重要な役割を担っています。
   また、本県の銘柄畜産物である常陸牛については、「茨城農業改革大綱(2003-2010)」に掲げた「喜んで食べてもらえるモノづくり」への転換を図るため、各種メディアを活用したPR戦略を重点的に展開したところ、販売指定店舗数や出荷頭数ともに改革前に比べて倍増し、それに伴って県内外における知名度も高まり、全国的な銘柄牛となってまいりました。   しかしながら、近年、畜産を巡る情勢は、バイオエタノール需要の増加などを背景とした穀物価格や原油価格の高騰により、生産費が増大するなど、畜産経営は極めて深刻な状況となっています。さらに、リーマンショック以降の世界的な不況の影響で、豚肉、牛肉や生乳の消費量も伸び悩み、消費者が求める畜産物もより値頃感のある低価格帯の商品へシフトしているため、畜産物価格はこれまでにないほど低迷し、畜産農家は厳しい経営環境にさらされています。
   一方、飼料価格については、一時期に比べれば落ち着いてきたものの、国際的な穀物需給の逼迫などにより、国際的な相場は昨年の7月以降高騰しはじめ、平成23年の年明けには平成19年当時の価格まで値上がりし、平成22年度第4四半期には2年振りに補てん金が発動されるなど、輸入飼料への依存度が高い畜産経営は、依然として不安定で先行きの見えない状態になっています。
   また、構造的な問題として、本格的な少子・高齢時代の到来による食生活・嗜好の変化や、国内外の産地間競争の激化など生産者を取り巻く環境が変化する中で、担い手の減少、家畜排せつ物の処理をはじめとする生産活動に伴う環境への負荷など、多くの課題を抱えています。



  対応方針 


   これらの課題を解決するため、農水省では昨年12月下旬、総額1,668億円に達する平成23年度の畜産・酪農経営安定対策を発表し、酪農対策としてチーズ等向け生乳に対する助成制度の拡充、肉用牛や養豚対策としては、昨年度拡充した価格補償制度を維持しております。また、養鶏対策としては鶏卵需給安定対策について全ての生産者が加入できるように新たな対策を打ち出すなど、将来の所得補償制度の導入をにらみながら、畜種ごとの経営安定対策を充実しております。
   このような状況の中、本県としては、国の経営安定対策を畜産農家に対して幅広く周知・徹底を図り、制度を有効に活用していただきながら、新たに策定された「茨城農業改革大綱(2011-2015)」の柱である、いばらきから発信する「信頼ブランド」や未来につながる茨城農業を実現するために、消費者が求める安全・安心で、品質が高く、飼養衛生管理の徹底や飼料用米の給与など、新たな付加価値を生み出す畜産物の開発・提供を進めるほか、さらなるブランド力を向上させるため、銘柄畜産物を牽引役として首都圏に向けた県産畜産物の販路拡大対策に積極的に取り組む必要があります。 また、輸入飼料に依存しない畜産経営基盤づくりのため、家畜排せつ物の適正管理と有効利用を進めながら、稲発酵粗飼料や飼料用米等の利活用による耕畜連携を促進し、草地・飼料畑を新たに整備するなど本県の畜産農家が安心して経営できるような取り組みが必要となっています。
   そこで、以下のとおり、「生産基盤の増強」、「畜産物の流通促進及び畜産経営の体質強化」、「家畜衛生対策の充実と安全な畜産物の生産」、「畜産環境対策の充実」、「試験研究の推進と指導体制の充実」を5つの柱として施策を推進し、本県の畜産振興を図ってまいります。




  施策の概要及び重点 


 1 生産基盤の増強

   家畜の改良を進めることにより、産肉能力や繁殖能力等の生産性の向上を図るとともに、水田や耕作放棄地等未利用地の活用や耕種農家と畜産農家の連携を進めることで、飼料生産基盤を強化して輸入飼料に依存しない安定した畜産経営の確立を目指します。

  1. 乳用牛については、牛群検定を活用した改良を進め、産乳能力の向上と高品質牛乳の生産を推進する。
  2. 肉用牛については、和牛繁殖雌牛について育種価を活用した改良を行うとともに、優秀な種雄牛の作出、産肉性、飼料利用性、繁殖性に優れた肉用牛の生産を推進する。
  3. 豚や肉用鶏については、系統豚や能力の高い種畜の改良を進め、それらを活用した高品質な畜産物の生産体制を整備する。
  4. 飼料生産基盤に立脚した畜産経営を実現させるため、飼料畑等の造成・整備と併せて農業用施設を整備するとともに、水田を活用した飼料用稲の生産・利用の円滑化や耕作放棄地等未利用地の活用等を図り、飼料増産を推進する。
  5. 公共育成牧場に対する支援対策を実施し、公共育成牧場の一層の活用を推進する。
  6. 耕作放棄地等を活用した和牛繁殖牛等の放牧技術の指導を引き続き行うとともに、子牛の市場流通に対する支援対策を実施し、取引頭数の拡大を促進する。


 2 畜産物の流通促進及び畜産経営の体質強化

   本県の銘柄畜産物である常陸牛、ローズポーク、いばらき地鶏の一層のブランド力向上を進め、それらを牽引役とした販路拡大を図るとともに、畜産経営安定対策を推進するほか、畜産農家の経営意欲の向上を図ります。


  1. 常陸牛、ローズポーク、いばらき地鶏の一層の高級感・上質感を創出するためのブランド戦略に取り組むとともに、高付加価値化・高品質化に向けた生産対策や生産情報の公開等についても推進する。
  2. 畜産農家を対象とした各種制度資金やリース事業を活用することで、農家の経営意欲の向上と生産性の向上を図る。
  3. 広域農業開発事業参加者の経営の健全化を図るため、営農指導を実施する。
  4. 畜産農家が経営的に安定した生産に取り組めるよう、畜産経営安定対策関連事業を推進する。


 3 家畜衛生対策の充実と安全な畜産物の生産

   家畜伝染病の発生やまん延防止を図るため、飼養衛生管理基準に基づく衛生指導の徹底、動物用医薬品の適正使用を推進するほか、オーエスキー病の清浄化対策を実施するとともに、口蹄疫や高病原性鳥インフルエンザなどの家畜伝染病の万一の発生に備えた危機管理体制を構築します。また、24か月齢以上の死亡牛全頭の牛海綿状脳症検査を継続し、食に対する安全・安心を確保します。

  1. 家畜伝染病の発生状況を把握するための検査による患畜の摘発淘汰と発生予察を行うことにより、家畜伝染病の大規模な発生を未然に防止するとともに、発生時のまん延防止対策を迅速かつ的確に実施し、畜産経営の安定化を図る。
  2. 畜産農家自らが行う家畜伝染病の発生予防対策などを支援し、市町村を単位とする地域の防疫体制を整備する。
  3. 家畜衛生情報の収集、診断予防技術の向上、防疫マップシステムの整備を行って、監視・危機管理体制を整備するとともに、慢性疾病の低減を図るための衛生対策を充実することで生産性の向上を図る。
  4. 飼養衛生管理基準に基づいた衛生指導の徹底、安全な鶏卵の供給体制の整備、動物用医薬品の適正使用の指導及び飼料製造業者等への立入検査を行い、畜産物の安全性を確保する。
  5. 24か月齢以上の死亡牛のBSE全頭検査を推進し、生産段階におけるBSE発生の監視を引き続き維持する。
  6. 口蹄疫や高病原性鳥インフルエンザなどの家畜伝染病に対する危機管理体制の充実を図るため、侵入防止対策の指導を徹底するとともに、万一の発生に備えた防疫体制の整備や最新技術の導入により、診断の迅速化を図る。


 4 畜産環境対策の充実

   県民の環境に対する関心の高まりから、より一層の環境に配慮した畜産経営が求められていることから、引き続き環境負荷を削減するための施設整備やたい肥の適正な利活用を推進するほか、 家畜排せつ物のたい肥化以外の新たな処理・利用方法について検討します。

  1. 「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」に基づく家畜排せつ物の適正管理の指導を行うとともに、管理基準に適合した家畜排せつ物処理施設の整備を推進する。
  2. 茨城県たい肥利用促進協議会の活動強化やペレット型たい肥の生産支援など、耕種農家のニーズに即したたい肥の生産と利用を促進する。
  3. たい肥を使った飼料用米の生産及びその利用による資源循環を促進する。
  4. 家畜排せつ物の燃料化や下水道処理施設での処理など、たい肥以外の新たな処理・利用方法を検討する。


 5 試験研究の推進と指導体制の充実

   未利用資源の有効活用法など家畜の飼養管理、受精卵移植等の繁殖技術や新品種の育成等に係る試験・研究を推進するとともに、畜産情報の収集・提供及び技術普及に取り組み、畜産農家の経営及び生産技術の高度化を図ります。特に、畜産物の差別化を図るため、牛肉や豚肉のおいしさに関する研究を進めるなど高度な生産技術の開発に取り組みます。

  1. 常陸牛生産の基礎となる種雄牛の造成のための産肉能力検定、遺伝子技術を活用した系統豚等の改良・育種、受精卵移植等の先端技術の開発・応用を課題とし、家畜改良の推進を図る。
  2. 家畜ふんたい肥の利用促進と家畜排せつ物のリサイクル技術の確立を目指し、畜産環境保全技術の開発を図る。
  3. 本県に適した飼料作物の品種選定等を課題とし、飼料増産技術の開発を図る。
  4. 地鶏の遺伝資源保存・活用に関する研究を進めるとともに、安全・安心な鶏卵・鶏肉生産に資する技術の開発を図る。