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     平成22年度 >  9月号 : 常陸牛のおいしさ追求中!


常陸牛のおいしさ追求中!
茨城県畜産センター肉用牛研究所 岩間 永子


  茨城県の銘柄牛肉といえば常陸牛です。しかし全国には松坂牛、前沢牛、米沢牛など200以上もの銘柄があるといわれています。その中で「どのように差別化をはかりブランドアップしていけばよいのか?」この難しい課題に関係者が一丸となって取り組んでいます。
  肉用牛研究所では脂肪交雑以外の指標として、「常陸牛のおいしさ」を科学的に解明し、ブランドアップの一助となるため研究を日々進めております。今回は現在銘柄牛肉を取り巻く現状と肉用牛研究所での取り組みについてご紹介いたします。



脂肪酸分析風景


  近年の銘柄牛肉事情

牛肉の評価と言えば脂肪交雑でしたが、現在それは食べておいしい牛肉へと変わりつつあります。 平成20年度に常陸牛を取り扱う飲食店や専門店に向けて行ったアンケート(図1)を見ると、「さらに脂肪交雑を重視したほうがいい」という意見が意外にも少ないことがわかります。



分析用サンプル



※小売店19・レストラン14店舗に調査。3項目重複選択。無回答を除く。

  現在牛肉のおいしさの評価で注目されているのはオレイン酸です。オレイン酸は脂肪に含まれる不飽和脂肪酸の一種で、オリーブオイルに多く含まれている成分です。オレイン酸は風味に関連しているという報告がある他、脂肪の溶けやすさに影響しているといわれています。
  平成19年に鳥取県で行われた全国和牛能力共進会では、これからの時代に求められる能力の一つとして、牛肉のおいしさの改良を具現化した「脂肪の質賞」を作るなど、オレイン酸が枝肉審査の補助的な基準として取り入れられました。
  また、県やブランド単位でも他県産牛肉との差別化を進める多様な取り組みがおこなわれています。例えば長野県では光ファイバー装置を使用して枝肉のオレイン酸含有率を測定し、その結果から「信州プレミアム牛肉」を認定しています。岐阜県では、カメラで牛肉を測定し、良質な脂肪の定量化をする取組を行っています。
  三重県の「みえ黒毛和牛」は脂肪の融点(脂肪の溶けやすさ)で評価しています。
  もちろんおいしさというのは味、香りなど総合的なもので、脂質だけでは決定できません。しかし和牛の特徴である霜降りの脂のおいしさでブランドアップを図るというのは、おいしい牛肉として差別化を図る方法として有力視されています。



  肉用牛研究所の研究内容

  肉用牛研究所では脂肪の分析を行っています。(株)茨城県中央食肉公社に出荷された常陸牛の僧帽筋(カブリ)の一部を採取し、脂肪酸組成を分析しています。また、血統、肉質、農家の飼養管理などのさまざまな情報を入力し、データベースを作成します。その結果から、オレイン酸を含む脂肪酸組成に影響する要因の解析を進めています。現在までに農家や種雄牛ごとに脂肪酸組成に差があることが分かってきました。(表1、2)今後はさらに分析点数を増やすとともに農家から集めた飼養管理のデータ等との解析を進め、常陸牛のおいしさの向上に寄与していきたいと考えています。



  さらなる差別化のために

  オレイン酸という指標はすでに他の銘柄で取り入れられています。もちろんこの点にも力をいれていく所存ですが、さらに茨城県独自の牛肉評価法としてフレーバーリリース(咀嚼香)に注目しています。フレーバーリリースとは食べたときに鼻から抜ける香りのことです。フレーバーリリースはその食品らしさを決定づける重要な要素であり、おいしさにも深く関連していると考えられます。
  品種、銘柄の違う牛肉でフレーバーリリースがどのように異なるのか、また、熟成や脂の質によってどのように異なるのかということに注目し、解析を行い、常陸牛のブランドアップに寄与させられないか、その可能性を探るべく、現在研究の準備を進めているところです。