平成23年度 平成22年度 平成21年度 平成20年度 平成19年度 平成18年度 平成17年度〜

     平成22年度 > 7月号 : 管内養豚場における急性敗血症型豚丹毒の発生事例


管内養豚場における急性敗血症型豚丹毒の発生事例
県西家畜保健衛生所 太田 土美


  豚丹毒は豚丹毒菌の感染によっておこる疾病で,家畜伝染病予防法で届出伝染病に指定されています。その病型は急性の敗血症型,亜急性の蕁麻疹型,慢性の関節炎型,心内膜炎型に分類され,このうち急性敗血症型では高熱が突発し,1〜2日の経過で急死します。
  今回,管内3戸の養豚場において肥育後期の豚で急性敗血症型豚丹毒の発生がありましたのでその概要をお知らせします。





図1 A,B,C農場発生経過



 発生状況(図1)


 1  A農場

  母豚145頭の一貫経営農場です。
  4月〜5月にかけて肥育後期の豚で死亡が散発されたが,7月には目立った症状を示さずに急死する豚が増加しました。母豚には全頭豚丹毒生ワクチンを接種していましたが,肥育豚群には7月の時点では不活化ワクチン接種群と未接種群が混在する状況でした。



 2  B農場

  母豚50頭の一貫経営農場です。
  8月末から約2ヶ月の間に肥育豚が特に目立った症状がなく急死する豚が増加していきました。母豚,肥育豚共に生ワクチンを接種していましたが,肥育豚には接種が徹底されていませんでした。



 3  C農場

  母豚20頭の一貫経営農場です。
  以前から肥育豚で死亡が認められていましたが,11月に肥育後期のハウス豚舎での死亡が増加しました。いずれの豚もワクチン未接種でした。




 材料

 1 病性鑑定
  A農場では7月に死亡豚1頭,B農場では9月に死亡豚2頭,C農場では11月に死亡豚1頭を検査に供しました。全てワクチン未接種の肥育後期の豚でした。

 2 抗体検査
  A農場では1月,7月,11月に,B農場では11月に,C農場では12月に各月計30頭の血液を採材し検査に供しました。




 結果

(1)病理組織学的検査
 肝臓,脾臓,肺で充うっ血がみられました。腎臓糸球体,結腸粘膜固有層及び皮下リンパ節の毛細血管に硝子様血栓の形成がみられました(写真1)。また,肝臓では細網内皮系細胞の増数がみられました。

(2)細菌学的検査
 A,B,C農場死亡豚の全身から,豚丹毒菌を分離しました。

(3)総合診断
 以上の検査結果からA,B,C農場の死亡豚を急性敗血症型豚丹毒と診断しました。



写真1 B農場 糸球体毛細血管硝子様血栓形成



 抗体検査

1 A農場
 1月はワクチン未接種豚で8倍〜64倍の抗体価を保持している豚が存在しました。7月では90日齢のワクチン接種群豚では512倍の高い抗体価を保持している豚がいました。またその他の未接種豚は16倍〜128倍の抗体価を保持していました。11月ではワクチン接種豚全てが16倍〜128倍の抗体価を保持していました。

2 B農場
 60日齢の未接種豚は16倍〜32倍の抗体価を保持していました。また150日齢の未接種豚は8倍〜128倍の抗体価を保持していました。

3 C農場
 ワクチン未接種豚は16〜128倍の抗体価を保持していました。




 考察及びまとめ

 A農場では1月にワクチン未接種の肥育豚が抗体を保持していたこと,また高い移行抗体を持つ豚が存在し,その母豚は高い感染抗体を持っていると考えられることから,1月の時点で既に農場が汚染されていたことが示唆されました。当該農場では5月から30日齢と60日齢で不活化ワクチンの接種を始めましたが,60日齢以上の豚群は未接種のままであったため,この未接種群が感染を受け,7月の検査で野外感染抗体を持った豚として確認されたのではないかと考えられました。しかし,11月には農場の肥育豚は全て接種済みとなり,7月と比較すると,高い抗体価は確認されずバラツキがなくなりました。これは農場内の全ての肥育豚に不活化ワクチンを接種したためと考えられ,この時期には死亡が沈静化しています。A農場内は少なくとも1月以前から汚染されていたが,7月頃その数が急増した原因は気温の上昇に加え,多湿も加わって飼育施設内の豚丹毒菌の汚染度が高まったためと考えられました。

 B農場では発生以前も生ワクチンを接種していたが徹底されず,9月の発生以降も徹底されませんでした。そのため散発的に死亡が続き,未接種豚でも抗体が確認されました。また生ワクチンを60日齢に接種していましたが,この日齢の中にはやや高い抗体を持った豚が確認されたことから,移行抗体によるワクチンブレイクが起こっている可能性が考えられました。

 C農場では母豚をはじめワクチン接種を全く実施していませんでした。また発生はオガクズ豚舎での120日齢以上の豚でした。このため豚丹毒の発育にとって好条件となる環境で飼育されていたことが発生要因の一つと考えられました。

 今回の発生農場でのワクチン接種及び抗体保有状況を考慮した上で豚丹毒発生時における対応を整理すると,発生直後には体調不良豚へ感受性抗生剤の投与を直ちに行い,母豚全頭にワクチンを行った上で,肥育豚にはワクチンブレイクの起こりにくい「不活化」ワクチンを全頭へ接種する。この時,接種が徹底されず接種豚と未接種豚が混在するような状況では,発生を防止することは不十分なので注意が必要です。また気候や飼育環境も発生に大きく影響することから日頃の衛生管理はもとより,それらを総合的に判断し各農場の状況に応じた対策を行うことが重要です。今回の発生は急性型でしたが,と畜場での亜急性,慢性型の摘発も最近増加傾向にあることから,ワクチン接種をはじめとする豚丹毒予防対策が必要であると考えられました。