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     平成22年度 > 5月号 : 平成22年度 畜産施策方針と重点施策について


平成22年度 畜産施策方針と重点施策について
茨城県農林水産部畜産課長 田中 宏和


  今年度の定期人事異動により畜産課長を命じられました。本県の畜産振興に全力を尽くして参りますのでよろしくお願いいたします。
  本年1月に公表された平成20年の統計によりますと、本県の農業産出額は4,284億円で前年に比べ,202億円増加し,15年ぶりに全国第2位へと返り咲きました。
  このうち畜産は全体の実に四分の一以上,1,141億円を占める本県の基幹産業であり,平成17年に発生した鳥インフルエンザの影響から回復した鶏卵は全国第1位,養豚業は全国第3位の産出額を誇るなど本県は全国有数の畜産県としての地位を確立しております。
  また,本県の銘柄畜産物である常陸牛については,「茨城農業改革」に掲げた「喜んで食べてもらえるモノづくり」への転換を図り,各種メディアを活用した重点的なPRを展開した結果,ここ5年間で指定店舗数や出荷頭数ともに倍増するなど,農林水産部あげて取り組んでいる改革の成果が着実に現れてきたものと考えられます。
  しかしながら,近年、畜産を巡る情勢は,バイオエタノール需要の増加などを背景とした穀物価格や原油価格の高騰が続き,生産費が増大したことから,極めて深刻な影響を受け,さらに,リーマンショック以降,世界的な不況や国内の消費減退のあおりで,豚肉,牛肉,肉用子牛の価格や生乳の消費も伸び悩むなど,畜産物価格はこれまでにないほど低迷し,畜産農家は厳しい経営環境にさらされています。
  一方,飼料価格については,一時の高騰時に比べれば落ち着いてきたものの,依然として高水準にあり,補てん金が発動されず,輸入飼料への依存度が高い畜産経営は依然として不安定で先行きの見えない状態に陥っています。
  また,構造的な問題として,本格的な少子・高齢時代の到来による食生活・嗜好の変化や国内外の産地間競争の激化など生産者を取り巻く環境が変化する中で,担い手の減少,家畜排せつ物処理をはじめとする生産活動に伴う環境への負荷など多くの課題を抱えています。
  これらの課題を解決するため,農林水産省は2月下旬,総額2,099億円に達する平成22年度の畜産物価格安定対策を発表し,牛肉や豚肉の政策価格を全て据え置くとともに,酪農対策としては,チーズ等向け生乳に対する助成制度の創設,肉用牛対策としては,肉用牛肥育経営安定対策事業の統合や肉用子牛生産者補給制度を補完する事業の一本化,養豚対策としては,肉豚価格差補てん事業の生産者負担軽減,養鶏対策としては,新たな鶏卵需給安定対策を打ち出すなど,将来の所得補償制度の導入をにらみながら,畜種ごとの経営安定対策を拡充しました。
  このような状況の中,本県としては,これらの国の経営安定対策を畜産農家に対して,幅広く周知・徹底して有効に活用しながら,消費者が求める安全・安心で,品質が高く,徹底した飼養衛生管理の実践や飼料用米の給与など新たな付加価値を生み出す畜産物の開発・提供を進めるほか,銘柄畜産物を牽引役とした販売促進対策に積極的に取り組む必要があります。
  また,輸入飼料に依存しない畜産経営基盤づくりのため,耕種農家と畜産農家との連携を強化し,飼料用米を利活用する耕畜連携モデルを育成するとともに,県中西部地区において草地・飼料畑を新たに整備するなど本県の畜産農家が安心して経営できる体制を確立する必要があります。
  そこで,以下のとおり,「生産基盤の増強」,「畜産物の流通促進及び畜産経営の体質強化」,「家畜衛生対策の充実と安全な畜産物の生産」,「畜産環境の充実」,「試験研究の推進と指導体制の充実」を5つの柱として施策を推進し,本県の畜産振興を図ります。



 1 生産基盤の増強

  家畜の改良を進めることにより,産肉能力や繁殖能力等の生産性の向上を図るとともに,水田や耕作放棄地等未利用地の活用や耕種農家と畜産農家の連携を進め,飼料生産基盤を強化して輸入飼料に依存しない畜産経営を確立する。

  1. 乳用牛については,牛群検定や受精卵移植技術を活用した改良を進め,産乳能力の向上と高品質牛乳の生産を推進する。
  2. 肉用牛については、和牛繁殖雌牛について育種価 を活用した改良を行うとともに、優秀な種雄牛の作 出、産肉性、飼料利用性、繁殖性に優れた肉用牛の 生産を推進する。
  3. 豚や肉用鶏については、系統豚や能力の高い種畜 の改良を進め、それらを活用した高品質な畜産物の 生産体制を整備する。
  4. 飼料生産基盤に立脚した畜産経営を実現させるた め、飼料畑等の造成・整備と併せて農業用施設を整 備するとともに、水田を活用した飼料用稲の生産・ 利用の円滑化、耕作放棄地等未利用地の活用等を推 進し、飼料増産を図る。
  5. 公共育成牧場に対する支援対策を実施することに より、公共育成牧場の一層の活用を図る。
  6. 耕作放棄地等を活用した和牛繁殖牛等の放牧を引 き続き支援するとともに、受精卵を活用した増頭対 策により肉用子牛の生産拡大を図る。



 2 畜産物の流通促進及び畜産経営の体質強化

  本県の銘柄畜産物である常陸牛,ローズポーク,いばらき地鶏の一層のブランド力向上を進め,それらを牽引役とした販路拡大や消費拡大を図るとともに,畜産経営安定対策を推進するほか,畜産農家の経営意欲の向上を図る。

  1. 常陸牛,ローズポーク,いばらき地鶏の県銘柄畜産物のブランド力を一層向上させ,それらを牽引役とした消費拡大対策を進めるため,販路拡大や知名度向上対策を推進するとともに,生産拡大や生産情報の公開,品質の向上や有利販売を目的とした差別化等の取り組みを推進する。
  2. ローズポークといばらき地鶏については,消費者の多様化するニーズに対応するため,徹底した衛生管理や飼料用米の利活用等の生産面での取り組みを行いブランド化を推進する。
  3. 畜産農家を対象とした各種制度資金及びリース事業を活用し、農家の経営意欲の向上と生産性の向上を図る。
  4. 広域農業開発事業参加者の経営の健全化を図るため、営農指導を実施する。
  5. 畜産農家が経営的に安定した生産に取り組めるよう畜産物価格補償事業や畜産経営安定対策関連事業を推進する。



 3 家畜衛生対策の充実と安全な畜産物の生産

  家畜伝染性疾病の発生やまん延防止,飼養衛生管理基準に基づく衛生指導の徹底を図るとともに,動物用医薬品の適正使用指導を推進するほか,オーエスキー病の清浄化対策を進める。
また,鳥インフルエンザの監視体制の強化と円滑な初動防疫体制の維持に努めるとともに,24カ月齢以上の死亡牛全頭の牛海綿状脳症検査を継続し,飼料規制などによるBSE発生予防対策の実効性を確認するとともに,早期発見により発生拡大防止が図られるよう監視する。

  1. サーベイランス検査による摘発淘汰と発生予察によって,家畜伝染性疾病の大規模な発生を未然に防止するとともに,発生時のまん延防止対策を迅速かつ的確に実施することにより,畜産経営の安定化を図る。
  2. 生産者自らが取り組む家畜伝染性疾病の予防への取り組みを支援し,市町村を単位とする地域の防疫体制を整備する。
  3. 家畜衛生情報の収集,診断予防技術の向上,防疫マップシステムの整備,動物由来感染症の家畜における発生状況の把握を行い,監視・危機管理体制を整備するとともに,慢性疾病対策による生産性向上を図る。
  4. 飼養衛生管理基準に係る衛生指導,安全な鶏卵の供給体制の整備,動物用医薬品の適正使用の指導及び飼料製造業者等への立入検査により畜産物の安全性を確保する。
  5. 24ヶ月齢以上の死亡牛のBSE全頭検査を推進し,生産段階におけるBSE監視体制を引き続き維持する。
  6. 高病原性鳥インフルエンザに対する監視体制の強化や防疫体制の充実を図る。



 4 畜産環境の充実

  県民の環境に対する関心の高まりから,一層環境に配慮した畜産経営が求められていることから,環境負荷を削減するための施設整備や引き続きたい肥の適正な利活用を推進するほか,農地以外での利用としてエネルギー化等,新たな家畜排せつ物の処理及び利活用を推進する。

  1. 家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」の管理基準に適合した家畜排せつ物処理施設の整備を推進する。
  2. 霞ヶ浦の水質保全に対応するため,家畜排せつ物の処理施設など負荷削減施設の整備を促進する。
  3. 汚水浄化処理施設の巡回指導により,畜舎排水の適正化を図る。
  4. たい肥の生産状況を把握するとともに,たい肥コーディネーターやたい肥流通促進員を設置し,たい肥の広域流通を促進する「茨城県たい肥利用促進協議会」の活 動を支援する。
    さらに,耕種サイドとたい肥情報の共有化により,たい肥の利用促進を図る。
  5. 家畜排せつ物の農外利用を促進するため,エネルギー源としての利用法について調査・検討する。


 5 試験研究の推進と指導体制の充実

  省力的管理,未利用資源の有効活用法など家畜の飼養管理,受精卵移植等の繁殖技術や新品種の育成等に係る試験・研究を推進するともに,畜産情報の収集・提供や畜産技術指導員等の技術普及により,畜産経営体の経営及び生産技術の高度化を図る。
  特に,銘柄畜産物の高度化を図るため,牛肉のうまみに関与する不飽和脂肪酸と遺伝子との関連の解析と,遺伝子情報を活用した高品質豚肉生産のための技術開発や,飼料用米給与による生産技術の確立などにより一層取り組んでいく。

  1. 常陸牛生産の基礎となる種雄牛の造成のための産肉能力検定,遺伝子技術を活用した系統豚等の改良・育種,受精卵移植等の先端技術の開発・応用を課題とし,家畜改良の推進を図る。
  2. 家畜ふんたい肥の利用促進と家畜ふん尿のリサイクル技術の確立を目指し,畜産環境保全技術の開発を図る。
  3. 本県に適した飼料作物の品種選定等を課題とし,飼料増産技術の開発を図る。
  4. 地鶏の遺伝資源保存・活用に関する研究を進めるとともに,安全・安心な鶏卵・鶏肉生産に資する技術の開発を図る。




                                                 平成22年度畜産関係主要事業及び予算額

                                                                                                                                                          (単位:千円)