家畜の病気は、古くから伝染病を中心にして数多くあった。しかし、獣医技術の進歩に伴い、各種の病気に対する診断技術の向上、あるいは治療薬品の開発、さらに各種ワクチンの応用による感染病の予防措置等によって、家畜の病気は減少の一途をたどることになる。
 しかし、近年になって高性能を求める家畜の改良と飼養形態の変化、さらに経済性の面を追及の結果、個々の家畜の栄養管理を無視した飼育管理と濃厚飼料の多給与によって、家畜の能力の限界を超えた発育と生産が行われるようになった。この事によって様々な病気が現れるようになってきた。最近これらの病気をまとめて「生産病」とか「文明病」呼ばれるようになっている。これ等の病気は数多く知られているが、代表的なものとして、乳牛の乳房炎や、豚の胃潰瘍とかがある。これ等生産病の原因として考えられるのは、現在の家畜、家禽の多くは、その能力を最大限に発揮するように改良され、まさに精密機械とも言えるほどのものである。そのため、少しのストレスにも敏感に感知して大きな影響を受け易く、その結果、副腎皮質ホルモンの分泌が高まり、そのため反比例するように免疫に関係するリンパ球の数値に影響し、生理的な抗病性能力の低下を招き、発症するものである。しかも、この病気は低病原性細菌やウイルスの原因に寄る感染が群単位に起り、生産性を著しく阻害するとされている。

○家畜別の主な生産病
・乳牛の乳房炎
 本来母乳は子育てのためにあるものであって、必要以外の乳は出ないのが普通である。そのため、子育てが終わり離乳期になると泌乳は停止するものである。しかし、乳牛の場合は例外で離乳しようが、再度妊娠しようが泌乳は続き、次期分娩の40日間の前期だけは乾乳期となる。肉牛や豚のように子育てのだけに泌乳されるものには、乳房炎の罹患は少ないと言われている。しかし、乳牛の場合には乳量の増加する分娩後1ヶ月くらいの頃に乳房炎の罹患率が高くなる。因みに時期的乳房炎罹患率は、分娩後1ヶ月で21.8%、二ヶ月で12.8%、三ヶ月で9.3%の報告もある。しかも、この時期の乳房炎を起す細菌は普通病原性の弱い細菌しか分離されないことが多い。起炎菌の主なものは、連鎖球菌51.7%、ブドー球菌29.2%その他の菌12.2%が分離されている。このことは、乳は乳腺細胞によって作られ分泌されるが、この部分の感染防禦力が極端に弱くなっていることが研究の結果知られている。以上のように生産性の高い時期に多く見られることにより、これが生産病と呼ばれている所以でもある。
・豚の胃潰瘍
 と畜場に出荷される豚の90%以上のものに胃潰瘍の症状が見られると言う報告もある。この胃潰瘍は飼養環境や供給飼料の形状や油脂、蛋白質の大量増加及び各種の添加剤等、飼料の調整法の変化がストレスの原因とされている。潰瘍の発生部位の多くは、胃の噴門部(胃食道部)で軽いものは粘膜の角化、次いで糜爛、潰瘍形成するがさらに重症のものでは、胃穿孔を起こし急死すものもある。
 最大の原因の一つに、飼料の形状が取り上げられている。肥育豚用の飼料は、消化吸収を良くすめため、メッシュの細かい粉餌にして粗繊維を除き流動食状態にしたものが多い、そのため流動食は胃内を素通りし、反射的に胃粘膜から強力な胃酸が多く分泌され、胃内のPHが異常に高くなって胃粘膜を侵し胃潰瘍を惹起するもので、発育阻害要因の原因とされている。

・鶏のマレック病
 鶏のマレック病も生産病とされている。この病気の原因は、ヘルペスウイルスの一種によって起こり、鶏に様々な悪条件が重なると発症すると言われている。その症状は、悪性腫瘍を伴う白血病を惹起する。この病気は、最初の頃東ヨーロッパの地方に風土病として知られていた。ハンガリーの獣医師マレックによって始めてこの病気が報告され、以来本病はマレック病と呼ばれるようになったものである。マレック病の原因は、マレックウイルス(ヘルペスウイルスB群)の気道感染によって起こる。しかも、鶏の飼育形態がウインドレス等の密封された状態が取られるような時代になってから、その毒力強まり全世界に広まったと、考えられている。現在では、七面鳥から分離したヘルペスウイルスを基礎に作られたワクチンを初生雛の段階で接種することで、本病の予防をしているが、鶏の飼養管理を合理的に改善しない限り、本病は永遠に無くならないであろう、と云われている。
(茨城県獣医師会会員 諏訪綱雄)