本年4月下旬,新聞一面に「豚インフルエンザ」という文字が大きく報じられました。
鶏,馬と続いて今度は豚!と思われた方もいたのではないでしょうか?
今回の新型インフルエンザは,その遺伝子が豚インフルエンザのものに似ていることから,確認当初は豚インフルエンザと呼ばれました。その後の研究で,今回のインフルエンザウイルスが豚インフルエンザウイルスの遺伝子のほかに,鳥インフルエンザウイルス及びヒトインフルエンザウイルスの遺伝子も持つことが確認され,さらに人から人へ感染していったことから「新型インフルエンザ」と名称変更されました。新型インフルエンザが,豚から起こったのか,人から起こったのかは不明です。
そこで,今回は新型インフルエンザの発生に伴い突然注目を浴びた「豚インフルエンザ」について記載します。
豚インフルエンザについては,日本ではこれまで話題にのぼる機会はほとんどありませんでした。しかしながら,豚は人型,鳥型インフルエンザウイルスの両方に感染しやすく,さらにはその2種類と,もともと豚にあったウイルスが交雑する場となり,新たなウイルスの出現に関与すると言われていることや,豚が豚インフルエンザに感染し呼吸器症状等を呈して被害を被ること等から,養豚従事者は正しい知識を持つ必要があると思います。
○ウイルス
インフルエンザウイルスはA型,B型,C型の3つの型に分類され,そのうちA型インフルエンザはH1〜H16までの亜型とN1〜N9までの亜型両者の組み合わせで表記されます。豚インフルエンザの原因ウイルスはA型インフルエンザで,H1N1,H1N2,H3N2及びH3N1が主な亜型です。
○症状
発熱,食欲廃絶,発咳,体重減少などを伴う急性の呼吸器疾患で,豚から豚への伝搬性は極めて高いですが,細菌等の二次感染がない場合は,1週間程度で多くは回復し,死亡率も1〜3%と低いです。しかし,二次感染が起こった場合は,症状の重症化,死亡率の上昇を引き起こします。
このように,豚インフルエンザは豚への病原性が低いことから,家畜伝染病予防法の対象疾病にはなっていないため,豚が感染しても処分されることはありません。
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○国内での豚インフルエンザ
平成17年度から20年度までの全国における豚インフルエンザ検査の結果,平成17年度は検査頭数218頭中3検体(H1N1),平成18年度に186頭中1検体(H1N2),平成19年度181頭中陽性なし,平成20年度に252頭中1検体(H1N2)ウイルスが確認されています。平成21年度は6月までに47頭検査を実施し,ウイルスは確認されていません。
近年の国内で明らかになっている発生例は,2006年宮崎県(A農場),2008年栃木県(B農場)の2症例があります。
A農場は母豚200頭を飼養する一貫経営農家で,6月末に肥育豚舎で呼吸器症状が広がりましたが,抗生物質の投与により二次感染が抑えられたためか翌週には発生数は減少しました。一方,B農場は母豚750頭を飼養する一貫経営農家で2月に肥育豚舎で呼吸器症状が増加し,3月には病勢が悪化,抗生物質にも反応せず4月には肥育豚が1日に12〜16頭死亡する被害がありました。
現在,日本では検査数が少ないため,国内での浸潤度やウイルス亜型に関する情報が極めて少ない状況です。
○養豚農家のみなさまへ
豚インフルエンザは豚への被害だけではなく,公衆衛生上重要視される疾病であることから,改めて次ぎのような飼養衛生管理の徹底をお願いします。
1.関係者以外の農場への立入制限を徹底すること
2.消毒の励行
3.作業時にはマスク,手袋,作業着を着用すること。
4.作業前後にはうがい,手洗いを行うこと。
5.インフルエンザ様症状がある場合や渡航歴のある従業員や関係者は,農場への立入を制限すること。
最後になりましたが,飼養豚に異常な呼吸器症状が見られた場合には,最寄りの家畜保健衛生所へご連絡ください。
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