今回は「奥久慈しゃも」の父系の親である「軍鶏」のいろいろな種類について、書いてみます。
 軍鶏はもともと東南アジアのマレー系統の鶏種であり、闘鶏用に育成された品種です。日本には、江戸時代初期に渡来しました。シャモの語源は、渡来元のシャム国(現在のタイ国)に因むものです。東南アジア各地特にタイ国では、現在もよく似た鶏による闘鶏が行われております。しかし、最近の鳥インフルエンザの流行で、かなりの数が淘汰されたようです。この地域は、鳥インフルエンザウィルスが広く蔓延していますので、先行きが心配です。
 渡来後、日本では従来の小国系統の鶏とすっかり入替わって、闘鶏の主役になりました。そして、戦いに負けた鶏は、潰して食べられてしまいました。弱い系統の血筋を残さないためです。ここでその肉の旨さが認められ、江戸では軍鶏鍋屋が流行りました。闘鶏で負けた鶏だけでは足りなくなったので、ある程度纒まった羽数で飼育できるように、軍鶏に他の種類の鶏(地鶏等)を掛け合わせた「しゃも落とし」が、使われるようになりました。
 「軍鶏」の特に雄は、二羽を一緒にすると一方が死ぬまで戦うからです。「奥久慈しゃも」も「しゃも落とし」の一種です。
 余談になりますが、幕末の英傑、土佐海援隊の坂本竜馬と、同じく陸援隊中岡慎太郎が京都近江屋で暗殺されたとき、軍鶏鍋を待っていたと云う話が有ります。季節は冬、坂本竜馬は風邪気味で、温まろうという事で若い者を鍋の材料の買物にやり、待っている間であったということです。この時の犯人は、京都見廻組隊士今井信郎が後に自分達がやったと自供したところから、京都見廻組の仕業と言う説が最も有力になっています。しかし、現場に新撰組関係の品物が残されていて、これが作為的な感じがすることから、いろいろな犯人説が流されています。またまた脱線しますが、京都見廻組とは江戸の旗本や御家人の子弟で、剣道の達者な人達を選って創られた組織で、身分を問わなかった新撰組と対照的ですが、仕事は同じく京都市中の治安に当たっていました。新撰組の活躍に隠れてあまり有名ではありませんが、与頭(くみがしら)佐々木只三郎は幕府講武所の剣術師範で、配下にも錚々たる剣客が揃っていました。しかし、新撰組ほどの上昇志向は無かったようです。
 坂本龍馬は時代が下るにつれて益々人気が上がり、龍馬会と称するファンの会が全国に132もあるそうです。そして11月15日の命日には京都霊山護国神社で軍鶏鍋を霊前に献じ、その後会員で味わう行事が行われて全国に広く知られているようで、各地の会でも同様のことが行われているようです。
 昭和になると、池波正太郎が「オール読物」の連載した時代小説「鬼平犯科帳」の軍鶏鍋屋“五鐡”が登場し、テレビドラマ化して中村吉衛門等が主役の「鬼平」こと火付盗賊改方長官長谷川平蔵を演じて、“五鐡”もすっかり有名になりました。今でもその名に因んだ料理屋が、水戸でも旨い軍鶏鍋を食べさせています。
 脱線が長くなりました。本題に戻ります。
 渡来した「軍鶏」は、その後闘鶏に使われる他に、日本の従来の鶏と全く異なる体型から形を愛でられ、小型化して愛玩用とされる種類が作られました。それらがまとめて「軍鶏」として昭和16年に天然記念物に指定されています。なお、このように小型化して愛玩用とするのは日本ばかりではなく、ヨーロッパでは殆どの実用鶏の品種に小型種が作られています。
何々バンダムと言う名称の鶏がそれです。天然記念物の指定は日本鶏16種が受けていますが、一番古いのは、大正12年に指定された土佐の尾長鶏です。この鶏のみ昭和27年に特別天然記念物に昇格しています。軍鶏の指定の際に、主な飼育県として茨城県の他に、東京都、千葉県、青森県、秋田県及び高知県が挙げられています。
 さて、軍鶏として一まとめに天然記念物の指定を受けましたが、この中には 大軍鶏(おおしゃも)、 中軍鶏(ちゅうしゃも)、 小軍鶏(こしゃも)、 大和軍鶏(やまとぐんけい)、 越後南京軍鶏(えちごなんきんしゃも)、 八木戸(やぎと)などの種が含まれます。闘鶏に使われたのは、大軍鶏と中軍鶏です。また、八木戸は中位の大きさで、軍鶏の闘鶏の稽古相手に使われました。その他の軍鶏は愛玩用です。
 共通した体型の特徴は、頚部は殆ど直立し、羽毛が少なく皮膚の露出部分があること。鶏冠は三枚冠(前や上から見て三枚且つ縦長に分かれている)が主体、 肉髯(にくぜん)、耳朶(じだ)は赤色で小型。胸部は良く発達し、脚部も長く、筋肉が発達しています。脚の色は黄色。
 以下、各鶏の特徴に簡単にふれてみます。(出典「茨城の日本鶏」県畜産センター発行)

大軍鶏 標準体重 雄5,600g(7,500gという記録もある),雌4,900g羽毛の色は赤笹、黒色、白色、黄笹、油種、猩々、浅葱。
中軍鶏 標準体重 雄3,800g,雌3,000g
その他大軍鶏に同じ
小軍鶏 標準体重 雄1,000g、雌800g
羽毛の色は大軍鶏の色プラス白笹、金笹、銀笹、濃猩々、碁石、鈴波。
羽毛が短く、体ぴったりと付いて、きりっと締まった面構えをしています。狭い場所でも飼育できること、小さな体にアンバランスな精悍さが可愛らしいことなどから人気が有り、近頃の品評会では矮鶏(ちゃぼ)と並んで出品点数の大半を占めることが多くなっています。
大和軍鶏 標準体重 雄1,700g,雌1,500g羽毛の色は小軍鶏の各種色から銀笹、濃猩々を除いたもの。
この鶏のみ軍鶏と書いて“ぐんけい”と読ませます。
昔、中国地方で飼育されていた中型の短脚軍鶏で「通事」と呼ばれていた鶏が基となり、関東地方で改良されたものがこの鶏だと言われます。特徴は顔面に深い皺が多く、目が見えないくらいで、見るからに凄みを感じさせます。
越後南京軍鶏 標準体重 雄950g,雌750g羽毛の色は赤笹、黄笹、黒色。
頭部が小さく、羽毛が深く、脚がやや短い。他の軍鶏と体型がやや異なっており、矮鶏と交配されたものと思われます。
八木戸 標準体重 雄2,600g,雌2,100g羽毛の色は黒色のみ。
三重県の産で軍鶏の闘鶏の稽古相手を務めたことから、根性があって死んでも鳴かないと言われており、可哀想な鶏です。

なお、文中に出てくる鶏の羽毛色の呼称に、この世界独特の用語がありますので、機会があったらご紹介したいと思います。




大・中軍鶏(しゃも) 赤笹種

越後南京軍鶏(えちごなんきんしゃも) 赤笹種

小軍鶏(しゃも) 赤笹種

八木戸(やぎと) 黒色種

大和軍鶏(やまとぐんけい) 赤笹種
 写真が手に入りませんが、軍鶏の仲間で秋田県の天然記念物です。
 標準体重雄1,800g、雌1,400g羽の色は、黒色のみが公認されています


金八(きんば)