国内産の安心な自給飼料として期待されている稲WCSは、本県では順調に作付けを拡大し、現在では300haを超えるまでになっています。この稲WCSの取り組みの初期において、利用する酪農家側では稲WCSの品質や供給量が不安定であったこと、また乳量や乳質などへの影響を考え、主に乾乳牛や育成牛に給与していることが多く、泌乳牛への給与が課題でした。
 そこで、畜産センターでは平成17年度から独立行政法人中央農業総合センターからの委託研究として、地域農業確立総合研究「関東飼料イネ」の中で、泌乳牛への給与方法を検討してきました。具体的には稲WCSを泌乳牛へ給与すると、乳量や飼料摂取量にどのような影響を及ぼすか調査し、適正な給与量や方法の確立を行うための給与試験を実施しました。今回その成果についてご報告します。


稲WCS給与風景

稲WCSのロール(平成17年産クサホナミ)
1 稲WCSはオーツヘイ等の輸入粗飼料との代替が可能である
 通常給与していた輸入粗飼料のオーツヘイを全量稲WCSに置き換えて給与し、影響を調査する試験を行いました。分娩後25〜78日の搾乳牛6頭を3頭ずつ2区に分け、配合飼料、アルファルファヘイキューブ、ビートパルプを両区の共通飼料とし、それぞれの区で稲WCSとオーストラリア産オーツヘイを日本飼料標準による泌乳牛の維持+乳量のTDN※1要求量が100%になるよう設定し、3週間給与しました(稲WCSは7.8〜9.5/日・頭)。試験期間は自給飼料の不足する時期に稲WCSを利用するという想定で9〜10月に設定しました。
 結果は乾物摂取量、体重変化、乳量、乳成分、血液性状において両区に差は認められませんでした。しかし、暑熱等の理由により両区とも飼料摂取量にバラツキが生じTDN、CP※2とも充足率が100%以下になり、このため乳量についても若干低い状況でした。

2 夏から秋に稲WCSを給与する場合、輸入粗飼料と混合して給与する方が効果的である
 オーツヘイと稲WCSの比率を変えて混合給与し、影響を調査する試験をしました。共通飼料は試験1と同様でTDN要求量が110%になるよう、稲WCSとオーツヘイの乾物重量の比がほぼ3:1、及び1:1とする2区を設定し、比較しました。試験牛は泌乳中後期の搾乳牛を各区3頭ずつにし、給与は3週間、試験期間は試験1と同様の理由で8〜10月にしました。
 結果は乾物摂取量、体重変化、乳量、血液性状にほぼ差がありませんでした。また、乳脂率は稲WCS多給区でやや低い傾向が見られましたが、その他の乳成分に差はありませんでした(表1)。この試験ではオーツヘイと稲WCSを混合給与したところ、採食状況も安定し、TDN充足率も100%以上を維持しました。

 試験1で給与粗飼料のオーツヘイを全て稲WCSに代替すると区間差はありませんが、TDN充足率や乳量に課題がありました。2つの粗飼料を混合して給与することで給与比率に違いを設けても両区に差がなく乾物摂取量、泌乳成績は十分でした。よって、この試験での給与量や手法は県内酪農家が稲WCSを利用するための目安になると考えます。

3 酪農家での給与実証試験を行い、稲WCSの他の粗飼料との混合給与には特に影響がないことを確認しました。
 今まで搾乳牛に稲WCSを給与したことがない酪農家で実証試験を行い、稲WCS給与前、給与中、給与後の乳量・乳質等の変化を調査しました。泌乳中後期の搾乳牛12頭に稲WCSを原物6/日・頭、40日間給与しました。
 結果は稲WCS給与開始後に多少の乳量の減少が認められましたが、これは泌乳中後期の牛に見られる自然な乳量の減少でした。また、乳脂肪率がやや減少しましたが統計的な差はなく、その他の乳成分や体重、血液性状にほぼ変化はありませんでした(表2)。
 この他、分娩前後の牛にオーツヘイの代替として稲WCSを原物で6kg/日・頭給与した群と、慣行時の飼料給与群とを比較する試験も行いましたが、乳量や血液性状等への悪影響は認められませんでした。

4 まとめ
 この試験で稲WCSを実際に給与したところ、泌乳牛は食べ残すこともなく、計算した量を食べさせることができました。これまで稲WCSは供給量も少なく、泌乳への悪影響を心配して育成主体で使われてきましたが、この給与実証試験において泌乳成績に特に影響がなかったことから、泌乳牛に対しても輸入粗飼料の代替として利用することが可能と言えます。また、飼料価格が高騰した昨年のような場合では、農家が選べる選択肢のひとつとして有用な飼料です。
※1 可消化養分総量
表1 稲発酵粗資料主体給与の比較 畜産センターの成績

項目 単位 試験前3週 イネ多給区※2 イネ等量区※2 試験後3週

6頭※1平均乳量 kg/day 31.6 31.6 32.1 30.2

乳脂率 3.98 3.76 4.14 4.14

乳蛋白質率 2.99 3.31 3.30 3.29

無脂固形分率 8.48 8.79 8.79 8.79

※1試験牛は、分娩後平均124.7日経過したもの
※2イネ多給区:イネはオーツの3倍量(平均イネ6kg採食)、等量区はオーツと等量(平均4kg採食)

※2 粗タンパク質
表2 農家給与実証試験における泌乳成績

項目 単位 給与前 給与中 給与後

12頭※平均乳量 kg/day 38.3 34.0 30.3
乳脂肪率 3.66 3.49 3.76

乳蛋白質率 3.28 3.29 3.35

無脂固分形率 8.93 8.90 8.92

体細胞数 千/ml 44.8 105.8 56.2

※試験牛は、分娩後平均156.3日経過したもの