現在、低コスト化、省力化のための放牧と休耕田や耕作放棄田などの解消を組み合わせた水田放牧が注目されています。このような背景の中、管内の和牛一貫農家が独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構中央農業総合研究センター及び結城地域農業改良普及センターの指導のもと、水田放牧を行っています。そこで、当所では、畜舎内飼育とは異なる疾病の発生の予防のために、当該農場の水田放牧における放牧病の実態を把握し、それらに対する対策を検討しました。

 水田放牧の風景

 農場の概要
 飼養形態は、和牛一貫経営で、飼養頭数は繁殖和牛約90頭、育成牛約10頭、肥育牛約120頭です。また、繁殖和牛の約40頭を水田放牧しています。
 当該農場は、2003年から牛舎のあるS地区と13離れたO地区で飼料イネを耕作し、利用していましたが、イネホールクロップサイレージ(以下、イネWCS)の収穫調整や遠いO地区から牛舎への運搬、給与に経費や労働負担が大きくかかっていました。そこで、2006年から、O地区において、飼料イネの生産と放牧を組み合わせた水田放牧によって省力化を図っています。放牧牛の飼養管理、転牧及び飼料イネや牧草の栽培は耕種農家が行っていますが、牛の飼育未経験の耕種農家でも管理は容易にできています。
 繁殖牛は、種付けし、妊娠確認できたら水田に放牧します。水田には約200日間放牧され、分娩の2〜3週間前に牛舎にもどり、分娩します。当所では、水田における放牧病として、肝蛭症と小型ピロプラズマ病について検査を行いました。
検査疾病
1.肝蛭症
 肝蛭は中間宿主のヒメモノアラガイが水田や用水路等の水系に広く分布しており、環境が汚染されると蔓延の危険性が高い疾病です。また、感染すると肝廃棄や生産性の低下など経済的被害が大きく、人にも感染するため、公衆衛生上も重要な疾病です。
2.小型ピロプラズマ病
 本病は中山間地域で問題になっている重要な放牧病の一つで、本病を媒介するダニはあらゆる野生動物に寄生し、牧野に広く生息しています。しかし、平野部にある水田では、野生動物の出入りは少ないため、ダニは少ないと考えられましたが、本病がどれくらい浸潤しているか不明であったため、検査を行いました。

材料、方法および結果
1.肝蛭症
 表1のとおりです。
2.小型ピロプラズマ病
 放牧牛について10月と11月の2回、舎飼牛について12月に採血し、ヘマトクリット値(以下、Ht値)及び寄生度(以下、P度)(表2)を測定しました。
 Ht値の結果は、図1のとおりで、放牧牛と舎飼牛を比べると舎飼牛の方が高い傾向でした。P度の結果は、放牧牛ですべての牛に寄生が見られ、舎飼牛については、寄生のないものが増加し、P度3以上はいませんでしたが、放牧未経験の未経産牛で寄生がみられたものもいました(図2)。以上のように放牧牛と舎飼牛でHt値、P度ともに差がみられました。
 また、10月から11月でHt値が改善した牛は14頭中11頭おり、P度の改善がみられた牛は14頭中5頭でした。そのうち、4頭はHt値、P度ともに改善が見られました。

まとめ
 今回、肝蛭検査は陰性であったことから、今後の予防策として、非感染牛の導入や、感染源であるメタセルカリアは酸に弱いことから、発酵品質の優れたイネWCSの給与が重要となります。
 小型ピロプラズマ病については、今回の検査では、高率な感染が確認されました。このことから、フルメトリン製剤によるダニ対策が必要です。当該農場では、放牧開始から1ヶ月は体重が低下するため、その間の健康状態が重要となります。従って、フルメトリンを入牧時に滴下することで、牛に最もストレスの係る時期はカバーできます。その他に、日常の観察で異常を早期に発見し速やかに対応することも重要となります。
 11月にHt値の改善がみられたことについては、半分はP度の改善がみられたため、気温の低下に伴いダニの活動が低下し、新規感染が減少したことが推測されました。また、飼料が牧草からビタミンE含量の多い飼料イネに変わったことで、ビタミンEの抗酸化作用により赤血球の酸化が抑制されることで、赤血球の破壊が抑制されていることも推測されました。さらに放牧未経験の牛でも寄生が見られたことから、放牧帰還牛がダニを牛舎に持ち帰っていることが推測されましたが、舎飼の放牧経験牛でP度3以上のものはなく、0のものも多いことからダニを持ち帰っても、ダニの増殖が抑えられていることが推測されました。さらに、Ht値も改善していることから、一旦畜舎に戻ることで、ピロプラズマ原虫による貧血症状が改善することがわかりました。
 今後の対策及び対応としては、水田放牧は利点の多さから今後も増加が予想されるため、放牧牛の衛生管理を行う耕種農家に対しても、牛の飼養衛生管理対策の啓発が必要であると思われます。

表1

採材月 材   料 方 法 結 果

10月  23頭の直腸便(2牧区)   渡辺法  虫 卵

   
 10ヶ所の排泄便(3牧区)  未検出

12月  34頭の直腸便(2牧区)  抗原検出用 陰性
 ELISA 

表2 P度

原虫寄生赤血球無し

10視野に原虫寄生赤血球1個以下

10視野に原虫寄生赤血球2個以下

各視野に原虫寄生赤血球1個以上

各視野に原虫寄生赤血球10個以上

図1 Ht値

図2 P度