豚コレラは法定伝染病で豚、イノシシに強い伝染力をもつ熱性伝染病であり、急性型の場合は高い致死率を示します。
 平成4年以降、国内で本病の発生がないため,平成12年10月1日に家畜伝染病予防法第50条の規定に基づく都道府県知事の許可を受けた一部の豚を除いて、原則としてワクチン接種は禁止され、平成18年4月1日には全面的に中止されました。その1年後の平成19年4月1日には国際獣疫事務局(OIE)の規定に従い、日本は国際的に本病の清浄国と認められました。しかし世界的には本病の発生は継続しており、国内への侵入防止の徹底と清浄性維持の確認は不可欠となっております。

【豚コレラ防疫対策】
 国内では本病の清浄性維持の確認のため「豚コレラに関する特定家畜伝染病防疫指針」(以下、「HC防疫指針」)に基づき本病の毎年度一回の臨床検査と、万一発生した場合に備えての防疫演習を実施しています。本県ではさらに「豚コレラ清浄度維持確認調査」として県内全ての養豚場について3年間(平成18年〜20年度)かけて抗体検査を実施しています。
 今回この県事業で、本年4月9日に管内の養豚場の立入検査を行ったところ、豚コレラ抗体陽性豚摘発事例があったのでその概要を報告します。

【発生農場概要】
 抗体陽性事例が発生した養豚場は、H社(本社:栃木県)の預託農場でした。同社は複数県(千葉、栃木、群馬、福島、茨城)に直営及び預託農場をもつ大規模経営であり、防疫対応はこれらの県を巻き込む広域的なものとなりました。
【経過】
 4月9日 当該農場へ立入検査を行い豚コレラに特徴的な臨床症状がないことを確認し、採血を行いました。
 4月10日 抗体検査を行ったところ10頭中2頭に陽性を確認したため、HC防疫指針に基づき当該農場へ移動自粛の要請と聞き取り調査等を実施しました。
 4月11日 再度当該農場において採血・抗体検査を実施した結果、69頭中11頭に抗体陽性を確認しました。
 4月12〜14日 県内のH社の関連農場(19農場)へも立ち入り調査が実施されました。この結果、本病に特徴的な臨床症状は示していないものの、4農場で抗体陽性豚を確認しました。この抗体陽性豚を飼養する農場(以下、抗体陽性農場)の豚については抗原検索(豚コレラ蛍光抗体法)を実施し、すべて陰性を確認しました。
 4月21日 抗体陽性農場で11日に検査した同一豚を再度採血・抗体検査を実施し、有意な抗体価の上昇は認められませんでした。
 その後他県での立入調査の結果、H社では、平成18年4月1日のワクチン接種全面中止以降も法第50条に違反し、在庫していたワクチンを接種していたこと認め、また同時に大量の未開封ワクチンが回収されました。同社では繁殖豚に平成20年3月まで年1回定期的にワクチンを接種し、育成豚にも接種していました。そしてこのワクチン接種豚が当該農場へ搬入されていたことが判明しました。
 本事例では4月9日〜21日の検査で本病の特徴的な臨床症状は認められなかったこと、また全ての関連農場における2回の抗体検査による抗体価の上昇が認められないこと、さらに抗体陽性農場におけるウイルス確認検査により野外ウイルスの関与が否定されたことから、4月22日には県内の関連農場全ての移動自粛が解除されました。
 今回の豚コレラ抗体陽性豚摘発事例は、養豚業界を混乱に陥れ、消費者の信頼を揺るがす重大な背信行為であり、本病の清浄性の維持に関係者が努力している中で極めて遺憾な事例です。本事例を教訓として、消費者の信頼を回復し畜産振興を図るためにも生産者サイドにおける高い職業倫理意識を持ち続けて行くことが重要です。