オーエスキー病(以下,AD)は,本県でも,平成3年以降はワクチンを積極的に活用することで,その発生数が激減するとともに,野外ウイルス感染抗体(以下,野外抗体)陽性率も低下し清浄化に向かっています。
 こうした中,それまでADの清浄性を保っていた管内の中心的な種豚場において,平成17年2月に臨床症状はなかったものの野外抗体が確認され,その後迅速な防疫対応によって約1年半で再び清浄農場となることが出来ました。この種豚場の清浄性を維持するには周辺地域のAD清浄化が重要であることから,当所においてこの種豚場を中心とした半径5km圏内の養豚場(以下,周辺農場)について立入検査等を行うとともに,地域の特性を踏まえた周辺地域のAD清浄化に向けたプロトコール(手順)を検討したので紹介します。

ADが侵入した種豚場の清浄化対策の概要
 この種豚場は,厳格な農場の出入り制限など,徹底した衛生管理を行うことでAD清浄性を維持していました。
 しかし平成17年2月に野外抗体が確認されたため,直ちに全ての飼養豚にワクチン接種を行いました。抗体検査では野外抗体陽性率が70%であり,AD野外ウイルス(以下,ウイルス)が種豚場内に広く浸潤していることが分かりました。
 AD野外抗体陽性豚確認後,速やかに外部の学識経験者を交えた豚群清浄化検討会を立ち上げ,血統の維持を図ることを前提に,清浄化の方針を検討しました。その結果,図1のように,血統の維持を図りつつ,野外抗体陽性母豚の淘汰を行うことになりました。
 このような対策によって,平成18年8月にウイルスの清浄化を達成することが出来ました。
 しかし,管内ではいまだウイルスが活動している痕跡があり,ウイルスが種豚場内に侵入するリスクがありました。そのため侵入リスクを低減するためには,地域ぐるみでAD清浄化を目指すことが重要であると考えました。

図1:種豚場でのAD清掃化の流れ

 そこで、当所では、周辺農場のウイルス浸潤状況を確認するため,今回の立入検査及びAD清浄化へ向けた指導などの取り組みを行うこととしました。

周辺農場の概要
 周辺農場は25農場あり,約15,000頭の豚が飼養されています。これらの農場のADワクチン接種状況は表1のとおりでした。

表1:周辺農場のADワクチン接種状況

接種なし母豚のみ子豚のみ母豚
及び子豚
4161425

 繁殖経営農場では,1農場あたり母豚約5頭,その他の農場では1農場あたり肥育豚約10頭を採材し抗体検査を実施したところ,25農場中1農場を除いては全て陰性であり,農場単位でAD清浄化が進んでいることが確認されました。

AD清浄化のプロトコール
1 AD清浄化の基本的考え方
 野外抗体陽性豚は,ウイルスが潜伏感染しているため,再びADの感染源となることから,清浄化を図るうえでは野外抗体陽性豚を農場から排除することが必要となります。さらに,この疾病は生産性を阻害する病気に深く関わっているため,AD清浄化が達成できれば,慢性疾病の発生予防にもつながります。
 一方,養豚農場が密接する地域でのAD清浄化は,ウイルスが容易に空気感染することから,個々の農場で行ってもその効果は薄く,地域の農場が連携してAD対策に取り組み,その地域全体からウイルスを排除することができれば,より強固なAD防疫体制作り上げることができます(図2)。

図2:AD伝播方式

2 清浄化へのステップ
 上述した基本的な考え方を踏まえ,段階を追って地域の清浄化に取り組むことにしました。
(1)AD清浄性レベルの確認(第1段階)
 周辺農場について,それぞれ表2のとおり農場個々のAD清浄化達成レベルを分けることで,地域のAD清浄性を把握する目安としました。
 その結果,レベル2が11農場,レベル1が14農場でした。そのなかで母豚から野外抗体が確認された農場もありましたが,肥育豚では野外抗体が確認されなかったので,周辺農場ではワクチン接種の継続によってADの清浄化が進んでいることが確認できました。
表2 AD清浄化レベル
(2)農場個別のAD清浄化行動計画(第2段階)
 1)ワクチン接種の徹底
 ワクチン接種について,母豚は抗体価を安定させるため年2回以上,肥育豚は移行抗体が下がる70〜100日齢での接種を徹底するよう指導を行いました。
 2)AD清浄豚の導入の徹底
 ADの清浄化には,陽性豚を導入しないことが基本であることから,AD陰性証明がある豚を導入することを指導しました。もし,やむを得ず未検査豚を導入する場合は,抗体検査を行って陰性を確認するまで隔離飼育するように併せて指導しました。
 3)モニタリング体制の構築
 周辺農場については,現在,当所において年1回以上のモニタリングを行いウイルス侵入を監視しています。今後は周辺農場のAD浸潤状況等のデータを地区内全ての農場間で共有することによって,AD清浄化への連携強化を図ることを検討しています。さらに,個々の農場におけるワクチン接種プログラムを適正化するために,ワクチン抗体保有状況の検査も行うことを検討しています。
(3)地域のAD清浄化への提言(第3段階)
 この地区は、既にレベル2に近い段階までADの清浄化が進んでいます。そのため、この種豚場を中心とした周辺農場に対しては、AD清浄化(ワクチン接種中止)への動機付けを明確にする必要があります。しかし、ワクチン接種中止を目標とした清浄化対策は、本県のような養豚の高密度飼養地域では、農場の理解を得ることは難しく、個々の農場単位でウイルスの清浄性を維持するためには費用と労力がかかることから、現段階でのワクチン接種中止は現実的ではないと考えられました。そこで、まず農場単位でのワクチン接種の徹底を行うことで、この地区からのウイルスの清浄性維持を図り、周辺農場のAD清浄化達成への気運が高まった段階でワクチン接種中止について農場とともに議論したいと考えています。