ハリセファロブス感染症は,線虫によっておこる馬の寄生虫性疾患で,起立困難,意識混濁などの重篤な神経症状を示します。
  本症は1954年にポーランドにおいて初めて報告されて以降,北米を中心に世界各地で63例の発生が報告されています。
  日本では,1981年に東京都で,2000年と2003年に石川県で発生が確認されていましたが,今回国内4例目が管内のポニー牧場で確認されました。
  一方,アメリカ,カナダでは人の死亡例も報告されていることから,本症は人獣共通感染症としても重要な疾病であると考えられます。
  本症の感染経路は未だ解明されていませんが,土壌や堆肥が感染源となり,創傷部位から偶発的に感染するといわれています。

発生経過
  2006年10月末,飼養馬8頭中1頭(ポニー)に食欲不振,ふらつきが見られ,その後数時間で起立不能,意識混濁,遊泳運動を示すようになり(図1),発症から3日で死に至りました。なお,当該馬には年1回の3種混合ワクチン(インフルエンザ,破傷風,日本脳炎)接種と,初夏の頃にはイベルメクチン製剤の投与が行われていました。

成績及び考察
  今回の症例では,腎臓と小脳の病変部から線虫(図2)が検出され,その形態学検査並びに遺伝子学検査から, ハリセファロブス感染症と診断されました。
  ハリセファロブスは創傷部位から感染すると言われていますが,当該馬は最近目立った怪我や手術など大きな傷を負った経験が無かったことから,小さな傷,若しくは傷以外から感染した可能性が考えられました。
  今回は馬の飼養環境から線虫は検出されなかったため,感染源を特定することは出来ませんでしたが,馬房には敷料として木屑が使用され,且つそれが給水や排泄物により適度な湿気と温度が保たれた状況にあり,線虫にとって生育し易い条件が揃っていました。
  以上の事をふまえ,管理者に対しては飼養馬に対して日頃から怪我をさせない,怪我を発見した際には速やかに処置をする,馬房を清潔で乾燥した状態に保つ等,適切な管理と速やかな措置を行うよう指導しました。また人への感染防止のために,従業員や外来者が馬に接触した場合は必ず手洗いを行うよう加えて指導しました。
  当所管内には日本中央競馬会美浦トレーニングセンターをはじめとして多くの競走馬,乗用馬等が飼養されていることから,今後は本症について監視を強化する必要があると思われました。

図1 発症した馬

図2 腎臓内の虫体