管内の肥育農場で22カ月齢の黒毛和種肥育牛が起立不能,弓なり緊張ならびに痙攣を示して急死し,大脳皮質壊死症と診断されました。本症は肥育牛等で主に飼養管理の失宜により時おり発生が認められます。したがって,日頃の適切な飼養管理に努めましょう。

1.発生
 発生は2才以下の肥育牛で多く,特に12カ月齢までの発育の良い若齢牛で多く発生します。また離乳直後のホルスタイン種の子牛や2才以上の搾乳牛にも散発しています。
 季節的には夏〜秋に多く発生します。

2.原因
 本症はチアミン(ビタミンB1)が欠乏することで発症します。チアミンとは,糖代謝に必須の物質であり,欠乏すると糖エネルギーに依存の高い大脳皮質が壊死し,神経症状を発現します。
 通常,牛は消化管内で十分な量のチアミンを合成するため,チアミンを給与する必要はないとされています。
 なぜチアミンが欠乏するのかは完全には解明されていませんが,次のような原因が考えられています。
(1)濃厚飼料の多給,粗飼料不足,飼料の急変,カビの生えた飼料の給与などにより第一胃内の環境が変化(ルーメンアシドーシス)し,チアミナーゼ産生菌というチアミンを分解する菌が増え,チアミンの破壊が著しく亢進する。
(2)炭水化物が多給されるとチアミン要求量が高まりますが,子牛は第一胃が未発達でチアミン合成能が不十分なため欠乏しやすい。
(3)チアミンの吸収能力が低下する。

3.症状
 本症は神経症状を特徴とする代謝性疾患で,短期間に急死します。発生は突発的ですが,注意深く観察すると半日〜1日前に下痢便が見られることがあります。
 体温は正常範囲内で呼吸数・脈拍にも特に異常は見られません。しかし歩行困難のため集団から孤立することで発見されます。この時食欲と元気は著しく減退します。
 さらに症状が進行すると,次のような様々な神経症状を呈します。歩様異常,盲目,身体各部の振戦(眼瞼,耳及び鼻鏡部),眼球振とう,痙攣,弓なり緊張,歯ぎしり,起立不能,失神,昏睡など。
 症状が急性・重度な場合は,速やかに適切な治療が行われないと2〜4日で死亡します。

4.診断
(1)病理検査 
 大脳に紫外線(365nm)を照射すると,本症であれば壊死部分が自家蛍光(黄白色)するので,その有無を確認し,最終的には組織標本で診断を行います。

紫外線照射で自家蛍光する大脳の異常部分
(2)生化学的検査
 血中,大脳皮質及び肝臓のチアミン濃度の測定などを行います。

5.予防
 本症の予防には良質な粗飼料を給与し,適切な飼養管理により,健全な第一胃機能を維持することが重要です。また本症の発生が過去にあった農場ではチアミンの飼料添加を日常的に行うことが推奨されています。