○はじめに
 酪農経営の後継牛確保については、初妊牛価格の高騰により、経営内での確保が必要となっています。そのため、自家育成が一つの課題となっています。
 乳牛は豊富な粗飼料を給与することで胃を発達させながら、24ヵ月齢で初産分娩を迎えることが目標とされています。しかし、本県の平均初産分娩月齢は牛群検定成績で、H16年・26.1ヵ月、H17年度・25.8ヵ月齢と26ヵ月齢前後を推移しています。
 このため、本試験は7県の協定研究により、授精適期の体重350kgまでの日増体量(DG)を1.0kgに高め、10〜11ヵ月齢で授精することにより、21ヵ月齢で初産分娩を迎える飼養管理を検討しました。
○方 法
 本研究は、一次、二次試験で構成されており、一次試験は授精時期までの増体速度と飼料中の粗蛋白質(CP)含量の違いが、発育と乳生産性に及ぼす影響について検討しました。
 二次試験は、授精時期までの日増体量(DG)を1.0kgに高めた場合の飼料中分解性蛋白質(CPd)および非分解性蛋白質(CPu)含量が発育と乳生産性に及ぼす影響について検討しました。
 一次、二次試験共に生後90日齢から体重350kg(授精適期)までの期間、試験飼料を給与しました。試験区の構成は表1の通りです。
表1 試験区の校正
○一次試験結果
●育成成績 
 表2に一次試験の育成成績を示しました。
表2 一次試験育成成績
 各区のDGは設計値より高く、LL区が目標のDG1.0kgに最も近い0.95kgでした。DG1.0kgに設計したHL、HH区は約1.10kgで、LL区に比べ有意に高い(P<0.01)増体でした。
 体重が350kgに達した日数はDGを高めたHL、HH区がLL区より40日程度早く(P<0.01)なりました。なお、350kg到達時の各体格値は3区に差は無く、DG1.00kgを超えて発育させても体格への影響はありませんでした。
 乾物摂取量及びTDN摂取量は区間での差は認められず、育成期間を短縮しても摂取量は変わりませんでした。一方、CP摂取量は設計通りHH区が他の2区に比べ有意に高く(P<0.01)摂取しましたが、血中尿素態窒素値が16mg/dl以上と高く(P<0.05)推移したためCP過剰と考えられました。
 CPを高めても、350kg到達時の体格に差はなく、供給過剰という結果から、CP水準は14%程度で充分と考えられました。
 また、受胎月齢はLL区13.7、HL区11.8、HH区12.7ヵ月齢でした。受胎に要した授精回数は、3区共に2回程度であったことから、高増体による繁殖への影響は認められませんでした。
●分娩時状況及び泌乳成績
 表3に初産分娩状況及び泌乳成績を示しました。
 各区の初産分娩月齢はLL区23.0、HL区21.2、HH区21.8ヵ月齢でした。LL区は350kgまでのDGが0.95kg、高増体区(HH区、HL区)は1.1kgでした。このためLL区が21ヵ月齢に最も近いと想定していましたが、3区共に350kg到達から受胎まで約1ヵ月程度かかり、高増体区が21ヵ月に最も近い結果となりました。
 分娩時体重はそれぞれ565kg、531kg、544kgと各区に差はありませんでした。305日乳量はLL区8,361kg、HL区5,863kg、HH区6,908kgで、LL区が他の2区に比べ有意に高く(P<0.01)なりました。これらから、育成時の増体がDG1.0kgを上回っても安全な分娩が可能であるが、高すぎる増体(DG1.1kg)は乳生産性を低下させる可能性があることが示されました。

○二次試験結果
 一次試験の育成成績で高増体区がDG1.1kgを大幅に上回った結果を受け、二次試験では設計DGを0.9kgに下げました。また、CPに関しては、16%で供給過剰でしたが、CPの内容(CPd、CPu)と体重200kgを境に前期と後期に分けることにより、さらに詳細なCPの適正給与量を検討しました。
●育成成績
 表4に育成成績を示しました。
表4 二次試験育成成績

 各区のDGは設計値より高く、LP区、HP区共に1.05前後で、目標のDG1.0kgに近い値でした。
 体高を始めとする各体格値、350kg到達日数(終了時日齢)も区間で差は認められませんでした。また、各繁殖成績も差は認められませんでした。
●消化試験
 消化試験は消化率や窒素出納を確認する試験で、二次試験では体重200kg時と300kg時に実施しました。
 CP消化率は300kg時にHP区が有意に高く(P<0.01)なりましたが、乾物、ADF、GE消化率は差がなかったことから、LP区のCP水準は不足していないと考えられました。

図1 二次試験 窒素出納

 図1に示したとおり、摂取窒素量は設計通りHP区が有意に高くなりましたが(P<0.01)、蓄積窒素量に有意な差は認められませんでした。しかし、尿中窒素排泄量はHP区が有意に高く(P<0.01)なり、HP区のCP量は過剰と考えられました。一方、LP区は表5に示したとおり、総尿排泄量が1割以上低減し、総窒素排泄量も約2割の低減が図られました。これらのことから、発育状況及び環境への窒素負荷を考慮すると、DGを1.0kgとした場合のCP水準は、200kgまで14%、200kg以降は12%程度で十分と考えられました。
●分娩時状況及び泌乳成績
 表6に初産分娩状況及び泌乳成績を示しました。 

初産分娩月齢はLP区21.7、HP区21.3ヵ月齢でした。305日乳量はLP区6,923kg、HP区6,757kgと差は認められませんでした。初産分娩月齢の早期化を図るための高増体管理下では、CPuの増給は、育成期の発育、繁殖及び初産泌乳成績に影響を及ぼしませんでした。
○まとめ
 一次、二次試験と各県の慣行管理牛のデータを合わせて、305日乳量を目的変数、受胎時体重を補助変数、県、試験区を処理因子とする共分散分析を行いました。この結果から、育成期の飼養成績が初産泌乳成績に及ぼす影響として、@ 受胎までのDGはLL区程度とすべきであり、1.0kg以上になると乳量は低下する、A 受胎時体重が大きいほど乳量は増加する、ことが明らかとなりました。
 @を維持しながらAを実現するためには、哺乳期の増体を向上させることが必要と考えられます。当センターでは、今年度よりその技術を確立する試験が開始されています。