本会では損害防止事業の一環として、「乳房炎防除」を実施しています。手法としては、全搾乳牛の生乳中細菌検査を主体とし、併せて搾乳立会(搾乳手順と搾乳衛生、および搾乳機器等の観察)を実施。後日、グラフや文書等を用いて、搾乳方法や飼養管理の検討をしています。
 以下には、実施した具体的な事例を示します。なお、細菌検査の結果については、伝染性と環境性の原因菌を区分し、伝染性はSA(黄色ブドウ球菌)、SAG(無乳性レンサ球菌)およびCB(コリネバクテリウム)、環境性がCNS(SA以外のブドウ球菌)、OS(SAG以外のレンサ球菌)、CO(大腸菌群)およびOTH(上記以外の細菌)と明記します。また、数値については、頭数感染率(%)を表示します。

県内に多く見られる酪農家:S
 搾乳牛30頭、対頭式繋ぎ飼い牛舎、搾乳2人(A、B)、ミルカー使用数は3台
 搾乳手順:数枚の布を薬剤入りバケツに浸す→取出し絞る→乳房と乳頭の清拭→ミルカー装着→離脱→ノーリターンディッパーにてディッピング
細菌検査結果

搾乳手順における時間経過

図:1

図:2
図:3

分娩と乳頭口の相関グラフ
図:4

図:5

考察および改善事項
 S酪農家では搾乳者Aが清拭を実施し、Bがミルカーの装着以降の作業を実施している。今回、搾乳前の清拭に関して時間的な問題は無いが(図:1)、清拭時の布は、搾乳頭数分以上を用意して1頭1布とし、乳頭のみ清拭すべきと考えた。また、前搾りが未実施であるためにブツ等の発見が出来ず、乳房炎を見過ごす恐れがあるだけでなく、射乳ホルモンを分泌しずらい状況にあると思われた。このため、ミルカーの装着時間が長く(図:2、3)、極度の過搾乳状態に陥っていた。
 これらの作業形態が、産歴に関係なく乳頭口に損傷を与え続け(図:4、5)、細菌等の感染し易い環境を作り、伝染性乳房炎を拡大しつつあると推測出来た。


早期からプレディッピングを実施している酪農家:T
 搾乳牛41頭、対頭式繋ぎ飼い牛舎、搾乳3人(A、B、C)、ミルカー使用数は5台
 搾乳手順:ペーパータオルにて乳頭の汚れ落とし→個体によって(乳房炎のチェック)前搾り→ノーリターンディッパーにてプレディッピング→ペーパータオルにてディッピング液の拭き取り→ミルカー装着→離脱サインを確認して離脱→ノーリターンディッパーにてディッピング
細菌検査結果

搾乳手順の時間経過

図:6

図:7

図:8

考察および改善事項
 T酪農家では搾乳者A、Bがそれぞれ片側づつ作業を実施し、途中からCが作業に加わる形態をとっている。早期からプレディッピングを応用、ミルカーの使用台数は各2、3台であり、ミルカーには離脱サインが点灯するため、搾乳作業に関しては比較的良好に思われた。

 しかし、前搾りの実施が様々であり、牛群に対する搾乳のリズムが見られなかった。本来、プレディッピングは、30秒程度のコンタクトタイムを経過した後、ペーパータオルで拭き取りミルカー装着……と言う作業工程だが、コンタクトタイムを厳守せず、搾乳前処置の時間が異常に長い(図:6)。故に、搾乳前の殺菌に不備があるだけでなく、射乳ホルモンに合わせたミルカー装着が困難であった。
 T酪農家では過搾乳を防止する為に、離脱サイン付ミルカーを使用しているが、ミルカーの点検等は長期間未実施であり、サインを頼るだけなので、ミルククロー内における生乳の流れを全く確認していなかった。よって、搾乳時間が異常に長くなる傾向にあった(図:7、8)。
 これらの結果がS酪農家と同様に、菌の感染し易い環境を作っていると考えられた。
 今日までに、多様な酪農家の搾乳立会を実施しましたが、改善の有無は様々であり、最終的には酪農家自身の意識が重要と思われます。