平成17年6月26日に茨城県内の養鶏場で見つかったH5N2亜型の高病原性鳥インフルエンザは,その後の関連農場の検査や清浄性確認検査により県内40農場の約570万羽で感染が確認されました。
 鳥インフルエンザについては,これまで鶏肉や卵を食べることによって人に感染したという事例の報告はなく,今回のウイルスは弱毒タイプでしたが,鶏へのまん延及び常在化を防ぐとともに,将来強毒タイプに変異する怖れもあることから感染鶏の処分作業を行いましたので,殺処分についてその概要を報告します。

1 殺処分(表1)
 発生農場の鶏舎形態は,昔ながらの開放型鶏舎〜近代的なウインドウレス鶏舎,その内部も6段ゲージや通路の狭い鶏舎,衛生環境も優良なものから劣悪なものまで様々であり,殺処分の方法もそれに合わせた形で効率的に行わなければなりませんでした。
(表1)
(1)ポリバケツを用いた方法
 この方法は,どのような鶏舎形態にも応用可能であり基本的作業方法です。台車に乗せた90gポリバケツに,ケージから取り出した鶏を15〜20羽投入します。しかし,鶏の取り出し口が高いところにあると足場の不安定な作業になることも多く,多段ゲージでは逃げ鶏が多くなってしまいます。そこで直径30p程度の筒を利用し250g大型ポリバケツに鶏を投入するようにしたところ(図1),効率的に作業ができました。
(図1)
 炭酸ガス注入場所へ移動する際,通路の狭い農場が多く,一方通行とした方が(図2),より効率的に作業が進みました。
(図2)
 炭酸ガスの注入は(図3),当初フタとの隙間から15〜20秒間行っていましたが,ガスの無駄が多かったので,ポリバケツに直径12oの穴をあけ,ガスを注入するように改良してからは,5〜10秒間の注入で充分な効果が得られました。
(図3)
(2)輸送コンテナを用いた方法(図4)
 輸送コンテナ(幅1.6m高さ2.0m奥行き4.5m)に鶏を入れた専用台車(ラック)を納め扉を閉めた後,炭酸ガスを30Kgボンベ1本分注入し,10分間放置後,鶏体を取り出しました。
  輸送コンテナにはラックを最大12台納めることができるので,1回に1,400羽近くが処分でき,また生き残るような例もなく動物愛護精神に優れた方法と言えます。
(図4)
(3)鶏舎密閉による方法
 比較的密閉度の高いウインドウレス鶏舎等において,直接鶏舎内に炭酸ガスを注入することで殺処分するものです。
 一例を紹介すると,炭酸ガスは1m3あたり1.6s鶏舎内に注入しましたが,予め鶏舎はガスの漏出を防ぐために換気扇や排気口の目張りを行った他,ガス注入前の確認で鶏舎にあいた穴も,粘着テープ等で塞ぎました(図5)。
(図5)

注入作業は,鶏体の搬出作業を行う前日の夕方から行い,ガスの充満した舎内は大変危険なので,立入禁止の張り紙をよく見える位置に数カ所張るとともに入り口を閉鎖し,絶対に鶏舎内に立ち入ることの無いようにしました。
 翌朝の鶏体搬出時には,殆どの鶏は死亡しているものの,今回約2万羽中180羽(0.9%)が生き残ってしまいました(図6)。生き残った鶏は鶏舎の入り口近くで上段のケージに入っていたものに集中しており,一部の目張りが不十分だったことが原因と推定されました。鶏舎密閉による殺処分の成功は,いかに鶏舎から炭酸ガスの漏れを少なくするかが重要であると思われました。この方法は,搬出作業の迅速性や,作業従事者の精神的・肉体的負担を軽減するという点で非常に優れていました。
 さらに,この方法のメリットは,鶏舎内の衛生動物(ネズミ)も同時に駆除でき,ウイルス拡散の危険性も少なくなるものと推察されました。
(図6)
以上,鶏の殺処分は全て炭酸ガスを用いて行いました。それは@ウイルスの拡散防止A迅速な作業B動物愛護精神の尊重C作業従事者の心理的・肉体的負担の低減D入手しやすさE比較的安価であることによるものです。
 そして,その方法における第一の選択肢としては鶏舎密閉による方法を検討し,それが不可能であると判断された場合は輸送コンテナを用いた方法を,さらに鶏舎構造や資材・作業場所の確保等でそれも難しい場合には,汎用性の高いポリバケツによる方法を選択すべきであり,またはこれらの方法を組み合わせて,より効率的な作業形態のフレキシブルな選択が重要であると思われました(図7)。
(図7)




【畜産学科の学生】
 茨城県立農業大学校は,幅広い視野と豊かな人間性の形成を図り,時代に即応できる経営感覚に優れた農業者及び農村社会の担い手,農村地域において指導的役割を果たし得るにふさわしい者の教育を目標としおります。

◆お問い合わせ先 〒311-3116 茨城県東茨城郡茨城町長岡4070-186  《入試事務局》 пF029-292-0010