はじめに
 一般的に,放牧地で育成した子牛は,舎飼育成の子牛に比べて発育の遅れが懸念されていますが,骨格や内臓機能等の発達や育成期の過肥を防ぐことから,肥育牛としての仕上がりは良いという評価もあります。
 そこで育成期に適度な放牧を行った場合,その後の発育と枝肉成績に及ぼす影響について舎飼育成との比較・検討をしました。

試験区の概要
 県内の和牛繁殖農家を巡回し,同じ月齢の明光4の産子を選定しました。供試牛は生後2ヶ月齢で親子分離し,全農茨城県本部肉用子牛哺育育成センターで3ヶ月齢まで人工乳,哺乳子牛育成用配合飼料で飼育しました。その後の育成期に,放牧区は肉用牛研究所内の放牧地に移動し,舎飼区は哺育センターの育成牛舎でそれぞれ10ヶ月齢まで育成しました。肥育期は放牧区,舎飼区とも哺育センターで同じ飼養管理により11ヶ月齢から30ヶ月齢まで肥育しました(図1)。



図1 試験区の概要

飼養管理
 放牧区は牛舎と自由に出入りできる5種混播の草地43aを,舎飼区は25.01u(4.1m×6.1m)の牛房で群飼を行いました。両区ともチモシー乾草を飽食とし,濃厚飼料は全農茨城県本部の子牛育成マニュアル(表1)に従い給与しました。また,肥育期は全農茨城県本部の肥育マニュアル(表2)に従い給与しました。
  表1 飼料給与マニュアル(育成・雌)

  表2 飼料給与マニュアル(肥育・雌)

育成試験の成績
 育成試験終了時の1日当り増体量は放牧区0.91kg,舎飼区0.85kgで,体重,体高,十字部高,胸囲,胸深,胸幅,尻長,腰角幅,かん幅,坐骨幅の部位で増加量は放牧区が舎飼区を上回ったが,いずれの項目も両区に有意差は認められませんでした(表3)。

表3 育成試験体格値(kg/cm)

 肥育試験の成績
 肥育試験終了時の1日当り増体量は放牧区0.70kg,舎飼区0.62kgで,体重,体高,胸囲とも放牧区が舎飼区を上回ったが,いずれの項目も両区に有意差は認められませんでした(表4)。

表4 肥育試験体格値(kg/cm)

 枝肉成績の結果は表5のとおりで,格付けは,放牧区がA5:2頭,A4:2頭,舎飼区がA5:1頭,A4:3頭,A3:1頭でした。また枝肉重量,胸最長筋面積,ばらの厚さ,BMSaC脂肪交雑等級,肉色,脂肪の色のすべてについて放牧区が舎飼区よりよい傾向がみられましたが,試験区間の差はみられませんでした。

表5 枝肉成績

まとめ
 明光4の娘牛を用いて育成,肥育を実施したところ9頭中8頭が常陸牛相当の格付けとなりました。育成期に適正な飼料給与を行った場合,放牧区,舎飼区ともに育成期及び肥育期における発育と枝肉成績には差が認められませんでした。このことから育成期において適度な運動ができる放牧地やパドック等を活用することで,その後の肥育期における産肉性や肉質の向上効果が期待できると考えられました。

 この試験は,供試牛を提供していただいた繁殖農家の方々,および水戸農業協同組合,茨城ひたち農業協同組合,茨城みずほ農業協同組合,大子町畜産農業協同組合,水戸農業共済事務組合,茨城北部農業共済事務組合,全農茨城県本部家畜市場の協力のもとに行いました。関係者の方々へこの紙面を借りて深謝いたします。